TBSがドキュメンタリー映画祭を開催する理由。「テレビでは伝えられないことがある」

「TBSドキュメンタリー映画祭2024」が3月15日(金)から全国6都市にて順次開催される。戦場ドキュメンタリーや社会派作品から多様な生き方を見つめる作品、アイドルや海外ミュージシャンを記録したものまで多彩なラインナップが揃う本映画祭の目指す先とは?プロデューサーに話を聞いた。

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TBSがドキュメンタリー映画祭を開催する理由。「テレビでは伝えられないことがある」
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「TBSドキュメンタリー映画祭2024」が3月15日(金)から全国6都市にて順次開催される。

この映画祭は、「テレビやSNSでは伝えきれない事実や声なき心の声を発信し続ける本気のドキュメンタリー作品に出会える場」として2021年に始まった。戦場ドキュメンタリーや社会派作品から多様な生き方を見つめる作品、アイドルや海外ミュージシャンを記録したものまで多彩なラインナップをそろえている。

テレビ局がドキュメンタリー作品を作ることは珍しくないが、映画で、しかも映画祭という形でまとめて上映することは珍しい。この狙いはどこにあるのか、本映画祭のプロデューサーであり、TBS報道局次長・報道コンテンツ戦略室長を務める大久保竜氏に話を聞いた。

TBS報道局次長・報道コンテンツ戦略室長 大久保竜氏。

各監督の情熱で集まった企画たち

――この映画祭が始まったきっかけには、2020年公開のドキュメンタリー映画『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』のヒットがあったそうですね。

そうですね。あの映画がドキュメンタリー映画としては異例の2億円の興行収入をあげて、テレビ局の持つアーカイブ映像に可能性があるんじゃないかと思ったんです。僕はあの映画の公開時、今の部署ではなかったんですけど、先輩からこういう映像があると相談を受けて、映画部にいる同期や後輩に声をかけて生まれた作品です。そこから、テレビではなく映画館でお客さんにお金を払って観てもらうことができると思い、映画祭を企画しました。社内で企画を応募すると、アーカイブ作品だけじゃなく、記者やディレクターからこういうものを作りたいとたくさんの企画が集まり始めました。

――本映画祭は4年目になりますが、これだけ続いているということは社内でも評価されていることなんでしょうか。

1年目の会場は渋谷の劇場のみでしたが、今では全国6都市で開催し、TBSだけでなく系列局の作品も参加しています。ここで上映する作品の監督は、ドキュメンタリーを仕事にしているわけじゃないんです。普段は政治部のベテラン記者が『最後のMR.BIG~日本への愛と伝承~』を作ったり、ドラマ部のプロデューサーが『方舟にのって~イエスの方舟45年目の真実~』を作ったりしています。普段の仕事をこなしながら、自分のやりたいテーマや過去に取材したものを紹介したいという動機で参加しています。僕のところに企画を持ってくる前に、直属の上司を説得してからきている人もいます。仕事に穴はあけないのでやらせてほしいと。各部署も映画祭は年に一回だし協力しようと思ってくれているようで、本当にありがたい状況です。

一応、仕事ではあるけれど、趣味のようなゾーンで作ることで、メジャーとは真逆のコアな物を作れるようになっていると思うんです。そして、コアな訴求力あるものを作る経験はメジャーに届ける時にも必ず役立つはずだと上司を説得している人もいるみたいです。

――映画祭の集客は伸びているんですか。

3回目の昨年は、1年目に比べると5倍くらいの集客になっています。1年目は緊急事態宣言中だったこともありますが、2回目からも集客は伸びているし、上映場所も増えているので、この良い流れをできる限り広げていきたいです。

映画祭は「ブランディング興行」の場にもなる

――ドキュメンタリーを映画で提供するということには、テレビの報道のあり方を問いかける側面があるように思います。報道は利益を出しにくいとよく言われますが、映画として上映することで、報道分野の利益の改善に繋がるのでしょうか。

『三島由紀夫vs東大全共闘』は高い利益を上げましたが、それでも劇場版『TOKYO MER~走る緊急救命室~』のような作品とは桁が違うのが現実ですから、劇映画とは線を引いて考えています。ただ趣味で作るだけではダメで、お客さんに届けるからには、自己満足で終わってはいけない。

我々はこれを「ブランディング興行」と呼んでいます。利益をたくさん出すためではなく、自分をブランディングしながらできる限り利益を出すというか、こういう表現をすれば、お客さんはちゃんと来てくれるという研究をする。シネコンで全国一斉に公開する映画とミニシアターではやはり文法も異なると思うので、それを学びながら、監督が伝えたいことを伝えるやり方を研究するようにしています。

――ブランディング興行という言葉には、これらドキュメンタリー映画の利益はテレビ局全体では少ないけれど、テレビ局の報道力や制作力を示すことにも繋がり、局のブランディングにもつながるという面もあるのでしょうか。

それもありますし、記者やディレクターの名刺代わりにもなると思うんです。『方舟にのって~イエスの方舟45年目の真実~』の佐井大紀監督はまさにそうで、ドラマ部内でこういう社会派の作品を作っていると知られるようになり、「実はこういう企画を考えているんだけど、一緒にやろうよ」と声をかけてもらえるようになっているようです。

『方舟にのって~イエスの方舟45年目の真実~』

佐井監督は3年連続でこの映画祭に参加していますけど、彼はプライベートで会社に来て、アーカイブ映像を観ているんです。それこそ自宅でYouTubeを観るような感覚で(笑)。社内のアーカイブ室にはNetflixにもない映像がたくさん眠っているので。

テレビ局員たちが感じるジレンマ

――こうしてある程度まとまった上映時間の作品を観ると、普段のニュース番組を観ている時よりも、テレビ局の取材力の高さを実感できます。

マスメディアと言われるように、テレビはとにかく大勢に向けて発信するものですけど、世の中がこれだけ細分化されてくると、色々な考えがあるので、表現にもコアなものが求められてきていると思います。それぞれの監督たちがそのことを敏感に感じて、強い気持ちでこれを作るべきと思っている人が増えている印象です。

――普段、ニュースで仕事されている方もいらっしゃると思いますが、日々のニュース番組で伝えられることには限りがあるわけですよね。

やはりそこにジレンマを感じている人は多いんです。『BORDER 戦場記者 × イスラム国』の須賀川拓監督が良い例で、普段は戦争情報の速報を出し続けていて、今はウクライナやイスラエルのニュースが大きいけれど、そうすると数年前には盛んに報じられていたイスラム国のことが置き去りになってしまう。でもイスラム国に翻弄された人々が今難民キャンプでどうなっているのかを本人は現場で見ていて、本当は伝えたいけど、速報を背負っているメディアとしては扱うのが難しいことがあるわけです。だから、ドキュメンタリー映画としてまとめることで記者として伝えたいことを伝えようと思って作っているんです

『BORDER 戦場記者 × イスラム国』

――このドキュメンタリー映画では、記者やディレクターがテレビの制約から、ある程度解放されているんですね。

そうですね。ただ、高尚な作品ばかりじゃなくて、例えばアイドルの成長もののような、入口として入りやすい作品も大事にしています。キラキラしたアイドルたちにも将来への葛藤や悩みがあってそれは多くの人が共感できるものです。そういう時代性を写すのも大切だと思っています。

『カラフルダイヤモンド~君と僕のドリーム~』

――みなさん、本業以外の時間に作っているとのことでしたが、予算はどうしているんですか。

須賀川の作品などはすでに取材したものをベースにしています。あとは自分でカメラを持って撮りに行っているので手弁当みたいなものですね。久保田智子監督の『私の家族』は自分で撮りためた映像をベースにしていますし、わざわざ実費で遠方まで行って取材している人もいますし。細かい許可取りとか映画として公開する時にはこちらも予算を出していますが、取材時は自分たちでやっているんです。

――TBS製作となっていますが、実態としては自主製作に近いんですね。

そうなんです。映画祭を立ち上げた時は、社内の文化祭みたいな雰囲気だったんですけど、お客さんにお金を払ってもらってその分の満足感を持ってもらえるかどうか、自分が納得できるまでやるということの暗黙の了解があったんですよね。

――最後に、今年の映画祭の見どころをお願いします。

『ダメな奴~ラッパー紅桜 刑務所からの再起~』

どれも面白いですが、例えば『ダメな奴~ラッパー紅桜 刑務所からの再起~』は紅桜さんが人生うまくいかなくなり、刑務所に入ってしまうなど、辛い体験を赤裸々にしてくれていて心を打たれます。報道機関としては『坂本龍一 WAR AND PEACE 教授が遺した言葉たち』の平和へのメッセージは是非受け止めて欲しいと思いますし、須賀川監督の戦場取材も大事なことを伝えています。これらの作品はそれぞれの監督が人生のテーマをかけて形にしているものですから、それぞれの面白さがあります。久保田智子監督は、これまでアナウンサーや記者でしたが自分と家族のことを残したいという想いで作っています。

それから、『カラフルダイヤモンド~君と僕のドリーム~』は単なるアイドル青春ものじゃなく、等身大の悩みを描いていて、40代や50代の人でも共感できるような内容になっています。
ライトなものからパーソナルな作品、戦場の現実や社会の今を写したものまで様々な作品があるので、是非足を運んでいただければと思います。

「TBSドキュメンタリー映画祭2024」

3月15日(金)より東京、大阪、名古屋、京都、福岡、札幌の全国6都市で順次公開。

TBSドキュメンタリー映画祭2024 公式サイト:https://www.tbs.co.jp/TBSDOCS_eigasai/

TBSドキュメンタリー映画祭2024 ダイジェスト予告:https://www.youtube.com/watch?v=MtvA-EwXzm0

(c)TBS

《杉本穂高》

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杉本穂高

映画ライター 杉本穂高

映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。