【イベントレポート】世界的データ企業が示す日本アニメの「真の価値」とは?ストリーミング時代の羅針盤「データ」の重要性

トークイベント「世界的データ企業Parrot Analyticsが解き明かす、日本アニメ『本当の』グローバルな価値」のレポート記事をお届け。アーカイブ動画も販売中!

映像コンテンツ マーケティング
【イベントレポート】世界的データ企業が示す日本アニメの「真の価値」とは?ストリーミング時代の羅針盤「データ」の重要性
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2025年8月8日、Brancのトークイベント「世界的データ企業Parrot Analyticsが解き明かす、日本アニメ『本当の』グローバルな価値」が開催された。ゲストには、Parrot Analyticsのアジア担当アドバイザーであるダグラス・モントゴメリー氏と、NECの深田航志氏が登壇。グローバルストリーミング時代において、日本のアニメがその真価をいかにして発揮し、市場を拡大していくべきか、その鍵となる「データ活用」について熱い議論が交わされた。本稿ではその一部をレポートする。


なぜ今、データが重要なのか?- 国内IP産業の課題

イベントは、NECの深田氏によるプレゼンテーションから始まった。深田氏は、NECがIP業界関係者504名を対象に実施した最新の調査結果を公開した。調査によると、コンテンツ(IP)事業者の7割以上がビジネスにおけるデータ活用の重要性を認識していることという。


特に、IPの法務・権利や資金調達を担当する層では8割以上が重要性を認識しており、そのうち45.8%が「とても重要」と回答。IP制作などに直接関与する層の32.3%を13ポイント以上も上回った。この結果から、事業規模の拡大や収益化を担う立場の担当者ほど、データ活用の必要性をより強く感じている実態がうかがえる。

しかし、データ活用の導入に関しては、「上位の社内の収集体制が整っていない」「分析人材がいない」といった組織的な課題を挙げる声が多く、理想と現実のギャップも浮き彫りになった。そして、そもそも充分なデータをそろえられていないことを課題として感じる事業が多いことがわかる。特にグローバル展開について、信頼できる需要データや市場インサイトが不足していると感じられているようだ。

"Peak Japan"の到来 - 世界が日本コンテンツに熱狂

データ不足の課題に対してソリューションを提供するのがParrot Analyticsだ。同社のダグラス氏は、海外での日本の人気についてまず触れた。「今、アメリカでは日本のコンテンツのピークが来ている」と語り、アニメ以外でもドラマ『SHOGUN』の大ヒットや大谷翔平選手の絶大な人気を例に挙げた。

ダグラス氏は「日本のアニメは歴史が長く、カタログも非常に多様なことが強みだ」と分析。しかし、その人気が日本に充分な利益をもたらしていないと指摘。ダグラス氏は7月に開催されたAnime Expoでも登壇したそうで、同イベントがLAに1億1000万ドル(約160億円)もの経済効果を生んでいるが、それは日本に充分な還元がもたらされているか疑問を呈した。

データを武器に市場を制す

ダグラス氏は、かつてワーナー・ブラザースに勤めており、同社のデータ活用についても触れた。当時、ウォルマートでDVDの売上が飛躍的に伸びた要因を問われたダグラス氏は、データを活用してその要因をリサーチしたという。

データを分析することの重要性を、日本政府も認識し始めており、アニメのヒットを偶然ではなくデータによる必然に変えていく必要があるという。また、ダグラス氏はその理由について、世界の人々がエンターテインメントに費やすお金と時間は、コロナ禍以降ほぼ横ばいであり、これ以上の自然増は見込めない、そのためにパイの奪い合いになるので、データによる戦略が必須となると語る。

Parrot Analyticsのライブデモ - 「需要」の可視化

イベントの後半では、Parrot Analyticsが提供する分析ツール「Demand360」のライブデモが行われた。このツールは、SNSでの言及、検索数、Wikipediaの閲覧、さらには海賊版サイトでのダウンロードといった、消費者のあらゆるオンライン上のエンゲージメントを収集・分析し、コンテンツの「需要(Demand)」を数値化する。

国境を越えてヒットする可能性を示す「Travelability」や、スピンオフや商品化の可能性を示す「Franchisability」といった独自の指標も紹介。これらのデータを活用することで、自社IPのポテンシャルを客観的に把握し、ライセンス料の交渉や共同製作の意思決定といった具体的なビジネスの場で有利な立場を築くことができると説明された。

デモでは『僕のヒーローアカデミア』(以下ヒロアカ)を例に解説。驚くべきことに、同作の需要はアメリカと日本でほぼ同等の極めて高い数値を示しているという。

データ非対称性の是正が必要

最後のディスカッションで、Branc編集長の杉本は日本政府が掲げる「2033年までにコンテンツの海外売上20兆円」という目標に言及。アニメ業界の生産能力はすでに飽和状態にあり、作品数を3倍にすることは不可能であるため、1本あたりの取引単価を引き上げるしかない。その時にデータという武器が極めて重要になる」と述べた。


深田氏は、日本動画協会のデータを引用し、ユーザーが支払う金額を元にした広義のアニメ市場が3兆円を超える一方で、制作会社の売上を元にした狭義の市場は約4000億円に留まるという事実について提示した。この差額の一部は、海外配信や商品化のライセンス料で、海外のプラットフォーマーなどに渡っていると指摘し、「この構造をデータを武器に交渉して変えていく必要がある」と訴えた。


だが現状、配信プラットフォーマーは視聴データを独占し、IPホルダー側に共有しないケースが多い。これは、広告主とテレビ局がビデオリサーチという第三者機関の視聴率データを共有して公正な取引を行うテレビCMの世界とは対照的だ。

ダグラス氏は「Netflixの幹部も『データは我々のものだ』と公言している。これは公平ではない」と述べ、Parrot Analyticsのような第三者のデータは、IPホルダーが自信を持って交渉の場に臨むための助けになると語った。ちなみに、Amazon Prime Videoも、自社データに最も近いとしてParrot社のデータをプロジェクトで採用した実績があるとのことだ。

質疑応答では、IP事業者からも活発な質問が相次いだ。「偶然の成功に頼るのではなく、意図的にデータを活用して市場を制覇するステージに日本は来ている」というダグラス氏の言葉通り、グローバルな競争が激化する中、客観的なデータという羅針盤を手にすることが、日本のアニメ産業がその「本当の価値」を世界に示し、正当な対価を得るための不可欠な一手となるだろう。

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《杉本穂高》

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杉本穂高

Branc編集長 杉本穂高

Branc編集長(二代目)。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。

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