「アジア映画界の連帯に日本は入れていない」KOFIC委員長が語る、韓国映画界の厳しい現状と日本のカウンターパートの不在

KOFIC(韓国映画振興委員会)のパク・キヨン委員長が来日し、メディアカンファレンスが開催。パク委員長からは、KOFICの支援が韓国映画の発展を支えたこと、コロナ禍を経て韓国映画産業が危機に陥っていること、アジア映画界の共同支援の枠組みを作る重要性が語られ、日本も是非参加してほしいと訴えた。

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「アジア映画界の連帯に日本は入れていない」KOFIC委員長が語る、韓国映画界の厳しい現状と日本のカウンターパートの不在
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韓国の映画産業支援を担う特殊法人・KOFIC(韓国映画振興委員会)の委員長を務めるパク・キヨン氏が来日し、メディアカンファレンスが開かれた。

このカンファレンスを主催したのは、是枝裕和監督や諏訪敦彦監督らの組織「action4cinema」だ。同組織が10月上旬に開催された釜山国際映画祭を訪れた際、パク委員長と会談したことがきっかけで今回のカンファレンスが実現した。パク委員長からは、KOFICの支援が韓国映画の発展を支えたこと、コロナ禍を経て韓国映画産業が危機に陥っていること、アジア映画界の共同支援の枠組みを作る重要性が語られ、日本も是非参加してほしいと訴えた。

パク委員長、諏訪監督。

KOFICとはどんな組織なのか

まずパク委員長は、KOFICの概要について説明した。

パク・キヨン委員長。

KOFICの設立は1973年。その活動内容は第一期と第二期に分けられるという。第一期は73年から98年までで、前身組織の韓国映画振興公社が設備や機材などインフラ整備を主な業務としていた。

1999年から組織が一新され韓国映画振興委員会となり、ここからKOFICの第二期がスタート。インフラ整備だけでなく、製作、配給、教育のシステムを構築し、21世紀に急成長を遂げる韓国映画の躍進を支える存在になったという。

KOFICの支援システムは世界的にも最高レベルだとパク委員長は自負する。KOFICの支援体制が一新された後、ポン・ジュノ監督やパク・チャヌク監督など優れた作家を多数排出し、現在は韓国ドラマが世界を席巻するまでになった。今年の釜山国際映画祭では、米国の映画団体MPA(モーション・ピクチャー・アソシエーション)と会合し、韓国と米国で映画同盟を結ぼうという話し合いがもたれたそうだ。韓国映画に対する関心はハリウッドでも高くなっていることがうかがえる。

そんなKOFICの活動資金は、映画発展基金から捻出されている。この基金は、映画館の売上3%を徴収しており、2006年の映画振興についての法改正によって生まれた制度だ。

action4cinemaは、この制度にならったシステムを日本でも導入すべきと映連に提案しているが、よい返事は得られていないという。韓国ではこの制度が導入された当時、どのような議論があったかとの質問に対して、パク委員長は「劇場や配給会社、製作会社からも強い反発があったと聞いている」と語った。しかし、この基金は韓国映画産業の発展のためという、大義名分を掲げて議論を重ね賛同を勝ち取ったのだという。この時、この基金に資金を拠出することは負担ばかりではなく、大きな利益につながると説得することが重要だとパク委員長は語る。

また、法律があるということは政治家を動かす必要があるが、KOFICはことあるごとに映画支援の大切さを訴えるために国会に行って話をしているそうだ。

そして、パク委員長は来年以降、はKOFICの第三期が始まると語った。しかし、それには今韓国映画界が抱えている困難を乗り越えねばならないという。

韓国映画界の苦境

パク委員長は、韓国映画の危機として2つの要因を挙げた。1つはコロナ禍から映画産業が回復していないこと。2つ目はNetflixに代表される動画配信サービスの台頭だ。

まず1つ目について、2023年のここまでの韓国映画の売上は、コロナ前の2019年対比で約60%程度にとどまっているという。特に6連休がある9月は映画産業にとって書き入れ時だが、2019年対比で52%と深刻な不振にあえいでいるという。

これが負のスパイラルを招いており、コロナで劇場休業時に公開できなかった映画がまだ100本近く未公開のままだそうで、6,000億ウォン(約690億円)近くの投資が回収されないままになっているとのこと。投資が回収できないので新作の製作も低迷しており、2023年は新作映画が11本しか作られていないという。

劇場側の運営も苦しく、コロナ禍に入場料が3回も引き上げられたそうだ。その結果、客足がさらに遠のくという悪循環が発生。KOFICの資金源は、映画館収入からの徴収なので、この悪循環によって2022年の資金は最盛期の3分の1ほどに落ち込んでいるという。

そして、コロナ禍で動画配信サービスの利用が急拡大したことが2つ目の要因だ。パク委員長は、韓国はコロナによって配信の影響力が最も拡大した国だという。同時に、韓国ではデリバリーサービスが急発達して、友人同士でデリバリーを頼み自宅で配信を楽しむライフスタイルが広がっているのだそうだ。

しかし、配信サービスが伸長しているにもかかわらず、黒字なのはNetflixだけで、5つの国産プラットフォームはどこも赤字だという。こうした配信の存在感増大は、映画館離れの要因でもあると考えられるが、他にも2つの問題を引き起こしているとパク委員長は語る。

1つは製作費の高騰。Netflixは国内映画よりも高額なギャランティを支払い、キャスト・スタッフともに人件費が高くなっており、制作者たちが国内映画に戻ってきていないという。2つ目は、Netflixらの配信オリジナル作品は、配信各社が全ての権利を保有するため、制作会社が下請けのようになってしまっているという問題だ。

例えば、「イカゲーム」は世界的な大ヒットとなったが、全ての権利をNetflixが保有しているため、韓国の制作会社はその大ヒットの恩恵にはあずかれなかったと報じられている。これは本来、韓国の会社が得るはずだった利益が外資の会社に流出した事態とも言えるだろう。

こうした課題に対応するため、KOFICは法改正案を作成。映画館で上映される映画以外(配信等の映画)も「映画」と定義し、動画配信サービスからも基金を徴収できるように働きかけているという。Netflixなどの動画配信を管轄している省庁は、放送通信委員会、化学技術部、文化体育観光部と3つにまたがっていて、多くの反対もあって難しい問題だが、法律改正に向けて一歩ずつ歩みを進めて、ゴールに近づいていると語った。

配信サービスから助成のための資金を捻出する仕組みは、ヨーロッパが先行している。フランスでは、動画配信事業者に国内での年間売り上げの少なくとも20%を投資することを義務づける法令をすでに実現させている。他にもスイスやスペインで同様の法案が実現している。

しかし、そのためには強大な配信事業者に対して発言権を強くする必要がある。そのためにも、パク委員長はアジア各国が連帯する必要性を訴える。

日本がアジア映画の共同組織に参加していない理由

今年の5月、カンヌ国際映画祭で、アジア7つの国と地域の映画機関が中心となって「アジア映画アライアンスネットワーク(AFAN)」が発足した。韓国、インドネシア、フィリピン、マレーシア、シンガポール、モンゴル、台湾が参加したAFANは、共同で人材育成や交流、共同制作を促進し、アジア全体の映画産業を発展させていくことを目標とする組織だ。この7カ国に日本は含まれていない

パク委員長には日本にもぜひ参加してほしかったと語る。しかし、日本には映画支援に関する国家機関がなくカウンターパートが存在しない。そのため韓国側からの打診をきちんと受け止めることができていない状態だという。

パク委員長は「日本はアジア映画の重要な軸となる国です。韓国の映画人も日本の古典映画で映画を学びました。非常に重要な役割を担う国」と力説。

カンファレンスに出席した諏訪敦彦監督は、「対外的にみて窓口があるだけでも大きな効果がある」と語る。諏訪監督は、釜山国際映画祭の教育プログラム「CHANEL×BIFFアジア映画アカデミー」で今年度の学長を務めたそうだ。ここにはアジア中から若い才能が集まり、人的交流が進んでいるという。アジアは大きく動いているのに、日本はその波に乗れていないと実感したそうだ。

パク委員長は質問に答える形で、AFANはアジアで共同の映画ファンドを作り、製作に活用するという意見も出ていると語った。そして、Netflixの存在感は韓国だけでなく、アジア各国でも大きくなっている。アジアが連帯してこれに対して共同対応できるかどうかも議論しているそうだ。Netflixのような外資系プラットフォームに対する発言力を共同で強めていきたいという狙いもありそうだ。

日本の公的な映画支援は諸外国に比べて脆弱だとよく指摘されているが、そもそもカウンターパートになれる組織がないことで、国際的な潮流に乗れていないという現実が浮き彫りになった。action4cinemaが求めるように、日本側にも映画支援の専門機関の必要性を強く感じさせる。

同時に、そのような支援システムを持つ韓国もコロナと配信台頭のダメージで危機を迎えているという事実も、貴重な情報だ。またKOFICのような組織を作るための方法論として、基金設立時の反対意見が業界からもあったことなど、多くの苦労を経て実現したものであることもわかった。

このような実りある情報も、韓国映画界と日本映画界の交流なくしては生まれない。今回の会合のような貴重な情報により多く触れられるように、日本もAFANのようなアライアンスには参加すべきだし、業界全体が国際社会に目を向けていく必要性を感じる会合だった。

《杉本穂高》

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杉本穂高

映画ライター 杉本穂高

映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。

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