『私たちの声』プロデューサーが考える国際共同製作のメリットとは?「才能を世界に紹介する最短の方法」

9月1日(金)公開の映画『私たちの声』は、7つの短編からなるアンソロジー映画。本作にWOWOWが参加することになった経緯と意義、さらに日本映画の国際展開や海外ロケ誘致の問題点など、プロデューサーの鷲尾賀代氏に話を聞いた。

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9月1日(金)から公開される映画『私たちの声』は、世界を代表する女性監督たちが参加した7つの短編からなるアンソロジー映画だ。

「映画、芸術、メディアを通して女性を勇気づける」をスローガンとして掲げる非営利映画製作会社「We Do It Together」が企画し、賛同した映画人が集まり、多彩な女性の物語を紡いでいる。

日本からは呉美保監督・杏主演による「私の一週間」が制作されているが、この国際共同製作への参加のキーパーソンとなったのはWOWOWのプロデューサー、鷲尾賀代氏だ。鷲尾氏は、「TOKYO VICE」のエグゼクティブ・プロデューサーを務め、ハリウッド・リポーター誌の「全世界のエンターテインメント業界で最もパワフルな女性20人」に2年連続で選出され、国際的にも注目される存在だ。

その鷲尾氏に、本作参加の経緯と意義、さらに日本映画の国際展開や海外ロケ誘致の問題点など、多岐に渡って話を聞いた。

WOWOW チーフプロデューサー、鷲尾賀代氏。

この企画は日本こそ参加すべきだと思った

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――まずは、『私たちの声』にWOWOWが参加することになった経緯を教えてください。

私は製作以外に劇場公開を含めた洋画の買付の仕事もしていて、売り込み中の作品の一つとして出会いました。その時、まだアンソロジー作品の中に日本の短編は含まれておらず、作品の主旨には賛同しつつ、ジェンダーギャップ指数が先進国では最下位の日本こそ、この企画に入るべきじゃないかとセールスエージェントに話したんです。そうしたら、プロデューサーにつないであげると言われて、翌日Zoomで「1本増えても構わないからあなたが作ってみない?」と言われたんです。ただ、条件が「二カ月以内に納品、国際映画祭で高評価の女性監督、主演は日本で5本の指に入る女優」という厳しいものでした。

女優さんのキャスティング以上に、国際映画祭で評価されている女性監督は、4,5人しか思い浮かばず、二カ月以内にスケジュール抑えて納品はかなりのハードルだと思いましたが、引き下がるのも嫌でやることにしました。

その時、私は呉美保監督とは面識はなかったのですが一緒にやってみたいとずっと思っていて、彼女の公式サイトのメールアドレスに正面から私の想いを伝えるメールを送りました。そうしたら、翌日にご本人から電話がかかってきて、やることになったんです。

――「私の一週間」は、2人の小さい子どもを育てながら働くシングルマザーを描いた作品です。呉美保監督も今2人お子さんがいらっしゃるそうで、監督ご自身の実感を込めた話なのでしょうか。

そうですね。呉美保監督はご結婚されていますが、旦那さんもお忙しいようで、そのために映画も撮れてなかったんでしょうし、ワンオペのような状況を体験されてきたんだと思います。

前作『きみはいい子』の公開から8年、お話はいっぱいあったらしいですが、小さなお子さまを抱えながらできる映画の現場って絶対ないと思います。地方ロケもあるし、保育園に預けた子どもを夜遅くに迎えに行くわけにもいきません。拘束時間が短く、規則正しい現場はハリウッドにもないでしょうし、特に日本の業界では難しかったんだと思います。

――今回の現場はそのあたりをどのように対応されたのですか。

今回の現場は朝9時ごろから夕方17時30分ごろまでを基本にして、夜のシーンの撮影だけは時間をずらして20時前までとしました。ほとんどオフィス勤務のようなスケジュールで、他の現場に比べれば随分楽だったと思います。日本の撮影は短時間にこれだけたくさん撮れるのかと驚きました。アメリカだったら普通は1日に3,4シーン、下手すれば1シーンしか撮れないですけど、この作品は1日に10シーン以上撮っちゃう。すごいなと思いました。

――杏さんに声をかけたのは鷲尾さんですか。

監督と相談して、こういう役どころの杏さんは今まで見たことがないから観てみたいとなりました。私も撮影中、モニターでずっと観ていましたが、ナチュラルなのにリアリティと説得力があってすごく良かったです。

――本作の主題歌「Applause」はアカデミー賞歌曲賞にノミネートされ、呉美保監督と杏さんと一緒に授賞式に出席されたそうですね。

Photo by Jesse Grant/Getty Images

私はWOWOWのアカデミー賞中継の仕事を7年間やり、今もアカデミー協会の窓口は担当しています。今回、お2人がレッドカーペットを歩く際にも協力してもらいました。

歌曲賞発表の時、司会の背景に各作品のキービジュアルが表示されるんですが、『私たちの声』は杏さんが子どもを抱いている場面写真だったんです。その写真が『トップガン マーヴェリック』のトム・クルーズと『RRR』の間に出てきたんですが、その瞬間に杏さんはお手洗いに行かれていて(笑)。

Ⓒ WOWOW

パーティではミシェル・ヨーさんもいて、彼女は『SAYURI』で渡辺謙さんと共演しているので、彼の娘さんだと知ったら、杏さんをにこやかにハグしてくださったんです。その瞬間をアカデミー賞の公式が掲載してくれたんですね。アカデミー賞では彼女の世界進出のお手伝いが少しはできたのかなと嬉しかったです。

呉美保監督も英語を勉強するとおっしゃっていて、やる気になっているみたいです。アカデミー賞はビジネスの一環という側面もありますが、映画を愛する人が集まって仲間を祝福する、あの場が私は大好きで、人をその気にさせるパワーがあるんだなと改めて思いました。

日本映画の労働環境を変えるために必要なこと

――呉美保監督のような才能ある方が8年も仕事ができないのは、業界全体の損失でもあると思いますが、日本の映画業界の労働環境は女性にとっては厳しい状況かと思います。どうすればより女性が働きやすい環境にできるでしょうか。

ハリウッドと比較して言うと、あちらは国を超えて撮影する時はプロダクション側が、現地の学校を手配したりベビーシッターを雇ったり、一切合切面倒を見るんです。それを日本でやるには製作費を上げる必要がありますが、そのためには日本の作品がより大きな市場で売れる必要があると思います。

――国内市場だけではマーケットの上限があり予算を上げられない、環境整備のためにもグローバルマーケットに進出する必要があるわけですね。

私はそう思います。ジェンダー格差問題の他、『私たちの声』に参加したかったもう一つの理由は、日本の才能である呉美保監督と杏さんを世界に紹介する最短の方法だと思ったからです。この作品はアカデミー賞歌曲賞にノミネートしたので、米国では確実に観られていますから監督や女優について気になる人も出てくるでしょう。

「TOKYO VICE」でも、笠松将さんが「あの若いヤクザ役は誰なんだ」と言われるようになり、今は海外で声をかけられることもあるそうです。こうやって日本の才能が世界に知られれば、結果として日本の作品のマーケット拡大にもつながるんじゃないかと思っています。

――国際共同製作は、日本のマーケットを拡げる点でもメリットが大きいんですね。

そうですね。「TOKYO VICE」は、HBO Maxのその年一押しの作品のような扱いで、米国で大きく宣伝されていましたから、日本の俳優さんもその分注目されます。だから、私は自分で発掘した企画であっても国際共同製作の形を取りたいと思って、アメリカの有名なショーランナーや監督にアタッチしてもらえるように交渉します。

日本でロケしたい作品はたくさんある

――「TOKYO VICE」では大規模な日本ロケが実現しましたが、日本はロケ誘致で遅れを取っていると何年も前から指摘されています。

ロケ誘致に関する各国の条件を比較すると、使った予算の30%が戻ってくるような国もある中、日本にはそういう仕組みのかけらもないので横並びで見られたら勝ち目がないんですよね。

さらに、日本ではフィルムコミッションも自治体ごとにバラバラだし、どこで撮影許可をとればいいかもわかりにくい。これは日本政府がしっかり整備してほしいところで、私も具体的な話をする機会は時々あるんですけど、みなさん3年ごとに異動してしまうので、またイチから説明ということになったり…。

――日本でロケしたい企画というのは、昨今増えているんでしょうか。

増えているでしょうし、昔から一定の量はずっとあったと思います。例えば、マーティン・スコセッシ監督の『沈黙 -サイレンス-』はずっと長崎でロケ地を探していましたけど、結局台湾ロケになりましたよね。日本は世界一撮影が難しい国だとよく言われます

「TOKYO VICE」の時にマイケル・マン監督が小池都知事に面会したことは意味があったと思いますけど、毎回東京ロケの度に都知事に会えるわけではありません。アメリカの場合はビジネスと割り切ったシステムが整備されています。お金を払って撮影許可をとり営業補償して撮影する権利を買うので、急な変更で撮影がキャンセルになっても費用を払えば問題はないのです。

でも、日本の場合は人と人とのつながりで、撮影に使用されれば宣伝になるからと仲介してもらったり、そういう口説き方も多いですよね。それで撮影が中止になったら、紹介した人の立場がなくなってしまう。もっとビジネスと割り切った仕組み作りが必要だと思います。

――「宣伝になる」という口説き方も結局ロケ場所にお金を落とせないからで、これも日本の現場の予算の少なさが問題ですよね。

まさにその通りですね。払えないから安くとなるので。

――この問題も結局、マーケットを拡大できるかということにつながっているんですね。

そうですね。でも、最初にやるべきことは仕組み作りだと思います。フィルムコミッションをより組織的にして撮影許可の煩雑さを減らし、タックスリターンでせめて予算の20%返すようにするとか。50億円をロケ地に使ってくれたら、その20%を戻しても40億円の経済効果なので損しません。日本の行政の場合、10億円返すなら年初に予算確保しておかないとみたいになりがちなんですけど、そこを変えなければと多分関係者はみんな思っているんです。私の肌感覚では同条件か多少悪いくらいなら、日本を選ぶプロダクションはいっぱいあると思います。日本のイメージはとても良くて、日本で撮影したい海外クルーはいっぱいいるんですよ。

――国内でも国際共同製作の機運が高まっていたり、変化の兆しは出ている気がします。

そうですね。配信の台頭で構造変化や、人口減少で国内市場が縮小する影響で意識も変わってきていると思います。

私が声を大にして言いたいのは、韓国がどうやっているのかを勉強した方がいいということ。良いお手本が近くにあるんだから、仕組みはまるごとコピーでもいいと思います。日本のプロダクションレベルはすごく高くて、「TOKYO VICE」の時も美術さんを始め日本スタッフの仕事は本当に素晴らしかったですし、現場の力を活かすためにも良い仕組みを整備するべきです。


『 私たちの声 』は、9月1日(金)新宿ピカデリーほか 全国ロードショー。

《杉本穂高》

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杉本穂高

映画ライター 杉本穂高

映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。

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