生成AIの急速な発展を背景に、俳優や声優の「声」「肖像」を無断で学習・生成し、SNSや動画プラットフォームで公開・収益化する事案が深刻さを増している。声優の声を学習させた合成音声が無許諾でウェブ上に出回り、それを購入したユーザーがさらに二次的に音源をアップロードする、といった連鎖的被害も確認されている。
こうした状況を踏まえ、法務省民事局は2026年4月24日、「肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会」を立ち上げた。座長には田村善之・東京大学大学院教授が就き、知的財産法および民法の専門家8名で構成される。今夏を目途に、どのような場合に民事上の賠償責任が生じるのかについての指針を取りまとめる方針だ。
本稿では、現状の問題点と法的論点、そしてエンタメビジネスに関わる事業者が取るべき対応の方向性を、検討会の資料に基づいて整理する。
何が問題になっているのか――被害の実態
AIによる無断生成と収益化の横行
問題の核心は、生成AIで本人と酷似した音声・肖像を作り出し、商業的に流通させる行為にある。被害の類型は多岐にわたり、人気声優の声を学習させた合成音声を生成・配信する事例、俳優の声を無許諾でCMナレーションに用いる事例、すでに故人となった声優の声を学習させ新作ゲームのキャラクターに使う事例などが挙げられる。
俳優や声優にとって、声は単なる身体的特徴ではない。年齢・性別・健康状態などの情報を含み、指紋や容貌と同様に個人を識別する機能を備えた人格的性質を有する一方、職業として声を用いる者にとっては顧客吸引力をもつ財産的価値の源泉でもある。AIによる無断利用は、この人格的価値と財産的価値の双方を一挙に侵害する行為にほかならない。
権利救済のハードルと萎縮効果
もっとも、日本の現行法では、こうした無断利用に対してどこまで賠償責任を問えるのかが必ずしも明確ではない。パブリシティ権や肖像権は判例の積み重ねによって形作られてきた権利であり、とりわけ生成AIによる声の利用について、侵害の要件や損害賠償の範囲が判例上十分に確立しているとは言いがたい。その結果、被害を受けた側が提訴をためらうケースが生じ、これが侵害行為の蔓延を許す土壌にもなっている。
現行法でどこまで戦えるか
検討会で議論される主な論点は次の通り。

