韓国ドラマの“小粒化”が進行中……その要因とは?2023年韓国エンタメ動向を振り返る

「イカゲーム」やBTSの世界的ヒットをきっかけに、注目を集め続ける韓国エンタメ。コロナ禍の終焉に近づいた2023年、韓国エンタメにはどのような変化があったのか?コンテンツの“小粒化”、制作環境の“分散化”に注目し、2023年を振り返っていく。

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韓国ドラマの“小粒化”が進行中……その要因とは?2023年韓国エンタメ動向を振り返る
min woo parkによるPixabayからの画像 韓国ドラマの“小粒化”が進行中……その要因とは?2023年韓国エンタメ動向を振り返る

min woo parkによるPixabayからの画像

2023年12月に米Netflixが初めてユーザーの視聴データを公開した。


今後も半年に1度のペースでNetflixが配信している99%のコンテンツを対象にユーザーが何を視聴しているかをまとめた「What We Watched: A Netflix Engagement Report」を公表するという。

今回2023年上半期のレポートの中で、視聴時間ランキングTOP10に入った韓国作品は1つ、第3位の「ザ・グローリー ~輝かしき復讐~」だ。そのほか20位圏内にゲームバラエティの「フィジカル100」、ドラマ「イルタ・スキャンダル ~恋は特訓コースで~」のみがランクイン。下半期のヒット作が入っていないことを加味しても、ここ数年の中では少々インパクトに欠けるラインナップだったのではないだろうか。

2023年は「愛の不時着」「イカゲーム」「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」的、世界的大ヒット作が不作の年!?

2023年の韓国コンテンツを振り返ってみると「ザ・グローリー ~輝かしき復讐~」「イ・ドゥナ!」「マスクガール」そして「ムービング」など一時的・局地的に盛り上がった作品は複数あり、決して不作だったとは言えないものの、全体的にやや“小粒化”した印象は否めない。

原因はいくつか考えられる。まず今年は完全にコロナ禍のライフスタイルから脱したこと。元の生活を取り戻すべく恐る恐る“予行演習”をしていたような昨年と違い、今年は人々の日常生活と余暇の過ごし方がほぼ以前通りに、会場不足が問題になるほどコンサートやイベント数も爆発的に増加した。

そして別の要因としてプラットフォームと資本、人気キャスト、脚本家、スタッフ全ての“分散化”がある。Netflixの独り勝ちを許すまいと、他社も追随。今年の韓国ドラマの代表作とも言える「ムービング」はDisney+のオリジナル作品だ。韓国では「ムービング」の最新話が公開となる水曜日を「ム曜日」と呼ぶ現象が起きるなど、テレビ放送がないにも関わらず多くのファンを虜にした。


さらに韓国国内のOTTサービスTVING、WATCHA、Wavveもオリジナルコンテンツを制作している。中でもTVINGの母体はCJ ENMであり、「愛の不時着」「Sweet Home -俺と世界の絶望-」などヒット作を量産してきたスタジオドラゴンの系列会社でもある。経営状況としては今が正念場だ。現在Wavveと合併交渉中との報道もあり、生き残りをかけて本気になってきた模様。大手外資への“供給元”からの脱却のために自社プラットフォームでの作品制作にもさらに注力していくだろう。


増えるOTTサービスとオリジナル韓国ドラマに人気俳優と脚本家が分散化

実際、韓国ドラマの制作現場に立つスタッフに聞いた話では、ますます人気俳優・女優のキャスティング、そして定評のある脚本家の確保が難化しているという。先述の通りNetflixだけではなくDisney+、韓国の国内OTTも参戦してきている中でギャランティーも高騰。特に割を食らっているのは地上波だ。各社が切磋琢磨する中でこれまでの定説を覆すような名作が生まれたり、新人俳優や若手脚本家が育ったりするもの。しかし競争が長期化すると、そのうち撤退する企業とシェアを伸ばす企業の差が明確になっていく。コロナ禍による爆発的な韓国ドラマブームからもうすぐ4年目、2024年は勝者となるか敗者となるか、その“兆し”が見え始める年になると予想する

2023年は韓国ドラマの世界的スマッシュヒット作が出なかったものの、現状では作品数や話題性において未だNetflixが頭一つ抜けていた。2024年はNetflixの牙城を崩す存在が出てくるのか楽しみだ。

オーディション番組の国際化「K」の文字を抜いて勝負する元年に

2023年はオーディション番組にも大きな変化が見られた。テーマは脱“K”-POPの模索だ。HYBEと米Geffen Records Global Auditionによるグローバルオーディション番組「The Debut: Dream Academy(以下、ドリアカ)」とJYPエンターテインメントと米Republic Recordsによるオーディションプログラム「A2K (America2Korea)」はいずれも各社がこれまで培ったK-POPアイドルの選抜・育成システムをもとに米国を拠点として活動するグループを選抜するものであった。

現にドリアカからデビューが決まったガールズグループ「KATSEYE(キャッツアイ)」には10名中1名しか韓国人メンバーがおらず、A2Kで選ばれた「VCHA(ヴィチャ)」には米国・カナダ国籍のメンバーしかいない(1名は韓国系)。BTSの生みの親、HYBEの創業者パン・シヒョク氏が「K-POPが世界における真の主流となるためには、Kを外した『POP』そのものにならなければ」と主張している通り、韓国の大手芸能会社がさらなるグローバルビジネスに舵を切っているのは明白だ。

BTSやBLACKPINKによってようやく叶えられた全米市場での成功を一過性で終わらせないためであり、背景には韓国の少子化問題も見え隠れする。新人オーディション関係者に聞くところ、韓国国内にいる“可能性のある”10代にはすでにほぼどこかの事務所の名刺が渡っているといっても過言ではないという。中には数社からスカウトされる子も存在し、どの事務所も国内でのスターの原石探しに限界を感じ始めている。

各社で作られ続けるオーディション番組の飽和と難しいK-POPの定義づけ

ただ、ドリアカとA2Kがオーディション番組として成功したかと聞かれると、即答が難しい。KATSEYE、VCHAともに正式デビュー前ということもあってか“静観モード”だ。さらに、たびたび「どこまでがK-POPか論争」もSNS上で散見される中、“K-POPっぽいけれど違う”多国籍・他国籍グループへの受け止め方と熱量に個人差が生まれているように見受けられる。(定義付けや線引きの要不要については別問題)

さらに、近年はオーディション番組の飽和状態が続いている。2023年は「PRODUCE 101 JAPAN THE GIRLS」など日本国内でのオーディション番組も複数放送されていた。それぞれの番組とデビュー組にファンは付いており、局地的に盛りあがったり、SNSのトレンドにあがったりするものの、韓国ドラマと同様“分散化”している印象は否めない。

またオーディション番組ではENHYPENを輩出した「I-LAND」のガールズ版、「I-LAND2」が4月にスタート。今回はBLACKPINKのプロデューサー・TEDDY氏がマスタープロデューサーを務めるということで、注目したい。さらに12月22日にはSMエンターテインメントが番組制作会社STUDIO WHITEの設立を発表した。オーディション番組人気の火付け役「PRODUCE 101」、韓国でヒップホップ人気を盛り上げた「SHOW ME THE MONEY」、プロダンサーを一躍スターダムにのし上げた「STREET DANCE GIRLS FIGHTER」などMnetのオーディション番組に携わったプロデューサー陣が集結。アイドルだけに留まらず様々な分野のオーディション番組やOTTサービス向けのバラエティ番組を制作していくという。新たな番組フォーマットの開発にも期待が高まる。

一方、韓国ドラマは「イカゲーム」シーズン2の公開が2024年を予定しており、再び爆発的なグローバルヒットとなるか注目だ。

《K-POPゆりこ》

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韓国エンタメウォッチャー K-POPゆりこ

音楽・エンタメライター。専門はK-POPと韓国カルチャー全般。 2000年代からK-POPを愛聴するM世代。編集者として働いた後、ソウル生活を経験。 現在J-WAVE Podcast「深めの韓国エクストラ」の構成作家としても活動。

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