東京国際映画祭には世界中から多くの映画人が集まる。各国から選ばれた作品の関係者やジャーナリストのみならず、併催されるコンテンツマーケット「TIFFCOM」には、企画を温める製作者やバイヤー、配給会社なども数多く集まり、交流の場ともなっている。
今年、カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に選出された早川千絵監督作品『ルノワール』はこうした映画祭などで築かれるネットワークを土台にして製作が実現した作品だ。
本作は日本、フランス、シンガポール、フィリピン、インドネシア、カタールの6か国の国際共同製作によって製作された。近年の日本映画の国際化を象徴する1本だと言っていいだろう。
その各国のプロデューサーが東京国際映画祭に集まる機会があるというので、Brancはクリエイター等育成プログラム「Film Frontier」と共同でトークイベントを開催。本作のプロデューサー陣が登壇して、国際共同製作の貴重な体験談を語ってくれた。
登壇したのは、日本からローデッド・フィルムズの水野詠子氏とジェイソン・グレイ氏、フランスからクリストフ・ブランシェ氏、フィリピンからアレンバーグ・アン氏、インドネシアからユリア・エヴィナ・バラ氏。6カ国という異例の規模で進行する国際共同製作の舞台裏が明かされた。
必然から生まれた「6カ国」のパズル
近年、世界の映画産業においては、複数の国から資金調達する事例は常識化している。日本にもその流れができつつある昨今だが、6か国となるとまとめるのも難しそうだ。なぜ、このような複雑なスキームによって『ルノワール』は作られたのか、そこには早川監督のクリエイティブ面での要望と、監督のビジョンを実現させようとするプロデューサー陣の緻密な設計図があった。
水野氏と早川監督は前作『PLAN 75』でも国際共同製作による映画作りを経験しているが、この時、ポストプロダクション作業をフランスで行ったそうだ。早川監督は今作でも同様にポスプロにおいてはフランスとの協業を望み、これによりフランスの参加が決まる。
そして、撮影監督はシンガポール在住の日本人・浦田秀穂氏を起用したいという意向があり、前作は実現しなかったシンガポールのプロダクションの参加も決定。さらに「日本とは異なるルックの海が撮影に必要となり、『PLAN 75』にも参加したフィリピンのプロデューサーであるアレンバーグ氏に相談して、フィリピンの出資と撮影協力が実現した。
それから、ポストプロダクション段階で資金ギャップを埋めるために、2018年以来の友人であるインドネシアのユリア氏に声をかけ、さらにカタールからの助成金も獲得。クリエイティブな必然性と監督のビジョン、ファイナンスの必要性のパズルを巧みに組み合わせることで6か国の共同製作を構築したという。



