AIは「使うかどうか」から「どう使うか」へ――松浦シゲキ×ハヤカワ五味が語る、AI時代こそInter BEEで人に会うべき理由

取材音声の文字起こしやハイライト映像の自動切り出しなど、映像業界の日常業務にも入り込みつつある生成AI。セキュリティ、ツール選び、社内での導入の進め方といった課題にどう向き合うべきか。AI活用の最前線を知る2人が、映像業界におけるAI活用の現在地と、AI時代にリアルなイベントで人に会う意味を語る。

テクノロジー AI
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左:ハヤカワ五味氏、右:松浦シゲキ氏
左:ハヤカワ五味氏、右:松浦シゲキ氏
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  • AIは「使うかどうか」から「どう使うか」へ――松浦シゲキ×ハヤカワ五味が語る、AI時代こそInter BEEで人に会うべき理由

放送・映像業界では、この1年でAIの位置づけが大きく変わり、すでに日々の業務に入り込んでいる。一方で、セキュリティへの懸念やツール選び、社内導入の進め方に迷い、足踏みする放送局や制作会社も少なくない。

映像・音響・放送・通信のプロフェッショナルが一堂に会する国内最大級のメディア総合イベント「Inter BEE 2026」では、AI関連サービスの出展が増えており、映像業界のAI活用の今を一望できる場となりそうだ。

今回Brancは、StoryHubのエバンジェリストとして放送・映像業界の人々と日々意見を交わす松浦シゲキさんと、株式会社なかよし代表取締役として企業のAI導入で経営層と向き合うハヤカワ五味さんの対談を実施した。「平均値はAIに聞けばいくらでも出てきます」と語る松浦さん。では、AI時代に価値が高まる「外れ値」のインプットはどこで得られるのか。映像業界のAI活用の現状から導入時のポイント、リアルな場で人に会う意味まで、お二人に聞いた。

「Inter BEE」2026公式サイト

映像業界はAIをどう活かすかを考える段階に

――松浦さんは放送・映像業界の方と話す機会が多いと思いますが、AI活用はどの程度進んでいると実感していますか。

松浦:イベントなどで話を聞くと、去年はどう使うかという段階でしたが、今年はAIを使うのは当たり前で、実際の業務にどう適応させるかを考える段階に入っていると感じます。

――具体的にどんな業務で使われているのでしょうか。

松浦:例えば、取材の音声や映像を文字おこししてテキストの記事に再利用したり、ハイライト映像を自動で切り出したりしています。インタビュー相手のサマリーを調べるなど、下調べや事前準備ではだいぶ活用されているようです。

――一般企業と比べて浸透状況はいかがでしょうか。

ハヤカワ:先行していたIT企業に続き、一般企業でもGoogle WorkspaceでGemini、Microsoft系でCopilotが使えることもあり、ある程度使われるようになっています。ただ、1対1のチャット形式で質問する使い方が多く、業務に紐づいた活用は全体としてはまだこれからかなと思います。

松浦:広報やPR、マーケティングなど、メディアに密接な部署ではどんどん使われている印象ですね。

あと、フォルダに散逸した情報や過去データの整理。どの会社でも面倒な作業ですが、一度やらせるとびっくりするくらいキレイに整理してくれます。

ハヤカワ:私も10年ほど放置していたGoogleドライブをだいぶ整理してもらいました。削除はリスキーなので、使っていないものはアーカイブフォルダにまとめさせています。Computer Useも含め、今までできなかったことができるようになってきました。とはいえ、規模の大きな会社では、フォルダをAIに操作させるのを許可していないことも多いですね。

企業はAI導入する時、何を考えるべきか

――企業がAIを導入する際、どんな懸念が多いですか。

ハヤカワ:やはりセキュリティリスクです。最近、情報漏洩がめちゃくちゃ多いじゃないですか。大きな企業ほどこれまで守ってきたセキュリティのルールがあり、AIにパソコン自体の操作やブラウザの使用を許すのはリスクが大きい。どうしても逐一確認するプロセスを入れる必要があります。

松浦:セキュリティは後回しにされがちなので、優先順位を変えて、一番にやるべきことにしないといけないですね。

ハヤカワ:今、企業のセキュリティ部門も大変だと思うんです。大手以外にも個別業務に特化したAIツールが次々に出てきて、全部を審査して使用可否を決めるのは大変すぎる。本来決めるべき基本的なフレームに着手できていない会社もあるだろうと想像します。

松浦:AIは「自分より有能な部下」くらいに考えるといいと思うんです。優秀だから勝手にどんどんやれてしまう。だから、指示する側がわかっていることだけを任せた方がいい。自分のわからないことをやらせると、それが穴になったりするので。

――放送局や制作会社でも、どこまでAIに使わせるかの線引きが重要になりますね。

松浦:そうですね。まずは自分のパソコンの中で完結させ、外に出さないことが重要です。リサーチなどのインプットには使ってもいいけれど、アウトプットは人のチェックを挟む。チェックポイントを改めて見直し、今まで以上に確認作業にウエイトを置いた方がいいですね。

ハヤカワ:最近、飲食店のメニューに使われたAI生成画像の食品がおかしくなっている事例が話題になりましたよね。なぜ起きるのか考えたんですが、最終版までに「文字を変えて」「上司に言われたので直して」と何十回も調整するうちに、目が慣れて気づかなくなるんじゃないかと。いきなりあれが出てきたら、絶対おかしいと思うはずなんですよ。だから、1日寝かせて確認する、別の人に見てもらうといったルールが必要だと思います。

――どのツールにするか悩む企業も多いと思いますが、それより社内プロセスの構築が重要だということですか。

ハヤカワ:そうですね。ツールの発展は日進月歩で、昨日はChatGPT、今日はClaudeの方が優れているなんてことも日常茶飯事ですから、社内のルールやフローを整理する方が重要だと思います。

導入のためにとれるアクションは?

――ハヤカワさんは経営層と話す機会が多いと思います。自社でAI導入を進めるには、どうコミュニケーションするといいでしょうか。

ハヤカワ:経営層のAIへの姿勢は二極化していて、社長がノリノリで導入して現場が困惑するパターンと(笑)、「うちは関係ないね」という無関心パターンです。むしろ前者の方が大変そうな印象ですが。

日本企業は横並び意識が強く、去年まではAIに手を出しづらい雰囲気でしたが、今年は各業界に一社以上は活用企業がある状況なので、他社事例を引き合いに出すのがいいですよね。

松浦:メディア業界でいうと、テキストやウェブ系は昔から横のつながりがあり、AIの使い方についてもよく情報交換しています。でも映像系は、そうしたコミュニケーションが割と薄いと感じることがあります。忙しいのかもしれませんが、現場レイヤーでも情報交換できる環境を作るべきで、Inter BEEのようなイベントはまさにそのきっかけになると思うんです。

ハヤカワ:それは、経営層の説得にも繋がる部分があって、一番いいのは社長自身にAIを導入したいと思ってもらうことで、そういう時にカンファレンスは便利なんです。部下に言われるより、知り合いの社長が導入したとか、どこかで「これがすごいらしい」と聞いたりする方が効くというか。プライドがありますからね。イベントはそういう雰囲気を作りやすいと思います。

イベントで人に会って話す重要性はむしろ高まっている

――今年のInter BEEはAI関連の出展が増えています。現場レベルの話も含め、映像業界でのAI活用の他社事例を一望できる機会になりそうです。

松浦:そうですね。制作現場でどうAIを使っているのか、どう業務に組み込めるのか、直接話を聞けるいい機会になると思います。

ハヤカワ:AIでできることの範囲を狭く考えてしまっているケースは結構あると思うので、実際のサービスに触れると、何ができるかのイメージを広げられると思います。私も最近、画像認識などの“目”が良くなっていると感じていて、YouTubeの編集は7~8割までAIにやらせ、最後の細かいカットの詰めだけ人間がやるようになりました。そうした技術のトレンド感を知るのにもいいと思います。

松浦:アウトプットを見て認識を広げ、そこから自分たちはどういうインプットをするのか考える。AIは現状、ネットにあるものからしか企画を立てられません。オリジナリティのある企画は色々な人に会うことで生まれるでしょうから、こういう場所で人に会う重要性は高まっていると思うんです。

ハヤカワ:生成AIは一番平均的なものが出やすいですが、平均から外れたものこそ魅力があると思うので、そういうインプットができるかどうかが大事ですね。

松浦:その通りです。平均値はAIに聞けばいくらでも出てきます。これからは、いかに外れ値の情報を持っているかが大事になります。

ハヤカワ:もう一つ、人間がAIより優れているのはセンサーだと思います。話している時の間合いや表情から得る情報量は、まだ人間の方が多い。まだデータになっていない情報や、これからこうなりそうだという兆しを読み取る力があると思うんです。そういう能力はこれからの番組制作でも重要になるので、日々人との関わりを増やすことが大切だと思います。

松浦:それはすごく感じています。映像コンテンツは「どこどこでこういう催しが開催されました」という過去の情報が多いんですが、それは本当に見られなくなってきている。

未来の提案ができるかどうか、そのためにはインプットがすごく大事です。例えば雑誌はこれからのトレンドを書くので未来の情報。テレビにもトレンド番組がありますが、そういう視点にどんどん切り替えていく必要があると思います。

――新たなマインドセットを作るためにも、物理的なイベントでたくさんの人に会うのはいいですね。お二人はInter BEEにどんなことを期待しますか。

松浦:フィジカルAIの流れは映像系にも広がり、インタラクティブな体験の要素がどんどん映像に入っていくと思います。なので、フィジカル映像、体験型映像のような、映像の中に入っていける体験ですね。

ハヤカワ:専門性の高い人がAIを使った方が面白いものができると思っています。最近はYouTubeでも、明らかに本業の人が作った作品に出くわすようになりました。映像の専門家がAIを使うと素人とどこで差が生まれるのか、現状どこに課題を感じているのか、そういう話を聞きたいですね。


AIの活用方法を知るだけでなく、実際にサービスに触れ、現場で活用する人々と話すことで、自分たちの仕事にどう生かせるのか、新たなヒントが見つかるかもしれない。AI時代だからこそ、人と会い、情報を交換することの価値は高まっている。

Inter BEE 2026では、AI関連の展示や多彩なカンファレンスを通じて、映像業界における新たな技術や活用事例に触れることができる。AIをどう使い、どのような価値を生み出していくのか。そのヒントを探しに、ぜひ会場に足を運んでみてほしい。

来場事前登録(無料)はこちら

【開催概要】

Inter BEE 2026

会期:2026年11月18日(水)~20日(金)

会場:幕張メッセ(〒261-8550 千葉県千葉市美浜区中瀬2丁目1)

入場:無料(全来場者登録入場制)

主催:一般社団法人 電子情報技術産業協会

公式サイト:https://www.inter-bee.com/ja/

《杉本穂高》

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杉本穂高

Branc編集長 杉本穂高

Branc編集長(二代目)。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。

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