企業が自社の魅力を伝えようとするほど、内容はどこか固くなる。視聴者の側も、作られたPRとそうでないものを鋭く見分けるようになった。誠実に等身大を見せることが有効だとわかっていても、いざ実行するとなると躊躇が生まれる——多くの企業が抱えるこのジレンマに、意外な角度から切り込むコンテンツが登場している。
ギャルが企業や地域の現場に潜入し、働く人の想いを届けるドキュメンタリー「潜(もぐ)♡らぶ(以下 潜らぶ)」だ。仕掛けるのは、ショートドラマ制作を手掛ける株式会社DoFull。同社が手掛けた、株式会社マイナビによる廃校をリノベーションした宿泊体験施設「さんむ西小」を取り上げたエピソードは、TikTokやInstagram、YouTubeで展開され、多くの再生数と好意的なコメントを獲得している。
企業もSNS動画を使うことが求められる時代だが、自然と視聴者に届けるにはどんな方法や姿勢が重要なのか。マイナビ地方創生推進事業部の竹嶋智之氏と、DoFull「潜♡らぶ事業責任者」の加藤弘樹氏に話を聞いた。

マイナビ地方創生事業とは
――マイナビが地方創生事業に取り組まれている背景についてお伺いしてよろしいですか。
竹嶋:当社は、「一人ひとりの可能性と向き合い、未来が見える世界をつくる。」をパーパスに掲げ、人々の人生に寄り添い、サポートする多様な事業を展開しています。主力事業である人材ビジネス領域においては、就職、転職、アルバイト等を中心とした情報サービスや人材紹介サービスを展開しており、また、進学、ウエディング、ニュース、農業など、多数の生活情報メディアを運営しています。
地方創生事業は、少子高齢化が叫ばれ、近年では年間450校ぐらい閉校になる今の状況に、地域の活性化に取り組むことができないかというところからスタートした事業です。現在は、事業の持続可能性や収益性などを考慮して廃校のリノベーションに注力している状況です。
――年間で450校も廃校になっているのですか?
竹嶋:そうなんです。最近は減少ペースが少し落ち着いてきて年間300校くらいなのですが、それでもかなりのペースで閉校が増えています。学校の敷地は広いので、日本全体で考えるとかなりの面積が使われないままになってしまっている。そういう場所をにぎわいのある場所として再生できれば地域も活気を取り戻すのではないか、そう思ってこの事業に取り組んでいます。
――今回、「潜らぶ」で取り上げられたのは千葉県山武市の廃校をリノベーションした宿泊体験施設「さんむ西小」ですね。このリノベーションのお話はどういう経緯で受けられたのですか。
竹嶋:8年前に手掛けた「ちょうなん西小」が軌道に乗り、2校目の展開を検討していた時期に、多くの自治体と意見交換をさせていただいていました。その中で、廃校活用を地域の課題解決や地域活性化につなげたいという想いを特に強く持っていたのが山武市だったんです。市の担当者の皆さまの熱意はもちろん、地域住民の皆さまも勉強会などを通じて主体的に関わっておられ、「地域全体で挑戦していこう」という空気を感じ、その想いに応えたいという気持ちから、さんむ西小プロジェクトに取り組ませていただくことになりました。

――今年3月にオープンしたばかりですが、MVの撮影などにもすでに使用されているようですね。
竹嶋:そうですね。学校のシーンの撮影はもちろん、それ以外のシーンの撮影にも使用されることがあります。撮影クルーにとって魅力的なのは、撮影場所と宿泊場所を同時に確保できることのようです。それと、撮影案件では、公開前の情報を外部に出さないよう慎重な管理が求められます。そうした点も含めて、安心して任せられると期待してくださる方が多いですね。
ギャルと企業PRの相性

――「潜らぶ」という企画はどうやって思いついたのですか。
加藤:僕は、ギャルマインドにずっとリスペクトを持っていました。ギャルは、コミュニケーション能力も高いし、すぐに誰とでも打ち解けられて、ポジティブ志向だし、きちんと自分を持っているから、自分も周りも肯定できる。会社として新しいメディア事業をやりたいという話が出た時に、ギャルを軸にした番組をやりたいと提案し、ギャルとギャップのある仕事を掛け合わせると面白いんじゃないかと思ったんです。
そうしたギャルマインドを体現する出演者ならではの率直さやコミュニケーション力を生かし、これまでにない企業の採用動画やPR動画を作れるんじゃないかと考えました。
――確かに、いわゆる企業広報には見えない、自然体な作りになっていますね。
加藤:それが「潜らぶ」のコンセプトです。ギャルが職場で仕事体験することで、業務内容をわかりやすく伝えられる。ギャルのコミュニケーション力で普段通りの空気感を作ることで、自然と職場の雰囲気も伝わりやすくなります。
――竹嶋さんは「潜らぶ」の企画を最初に聞いた時、率直にどう感じましたか。
竹嶋:最高に面白いと思いました。ギャルマインドという言葉を加藤さんから説明してもらい、すごく共感したんですよね。
現代に生きる人々は、作られたPR映像とそうではないものを鋭く見分けるようになっていると思います。そういう時代には、作りこまない等身大の自分たちを知ってもらうことに価値がありますし、それを届けることが企業の誠実さになると考えています。

地域や視聴者の反応は?
――マイナビが「潜らぶ」とのコラボを決めた要因はなんだったのですか。今年オープンしたばかりなので認知向上による集客アップでしょうか。
竹嶋:実は、集客についてはあまり課題を感じていません。オープン以来、思いのほか好評でして、想定以上の方にご利用いただいておりますし、今年利用されたお客様が来年分も予約してくださっている状況です。地方創生の取り組みにはSNS動画の力はこれから不可欠になると思っていましたので、集客のためのPRというよりも、マイナビの取り組みについて知ってもらいたいという思いで今回組ませていただきました。
地方と都市部では、情報の届き方や関心の持たれ方にどうしても距離があります。我々は、動画を使ってその距離を少しでも縮めたいと思っていました。演者さんとして、ギャルマインドを持った人が入ってくれれば、我々の取り組みが、わかりやすく伝わる可能性があると思ったんです。
地域の方々との信頼関係を築くには、丁寧なコミュニケーションが欠かせません。さんむ西小では、月に2回くらい地域の方々が自主的にイベントを開催できるようにしているのですが、最初はなかなか参加者も増えませんでした。でも「潜らぶ」放送の少し後くらいから活発になっていったんです。動画が直接どれくらいの効果を生んだのか、測定は難しいですが、心理的な壁を少し超えられたのではないかと感じています。
――実際、地域の方からの反響はいかがでしたか。
竹嶋:動画公開後には、「見たよ」「知っている人が出ていて面白かった」といった声も多くいただきました。山武市の皆さんは温かく魅力的な方ばかりですが、普段はあまり表に出ない魅力もたくさんあります。ゆみちぃさんが自然なコミュニケーションで地域の方々の新たな一面を引き出してくださり、私たち自身も知らなかった地域の魅力を発見する機会になりました。地域の皆さまにも楽しみながら参加していただけたことをとてもうれしく思っています。
また、さんむ西小のスタッフは、ゆみちぃさんとは全然タイプが違うので最初は不安を感じていたのですが、すぐに打ち解けて友人になっていました。実際に、動画を見て来てくださる方もいらっしゃいますし、関係者にも第三者にも好評です。
――一般の視聴者の反応はどうでしたか。
加藤:ショート動画の再生数は、InstagramとTikTokとYouTubeを合わせて286万を超えています。
コメント欄には、「ここってさんむ西小だよね?」とか「行ったことある」など、現地を知る方からの反応もありました。あえて「さんむ西小」だと強く言わずに動画を出しているんですけど、それがかえってコメント欄でのオーガニックなコミュニケーションを生んで、「行ってみたい」などの好意的なコメントを引き出しています。
竹嶋:それは企業側として嬉しいですね。ギャルに対するコメントばかりにならず、場所やサービスについてのコメントが盛り上がってくれるのはありがたいです。
加藤:やっぱりさんむ西小がすごく素敵なところだったのが大きいと思います。
――「潜らぶ」はショート動画と長尺動画を展開していますが、コンテンツのだし分けはどう意識していますか。
加藤:基本的にはショート動画は認知拡大を目標にしています。YouTube、insragram、TikTok合わせて平均100万再生を超えており、認知拡大に貢献できていると思います。ショート動画を導線にYouTube本編を視聴してもらい、施設や仕事内容を詳しく紹介し、そこで働く人の人柄を深掘りすることで、企業の魅力を伝えていくことを意識しています。
今回のさんむ西小の場合、施設の紹介と同じくらい、地域住民の方との関わりが大事だと思いました。地元の方たちが、本当に素敵な方たちばかりだったんですよ。そういうのはショート動画だけでは伝えきれません。
でも、やはり自分が通っていた学校が別のものになってしまうことを受け止め切れていない方もいらっしゃいます。だからこそ、そういう方たちとも交流する必要があると思い給食パーティを開くという企画を立てました。
――地方創生事業は、地域住民の協力が不可欠ですから、地元の方を取り上げるのは、非常に重要ですね。
竹嶋:そうですね。宿泊施設として事業の持続可能性を担保しながら、地域の方の居場所を作るというのが実はこの事業の本質です。一方で、地域の方から見れば、東京の企業がやってきたと受け取られることもあります。「潜らぶ」さんがその垣根を払おうと、地域の方を巻き込んだ企画をしてくれたのはとてもありがたかったです。
企業にとっての動画コミュニケーションの新しい形を
――実際、多くの企業が誠実に等身大を見せることがPRとして大事だと思っているとは思うんですけど、いざ実行できるかというと躊躇もありますよね。
竹嶋:我々のケースでは、自分たちだけでやろうとすると、どうしても固くなってしまう部分がでたと思うんです。ゆみちぃさんはさんむ西小ではたらくスタッフの等身大を上手に引き出してくれました。
加藤:ゆみちぃさんは、相手へのリスペクトをすごくもっているんです。それでいて好奇心も強いので、自然に人や仕事について深掘りすることができるんです。とても前向きに取り組んでくれるので、「撮れ高」や「PR」感を意識しすぎることもなくやれるんですよね。

――今後「潜らぶ」をどう運用していくのですか。
加藤:潜らぶは、若年層の女性を中心に支持いただいています。仕事の裏側をギャルが動画を通して発信していくことで、視聴者には仕事の楽しさや魅力、新しい職や働き方の選択肢を届け、企業の方には採用/PRにてリーチの拡大、自社の魅力をギャルが全力でアゲ~な形で伝えていきます。ただ動画を作るだけではなく、課題解決や結果に繋が理、視聴者の行動が変わるようなメディアにしていきたいです。
竹嶋:地方創生に関わっている身としては、人を呼ぶには、まず知ってもらうことから始めるしかありません。今、情報の入口はスマートフォン、そして動画であることが多いですから、マイナビとしては今後も地域の魅力や取り組みを広く届けるためにSNS動画には力を入れていきたいです。
加藤:始まったばかりの動画チャンネルですが、ありがたいことに、すでに色々な企業からお声がけいただいています。ギャルマインドの素晴らしさを少しでも広げていきたいと同時に、新しい層にリーチした企業のお手伝いができるといいなと考えています。






