東京国際映画祭と並行して開催されるアジア最大級の映像コンテンツマーケット「TIFFCOM 2024」にて、「生成AIが映画にもたらすチャンスとリスク、未来像」と題したトークセッションが開催された。
生成AIのインパクトは社会のあらゆる面に及ぶことが予想されるが、映画産業も例外ではない。AIの普及は映画製作を劇的に変え、これまでにはない可能性を開くことが期待される一方で、著作権侵害の問題や既存クリエイターの立場を脅かす危険性も指摘される。
本セッションでは、そんなAIを巡る法的整備やグローバルマーケットにおける投資動向、さらに人間のクリエイティビティをいかに維持していくかが議論された。
本セッションのモデレーターは、TIFFCOMエグゼクティブプロデューサーであり、BrioNexus CEOであるアンドリヤナ・ツヴェトコビッチ氏が務め、経産省の文化創造産業課長・佐伯徳彦氏、韓国の映画プロデューサーでありAIデジタルアーティスト、ケビン・D.C・チャン氏、シンガポールのNプライム・パートナーズ会長/デジタル・メディア投資委員会のニコラス・アーロン・クー氏が登壇。映画と生成AIの未来について語った。

経産省はコンテンツ産業発展のためAIを重要視
アンドリヤナ氏によると、生成AIをめぐって映画産業は、急速な変化を迫られ混乱した状況にあるという。そして、すでに制作の現場から配給、興行収入の予測やマーケティング分析、キャスティングの決定にAIは利用されていると語る。さらには、外国語のボイスオーバーに合わせて俳優の口の動きを変えるような試みまで行われているという。
映画産業の様々な場面でAIが活用されることは、新しい可能性を生む一方で、著作権の課題を浮き彫りにし、スタッフが職を失う危険性なども生じている。しかし、アンドリヤナ氏は「AIが人間の創造性に取って代わるのではなく、AIが人間の創造性を向上させる道を切り開く必要があります。テクノロジーがアーティストに役立つ未来を作り上げなければなりません。その逆ではありません」と強調した。

最初に、経産省の佐伯氏がプレゼンを行った。経産省や国においても生成AIの活用は活発に議論されており、生成AI活用のガイドブックを作成している。日本政府は、2033年までのコンテンツ産業の海外売り上げを2,000億ドルにすることを目標に掲げており、そのためにAI技術は重要だと考えているという。なぜなら、AIによってコンテンツ制作期間を短縮できる可能性があるからだ。

その上で、佐伯氏は3つのポイントを上げた。
1つ目は、AIはすでにコンテンツ産業において活用されているということ。ストリーミング会社のレコメンデーション機能や字幕、制作現場においてもバーチャルプロダクションなど、多くのプロセスでAIが活躍している。
2つ目は、低品質の作品が市場に溢れて崩壊してしまうことは懸念すべきことだとした。佐伯氏は、80年代のゲーム産業で起こった「アタリショック」を引き合いにしてそのように説明した。そのような事態を招かないように、クリエイターが付加価値を生み出すことを念頭に置くべきだと語る。
3つ目は、生成AIに対する政府のアクションについて、アニメーションにおける動画の中割などの分野の研究を例に挙げ、研究・開発の面でサポートしていると紹介した。そして、ガイドラインを発行してコンテンツ制作者のためのAI活用の方針を示していくという。
AIによって映画の投資リスクは軽減する?
韓国の映画プロデューサー、ケビン氏は、AIの可能性に興奮し、自らその活用方法を研究、1人でオリジナルのCMやイメージ映像を作成しており、その映像が披露された。世界中の様々な場所を舞台にしているが、大部分をAIで作成したという。事前にAIと言われれば気が付くかもしれないが、初見では見破りにくい完成度だ。
