カンヌのマーケットで日本が「名誉国」に──過去最大規模の日本プレゼンス、その舞台裏と意義をJETRO事務局に聞く

2026年、日本がカンヌ国際映画祭のマーケット「マルシェ・ドゥ・フィルム」のカントリー・オブ・オナー(名誉国)に選ばれた。この一大プロジェクトの実行委員会事務局を担うのが日本貿易振興機構(JETRO)に話を聞いた。

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カンヌのマーケットで日本が「名誉国」に──過去最大規模の日本プレゼンス、その舞台裏と意義をJETRO事務局に聞く
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  • カンヌ国際映画祭2025
  • ギヨーム・エスミオル(Guillaume Esmiol)氏
  • ©︎dwarf/Whatever Co./TECARAT
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  • 出典:Marché du Film
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カンヌ国際映画祭といえば、華やかなレッドカーペットやコンペティション部門に目が向きがちだが、その裏では世界最大級の映画マーケット「マルシェ・ドゥ・フィルム」が動いている。世界中のプロデューサー、バイヤー、配給会社、配信プラットフォームなど、業界関係者が集まり、作品の売買から共同製作の交渉まで、映像ビジネスの最前線が展開される場だ。

そのマルシェで2026年、日本がカントリー・オブ・オナー(名誉国)に選ばれた。折しも今年のカンヌではコンペティション部門に日本映画が3本ノミネートされており、映画祭本体でも日本の存在感が際立つ。ビジネスと創作の両面で、日本に大きなスポットライトが当たる年だ。

この一大プロジェクトの実行委員会事務局を担うのが日本貿易振興機構(JETRO)。コンテンツ課の中澤義晴氏と友田椋子氏に、決定の経緯からプログラムの全容、名誉国に選ばれた意義まで話を聞いた。


日本への世界的な関心の高まりが背景に

カントリー・オブ・オナーの決定は、日本側からの売り込みではなく、マルシェ側からのオファーがきっかけだった。

背景にあるのは、近年の日本コンテンツに対する世界的な注目の高まりがあると見られる。昨年10月、マルシェ・デュ・フィルムのギヨーム・エスミオル(Guillaume Esmiol)エグゼクティブディレクターは記者会見にて、「日本は素晴らしい創造性を持ち、非常に強力な映画産業を有していて、国際的にも非常に重要な国」であると語っていた。また世界的に注目されるアニメーションについても非常にユニークであると触れていた。

【参照】


ギヨーム・エスミオル(Guillaume Esmiol)氏

実行委員長を務める一般社団法人映画産業団体連合会の迫本淳一会長は、業界にとっての大きなチャンスであると同時に、日本の映像業界が世界から注目されていることを、映像業界以外の人にも知ってもらえる機会と位置づけているという。世界的なステータスを持つ場で日本の映像産業が脚光を浴びることは、コンテンツ産業全体、ひいては日本のプレゼンス向上にもつながる──そうした認識がある。

「伝統から革新・未来へ」──多彩な公式プログラム

今回のカントリー・オブ・オナーでは、「伝統から革新・未来へ」をテーマに多岐にわたる公式プログラムが組まれている。カンファレンス、スクリーニング(上映)、プロデューサーズネットワーク、アニメーション特集、共同製作関連からオープニングナイト(パーティ)まで、日本の映画産業のプレゼンスを高めるための施策が並ぶ。

なかでも注目されるのが、日本のIPをテーマにしたカンファレンスだ。Netflix実写シリーズ『ONE PIECE』のエグゼクティブ・プロデューサーであるフィロソフィア株式会社の藤村哲也氏や、ソニー・ピクチャーズのプレジデントSanford Panitch氏が登壇し、日本IPの可能性を語る。

カンヌといえば実写映画の最高峰というイメージが強いが、マルシェはIPやアニメーション、テクノロジーまで貪欲に取り込む姿勢を持っている。その場で日本のIPが正面から語られることの意味は大きい。

撮影誘致をテーマにしたカンファレンスも見どころだ。東宝、東映、松竹、角川大映など日本の撮影所の代表に加え、経産省、山本一太群馬県知事が登壇する。各国がロケ誘致インセンティブの獲得競争を繰り広げるなか、日本の制度や撮影インフラを国際的にアピールする貴重な機会となる。

スクリーニングデーでは、テーマの「伝統」を担う形で、過去にカンヌに出品された名作が改めて上映される。日本映画の歴史的な蓄積を世界の映画関係者に再認識してもらう狙いだ。

プロデューサーズ・ネットワークでは、カントリー・オブ・オナーの特別枠として10名の参加権が与えられた。公募枠5名に加え、経験豊富なプロデューサー5名で構成される。「朝から夜まで続くプレゼンやネットワーキングの場に、これだけの日本のプロデューサーが一度にまとまって参加できるのは非常に大きい」と中澤氏は語る。権利の売買だけでなく、共同製作やクリエイティブな連携のきっかけを生む場として、この枠の拡大がもたらす効果は大きそうだ。

パートナープログラムの広がり──約40名のアニメプロデューサー派遣も

公式プログラム以外でも、日本の存在感は前例のない規模で広がっている。実行委員会が「連携企画」と位置づけるパートナープログラムは、34件が承認された。ブース出展や各種レセプション、プロモーションイベントなど、カンヌの会場とその周辺で展開される日本関連の企画が、カントリー・オブ・オナーのロゴのもとに束ねられていく。

「皆さんがこの機会を活かそうとされており、カントリー・オブ・オナーに日本が選ばれたこの機会にぜひ何かやりたいというお問い合わせが多くありました。」(友田氏)

国内映画祭や教育機関、民間企業など、様々な外部組織とも連携しながら日本映画をアピールしていく方針だ。

とりわけ規模が大きいのがアニメーション分野の取り組みだ。日本動画協会の協力のもと、20社から約40名のプロデューサーがカンヌに参加する予定だ。アニメーションデーでは東映アニメーションやトリガーといったスタジオによるパネルディスカッションやショーケースが行われ、ネットワーキングの場も設けられた。

また、東映、松竹、東宝、KADOKAWA等、主要映画会社の経営トップが揃って渡仏するのも、今回ならではの動きだ。

「例年、ブース出展では作品販売の担当者の参加が中心になりますが、今回はプロデューサーや主要映画会社の経営トップまで、日本の映画業界をけん引する多くの方にカンヌに来ていただける。こういう機会がなければなかなか実現しないことです」(中澤氏)

ユニジャパンが主導する「Japan IP Marke」の設置も見逃せない。TIFFCOMで培った知見をカンヌに持ち込み、日本IPの国際的な取引の場を広げる試みで、カントリー・オブ・オナーの連携企画として位置づけられている。

「Japan IP Market」

JETROとしても映像産業にとどまらない波及効果を狙っている。JETRO内の食品・日本酒を扱う部門と連携し、オープニングナイトやユニジャパン主催のジャパンフィルムナイトで日本食・日本酒の提供や鏡割りを行う計画が進んでいる。「こうした機会を捉えて他産業への波及を図ることも非常に重要だと考えています。日本食や日本酒にも高い関心が寄せられており、この機会に映画と共に日本の食文化にも触れていただければ」と中澤氏は話す。

このタイミングで選ばれた意義──「届ける力」の転換点に

日本政府は、コンテンツ産業の海外売上を2033年までに20兆円に引き上げる目標を掲げている。現状ではゲームとアニメが先行し、実写映画の国際展開は大きな課題として残る。カンヌという実写映画の最高峰でカントリー・オブ・オナーに選ばれたことは、まさにその課題に正面から向き合う機会だ。

中澤氏は、今回の取り組みの意義をこう説明する。「プロデューサー同士の交流の機会を広げたり、共同製作につながる関係性を築いたりと、次のビジネスにつながる仕込みの場を作れることが非常に大きい。JETROでも日頃から、有力な映画祭等で日本のプレゼンスを上げる取り組みを進めてほしいというご意見はよく頂きます。今回は最高峰の場でそれが実現できる」。

日本は長年、コンテンツを「作る力」では世界的に高い評価を得てきた。しかし、それを国際市場に届け、ビジネスとして成立させる「届ける力」については課題が指摘され続けてきた。主要映画会社のトップからアニメスタジオのプロデューサーまで、これだけの規模で世界最大級のマーケットに乗り込むことは、その「届ける力」を鍛え直す第一歩と言えるだろう。

2026年のカンヌが、日本のコンテンツ産業にとって歴史的な年として記憶されることになるのか。その答えは、まもなく南仏の地で示される。

出典:Marché du Film

マルシェ・ドゥ・フィルム(Marché du Film)2026 開催概要

  • 開催期間:2026年5月12日(火)~5月20日(水)
    ※カンヌ国際映画祭(Festival de Cannes)第79回は、2026年5月12日~5月23日開催。

  • 会場:フランス・カンヌ市内

    • 主会場:Palais des Festivals et des Congrès

    • 主な関連会場:Village International、Plage des Palmes、Hotel Carlton、Art Explora、Cineum、Olympia、Les Arcades など

    • 公式会場案内:https://www.marchedufilm.com/venues/

  • 公式サイト

《杉本穂高》
杉本穂高

Branc編集長 杉本穂高

Branc編集長(二代目)。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。

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