クリエイターと音声AIの共存と健全なビジネス利用を目指すフェアトレードシステム「AILAS」が発足

音声AIの学習データを管理、追跡を可能にするシステムの構築を目指す一般社団法人「日本音声AI学習データ認証サービス機構(AILAS)」の設立が発表された。声優などの実演家の権利を守りつつ、ビジネスで正しく活用できるような仕組みの構築実現を目指す。

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一般社団法人「日本音声AI学習データ認証サービス機構」設立記者発表会
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  • 倉田宜典氏
  • 田邉幸太郎氏
  • 池水通洋氏
  • 甲斐田裕子氏
  • 中村大貴氏

音声AIの学習データを管理、追跡を可能にする世界初のフェアトレードシステムの構築を目指す一般社団法人「日本音声AI学習データ認証サービス機構(AILAS)」が記者会見を行い、設立を発表した。

声優などの実演家の権利を守りつつ、ビジネスで正しく活用できるような仕組みの構築実現を目指すという。

会見にはAILAS代表理事の倉田宜典氏、監事の田邉幸太郎弁護士、AI開発会社Parakeet株式会社の代表・中村大貴氏、日本俳優連合代表理事で声優の池水通洋氏、声優の甲斐田裕子氏が出席。同法人の設立趣旨と開発者と実演家、それぞれの立場から、AILASの掲げる理念への共感が語られた。

写真左から甲斐田氏、池水氏、倉田氏、田邉氏、中村氏。

最初に代表理事の倉田氏から、同法人の設立趣旨が語られた。AILASは、音声AIのフェアトレードを行うルールを作成し、そのシステム構築と認定証を発行する仕組みを通じて、音声AIとクリエイターの共存共栄を目指すために設立するという。背景には、AI技術の急速な発展により、カスタム音声AIが容易に作成できるようになり、実際に有名な実演家の声が無断使用される事例が頻発、知的財産権を巡る法制度が想定していない事態も起きていることが挙げられるという。その上で、音声AIを使用する際は正規で使用し収益につながる仕組みを一般化する必要があるとのこと。

AILASは、音声をトラッキングするシステムを構築・運用し、実演家や開発者、AI活用事業者すべてのステークホルダーに提供することを目指し、音声AIの健全なビジネス利用を促す仕組みだ。

具体的には、AILASの基盤データに実演家たちが学習データIDと必要情報を登録すると、AILASから登録認証ラベルが発行され、開発者と契約を結ぶ。開発者にもIDが付与され、認証されたデータを元に音声AIを開発。その認証を受けた音声AIを活用する事業者もサービス提供する上で事業者IDを取得する。一般消費者は、そうした認証ラベルを購買・サービス利用の際に参考にできる。

実演家はデータ登録をする際、どんな用途までなら利用を許可するかの条件を付与できるという。例えば、自身の登録データで芝居させることは許可しないが、ナレーションや朗読には許可するなど選択することができる。一切AIには利用させないという意思表示のために登録することも可能だ(法的規制力はない)。AILAS自身は学習データそのものを管理せず、あくまで事業者と実演家同士で契約する形となるという。

この仕組みをオンライン化して、利活用のハードルを下げていき、音声AIフェアトレードに賛同するすべてのステークホルダーに利用してほしいと倉田氏は語る。また、音声AIの利活用を促進し、学習音声データを提供したユーザーへの利益還元を容易にする仕組みも提供したいという。また、一般消費者には認証制度を通じて、知的財産を守ることの大切さを啓発していきたいとのこと。

AILASの活動に関して、法的側面から弁護士の田邉氏が説明を行った。今年5月の「AI時代の知的財産権検討会 中間とりまとめ」で示された「生成AIと知的財産権との望ましい関係の在り方」の内容にAILASは賛同するとして、各主体に期待される取り組み事例をサポートできるのではないかという。

具体的にはAI開発者には法的ルールを踏まえたデータの適正な収集と学習や、トレーサビリティの向上などが望ましい取り組みとされているが、AILASの仕組みを使えば、それらを円滑に促すことが期待できる。実演家もAI学習に対する意思を表明することができるので、これも検討会で望ましい取り組みとして提示されている。

続いて、池水氏と甲斐田氏から実演家の立場として、AILASに賛同する理由が語られた。池水氏は「倉田さんは、許諾なしの学習を止めることは法律上できないが、誰が演じているのかに価値があるのでそれを正しく認める仕組みを作りたい」と語ってくれた。さらに、「現在は音声AIは誰のものかルールがない状態で事業が行われていることに不安を感じている。そんな中、AILASは利益を追求せずに適正な枠組みを構築するという点に共感した」と語る。

甲斐田氏は、「倉田さんが実演家の抱える問題を理解しフェアトレードを提案してくれたことに驚いた。自分は声をAI学習に利用されたくないが、適切な契約ができるならやりたいと考える声優はいる。AILASはどちらの意思も尊重するもの。これを否定すると(業界の)対立と分断が加速すると感じている。AIの利活用を否定できない以上、フェアな仕組みを作ることが必要」と、AIに対して個人としては否定的だが、多様な意思を尊重するAILASの理念に賛同したとのことだ。

続いて、AIボイスチェンジャー「Paravo」を開発する中村氏は、昨今の無断音声AIの事例で、きちんと許諾を得ようと話をしても信頼されない現状があるという。そのため、倉田氏からAILASの話を聞いてすぐに賛同したとのことだ。

同法人は現在登記の申請中で、7月上旬には完了する予定だそうだ。生成AIのスタートアップ企業の他、大手企業ともすでに話しているそうで、多くの企業から設立趣旨には賛同をもらっているとのこと。また海外企業で日本の実演家の声を利用したい企業にもAILASの仕組みを活用するよう求めていきたいとのことだ。

現在、AILASは開発資金調達中で、7月から会員受付と寄付金の受付を開始する予定とのこと。実際のサービス提供は2025年を予定しているという。また、倉田氏はまずは多くの実演家に登録してもらいやすい環境を用意したいと語り、登録料や維持費なども検討していくとのことだ。

《杉本穂高》

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杉本穂高

映画ライター 杉本穂高

映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。

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