企画開発から海外展開まで伴走支援。長編アニメ支援「Film Frontier」は、『ホウセンカ』の海外展開をどう加速させたのか

「Film Frontier」の「長編アニメクリエイター支援」はどんな支援が受けられるのか。実際に支援対象作品に選ばれた『ホウセンカ』のプロデューサー伊藤裕史氏(株式会社HI Production)に話を伺った。

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『ホウセンカ』プロデューサー伊藤裕史氏
『ホウセンカ』プロデューサー伊藤裕史氏
  • 『ホウセンカ』プロデューサー伊藤裕史氏
  • 企画開発から海外展開まで伴走支援。長編アニメ支援「Film Frontier」は、『ホウセンカ』の海外展開をどう加速させたのか
  • 企画開発から海外展開まで伴走支援。長編アニメ支援「Film Frontier」は、『ホウセンカ』の海外展開をどう加速させたのか
  • アヌシー国際アニメーション映画祭での『ホウセンカ』公式上映時、観客にサインする木下麦監督
  • 企画開発から海外展開まで伴走支援。長編アニメ支援「Film Frontier」は、『ホウセンカ』の海外展開をどう加速させたのか
  • アヌシー国際アニメーション映画祭での上映前の会場の様子
  • (C)2025 A NEW DAWN Film Partners
  • (C)此元和津也/ホウセンカ製作委員会

日本のアニメが世界で人気だ。しかし、その人気は一部の有名漫画を原作とした作品が牽引しており、アニメオリジナルの作品は苦戦を強いられている。

しかし、その逆風に負けずにオリジナルアニメを制作する意思を持ったクリエイターはいる。そんなクリエイターを支援すべく、文化庁の補助金によって独立行政法人日本芸術文化振興会に設置された「文化芸術活動基盤強化基金(Japan Creator Support Fund)」を活用して「Film Frontier」の長編アニメクリエイター支援が立ち上がった。

本プログラムはこれまでに木下麦監督作品『ホウセンカ』や、今年のベルリン国際映画祭コンペティション部門に選出された四宮義俊監督『花緑青が明ける日に』などを支援している。

これらのオリジナルアニメ映画が、世界に打って出るにあたり、Film Frontierの支援がどう作用したのか、実際に支援を受けた『ホウセンカ』のプロデューサー伊藤裕史氏(株式会社HI Production)に話を伺った。


「Film Frontier」長編アニメ支援とは

「Film Frontier」は、グローバルに活躍できる若手人材の育成を目的としたプログラムで、「海外渡航プログラム」「滞在型企画開発支援」そして「長編アニメクリエイター支援」の3つで構成されている。


「長編アニメクリエイター支援」は、監督、プロデューサー、脚本家、アニメーターといったクリエイターを対象に、企画開発から国際展開までを伴走して支援するものだ。

海外展開を見据えた「企画開発」や、完成後の「発表・プロモーション」のプロセスを支援し、資金面だけでなく、専門家による人的なサポートが手厚いのが特徴だ。

具体的な支援内容は、海外展開実績のある人物との面談、セールスや法的な専門家のメンタリング、海外向けのプレゼン資料の作成支援とピッチトレーニング、そして、映画祭やマーケットの渡航支援や企画開発費の支援も含まれる。

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『ホウセンカ』企画成立の経緯

『ホウセンカ』は、アヌシー国際アニメーション映画祭でポール・グリモー賞を受賞した制作会社CLAPが企画し、『オッドタクシー』で注目された木下麦監督と脚本家の此元和津也氏のコンビによる長編劇場アニメだ。独房で孤独な死を迎えようとしている無期懲役囚の元ヤクザの老人と言葉を話すホウセンカとの不思議なやり取りから始まり、その老人が愛する女性とその息子との幸せなアパート暮らしを回想する。人生の悲喜こもごもを人間味たっぷりに描く作品で、派手さはないがじんわりと感動が広がる作品だ。

(C)此元和津也/ホウセンカ製作委員会

本作の企画の成立について伊藤氏はこう語る。

「僕が以前所属していたポニーキャニオンで作った『オッドタクシー』が成功して、木下監督の次回作を作ろうという気運になりました。そこにスタジオCLAPさんが『夏へのトンネル、さよならの出口』がアヌシー国際アニメーション映画祭で高く評価された後、CLAPの松尾代表と木下麦監督からオリジナル企画の相談がありそこで映画をやらないかという話になったんです。」

『オッドタクシー』もクランチロールアニメアワードで最優秀監督賞を受賞。木下監督もグローバルな評価を得ていたこともあり、同じく世界に打って出ていたCLAPとの新作が実現することになった。

渡航支援にプレゼントレーニング、得られるものは大きい

企画の当初からグローバルを意識していた『ホウセンカ』を、Film Frontierからどんな支援を具体的に得たのだろうか。

「(この映画のプレミア上映を飾った)アヌシー国際アニメーション映画祭への渡航費の支援と、海外でのプレゼンのためのトレーニングとレクチャーを受けさせてもらいました」と伊藤氏は語る。

世界最大のアニメーション見本市を擁するアヌシーでは、多くの商談チャンスが生まれ、ここでの振る舞いが海外展開を大きく左右する。伊藤氏は日本と海外での作品のプレゼンの違いについてこう語る。

アヌシー国際アニメーション映画祭での『ホウセンカ』公式上映時、観客にサインする木下麦監督

「海外では相手がどんなことを知りたいのかなどのポイントを事前にレクチャーしてもらったのですが、それがすごく役立ちました。日本の企画会議などでは、ストーリーやキャラクターを順々に説明していくのが基本ですが、海外では『要はこういうこと』と端的な説明が求められます。その後に細かい話をするなど、日本とは順番が違うんだと感じました。」


レクチャーを担当したのは、韓国を中心にアジア各国でピッチング講義を行うジェームズ・バン氏。彼は世界の実写中心の映画祭を数多く経験している人物で、そのことが伊藤氏は逆に良かったという。

「『ホウセンカ』は実写的な内容をアニメで描いた作品なので、実写とアニメの間の作品のようにアピールする必要がありました。アニメとは異なるロールモデルが実写にはあると思うので、ジェームズさんに、それをレクチャーしてもらえたのは大きかったし、すごく参考になりました。」

その後、7月にロサンゼルスで開催される「Anime Expo」の渡航支援も受けた。ここでは300人ほどの聴衆の前でトークショーを行い、複数の媒体の取材も受けた。その中には、かつて木下監督のサイン会に訪れていたライターもおり、当時約束していた再会も果たせたそうだ。

その他、DHL多様性賞を受賞した富川国際アニメーション映画祭や審査員賞と観客賞を受賞したエジンバラのスコットランド・ラブズ・アニメーションへの参加支援も受けている。エジンバラでは木下監督が大学で講義も行ったそうで、これも現地に足を運んだからこそ実現したことだ。

こうした一連の海外での活動に対して、周囲から「どうしてそんなに動けるんですか」とよく聞かれたと伊藤氏は語る。「この規模の作品としては、かなりアクティブに動いているように見えたみたいです。それはFilm Frontierの支援のおかげですね。」

アヌシー国際アニメーション映画祭での上映前の会場の様子

実際、現地に行くことには大きな意義があると伊藤氏は語る。

「『ホウセンカ』みたいなオリジナル作品は、地道にこういう活動をすることが重要だと思います。現地に行くことで一歩踏み込んだコミュニケーションが取れて、露出も増えます。こういう支援がなければ、監督のコメントビデオで送るだけになっていたかもしれない。現地にまで行ったことで得られたものがたくさんありました。」

また、今回の一連の支援によってメンタル的にも変化があったと伊藤氏は語る。

「やっぱり、僕ら日本人はもっと主張した方がいいんだと実感しました。表情や資料の変化だけでも、その後の作品展開が大きく変わることがあるんです。ピッチのメンタリングを受けたことで、僕自身、プレゼンへの意識はだいぶ変わりました。」


日本アニメの多彩さを拡張するための支援

日本アニメが世界に広がる中、こうした海外展開を支援する施策の重要性について伊藤氏は言及した。

「『ホウセンカ』みたいなタイプのオリジナル作品をどう売るのかという実務的観点からも、こういう支援があるのはありがたいです。もっと言うと業界全体が人気漫画をアニメ化することに目線が偏りすぎているのかなと感じてます。素晴らしい原作がアニメ化されていくことは全然悪いことではないのですが、人気原作をアニメ化して世界に売るというのと、オリジナルアニメーションを世界に売るというのは考え方やアプローチも違うと思うんです。日本のアニメーションに多種多様な作り方や売り方のモデルがあると、よりアニメーション大国として世界で輝き続けられると思います。」

伊藤氏は、こうした支援が業界全体の作品の多彩さを担保し、活性化につながると指摘する。

「日本は漫画だけじゃなく、アニメーションストレートのオリジナル作品も作れるのかと思わせたい。その方が全体の層が厚くなり業界にとってもメリットがあると思います。僕は若いプロデューサーに、こういう作品をプロデュースしてもいいんだと背中を見せていきたいんです。Film Frontierの支援は、まさにこういうオリジナルな作品を生み出す道を広げて伸ばしてくれるものだと思うんです。」

『ホウセンカ』に続いて、Film Frontierの支援対象となっている、四宮義俊監督の『花緑青が明ける日に』は、長編デビュー作ながら世界三大国際映画祭であるベルリン国際映画祭のコンペティション部門に選ばれた。日本のアニメ作品としては、宮崎駿監督『千と千尋の神隠し』、新海誠監督『すずめの戸締まり』に続く快挙だ。

(C)2025 A NEW DAWN Film Partners

こうした作品を生み出せる土壌をいかに保っていくのかが、日本のアニメ産業には今問われている。Film Frontierはそういう土壌作りのための支援を行っているのだ。

現在、長編アニメ支援の第3期作品を募集中だが、伊藤氏は「気になったら、まずは応募してみてほしい」と背中を押す。

「選ばれるかどうかは、その時の運にもよりますが、この機会に自分の考えをアウトプットしてみるのもいいと思うんです。企画の整理にもつながりますから、これまで助成金などに申請したことのない人も、どんどん出してみてほしいです。僕としてはオリジナルアニメの比率を業界全体で15%ぐらいにしていきたい。そのためにもこういう支援が機能することが重要だと思っていますから、企画書しかないという作品でもまずは、どんどん挑んでみて、活用してほしいです。」

長編アニメクリエイター支援 詳細・申し込みはこちら

【長編アニメクリエイター支援 募集概要】

  • 事業名:長編アニメクリエイター支援(Film Frontier: Feature Anime Creators in Progress)

  • 目的:若手クリエイター(監督、プロデューサー、脚本家、アニメーター)が参加する長編アニメーション企画の「企画開発」あるいは「完成から発表」のいずれかの段階における海外展開の支援を通し、国際的に活躍できる人材を育成する。
    *本プログラムは若手人材育成のための企画開発や海外展開におけるプログラムであり、本編製作の支援ではありません。

  • 対象:以下3点をすべて満たす企画であること。
     ・若手クリエイター(育成対象者)が参加する開発中の企画、あるいは完成後の海外展開を見越した進行中の企画であること
     ・劇場公開あるいは配信を前提とする、海外展開を目指す60分以上の長編アニメーション企画であること
     ・原則として、育成対象者が属する法人格を有する制作会社による応募であること

  • 要件:アニメーション作品の監督、プロデューサー、脚本家、アニメーターのうち、以下a, b, cいずれかに該当する者で、日本国籍または日本の永住権を有しており、海外渡航に支障がないこと(育成対象者は海外派遣が必須のため)
     a. 国内外主要映画祭(*2)へのアニメーション作品の出品実績(Work In Progress、ピッチング含む)
     b. 商業アニメーション作品の公開実績がある
     c. TVアニメーションシリーズの制作実績が1本以上ある。
     *いずれも長編か短編かは問わない

  • 育成期間: 採択決定後 ~ 2027年2月まで

  • 募集締切: 2026年2月20日(金)

  • 詳細・申込:Film Frontier(フィルム・フロンティア)「長編アニメクリエイター支援」第3期 新作企画募集

《杉本穂高》

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杉本穂高

Branc編集長 杉本穂高

Branc編集長(二代目)。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。

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