元東映プロデューサー紀伊宗之が「K2 Pictures」とファンドを立ち上げた理由。「映画業界の課題を解決するために起業した」

『孤狼の血』や『シン・仮面ライダー』などをプロデュースした紀伊宗之氏が、東映を退社して新会社「K2 Pictures」を設立。先日映画ファンド「K2P Film FundⅠ」の立ち上げが発表されたばかりだが、同社は今後どのような展開を目指しているのか。紀伊氏に話を聞いた。

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元東映プロデューサー紀伊宗之が「K2 Pictures」とファンドを立ち上げた理由。「映画業界の課題を解決するために起業した」
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『孤狼の血』や『シン・仮面ライダー』などをプロデュースした紀伊宗之氏が、東映を退社して新会社「K2 Pictures」を設立。カンヌ国際映画祭が開催されていたフランス・カンヌで、日本映画の新たな生態系を生み出すためのファンドを立ち上げたと発表した。


「K2P Film Fund Ⅰ(ケーツーピー フィルム ファンド ファースト)」を組成し、岩井俊二、是枝裕和、白石和彌、西川美和、三池崇史や、アニメーション制作会社MAPPAなどが参加。国内外から新たな投資家を映画産業に呼び込み、クリエイターへの利益還元も積極的に行うことを掲げている。

過去にも映画ファンドは日本にも存在したが、それらと「K2P Film FundⅠ」は何が異なるのか。どのような問題意識で会社と新ファンドを立ち上げることにしたのか、その真意を紀伊氏に聞いた。

K2 Pictures 紀伊宗之氏。

国際ファンドが日本映画に必要な理由

――今、映画ファンドを立ち上げる理由はなんでしょうか。

僕の中では明確に“必然性”があります。映画業界は今、色々な問題を抱えていますよね。映画を作っているクリエイターにお金が行き届かないとか、労働環境が悪いとか、原作ものばかりになっているとか。

僕も東映時代に『犬鳴村』などのオリジナル作品を立ち上げるのに苦労しましたし、規模が大きい作品にはなかなかお金が集まらないという経験もたくさんしてきました。現状は、事前に製作費の回収が見込めそうな、リスクのない企画しかやらない状況になっていて、日本映画の多様性を狭めてしまっているんじゃないかと思ったんです。

だからリスクはあるけど、オリジナル作品や規模の大きい作品を作ることができるようにファンドを立ち上げて製作費を集めるやり方もあっていいと考えました。

――大きな予算の作品が作れないのは、日本映画は国内市場だけでリクープすることを前提に予算を組むからですよね。そこを今回組成したファンド「K2P Film FundⅠ」でどう解決し、世界市場に繋げていくのでしょうか。

僕たちが組成するファンドは、7割くらいを海外の投資家から集める予定です。日本以外の国では、ファンドで映画を作ることは当たり前に行なっていることなので、海外にとっては新しいことではありません。

今の日本映画では、製作委員会方式による、エクイティ(Equity:この場合では出資の意味合い)のみで予算を賄うシステムがほとんどです。K2 Picturesが作る映画はファンドがエクイティとなります

実は、海外の映画製作におけるマネタイズの構造としては、ファンドとデット(debt:借金・負債)と補助金なんです。K2 Picturesの最終的な目標としては、ファンドというエクイティに加えて、デットを入れてレバレッジをかけていきたい。それをベースに映画にかける制作費を上げていき世界に通用する作品を生み出していく。そうすると、世界市場からの回収率も上がっていくと思うんです。

――過去にも国内に映画ファンドはありましたが、いずれも長続きしていません。「K2P Film FundⅠ」は、過去のファンドとどう違うのでしょうか。

まず時代だと思っています。かつて各社で映画ファンドが立ち上がった頃、日本映画は海外で注目されていませんでした。なので、結局は製作委員会を国内のファンドに形を変えただけだったと思うんです。あくまでファンドを委員会の仕組みに寄せたものと理解しています。

過去の事例を参考に、僕らはファンドでやるメリットをちゃんと理解して、映画の作り方も変えていきたいと考えました。ここまでの準備や勉強にはとても時間をかけました。

――カンヌでの記者会見では製作委員会の窓口権の話も出ましたが、今日本で主流となっている委員会方式にメリットはあるのでしょうか? また、製作委員会に対する課題や問題は何だと思いますか。

実写やアニメも含めて色々な委員会で映画を作ってきましたが、これがいいと思ってやってる人はいないと思うんですよね。製作委員会のメリットは何かと問われると、映画を取り扱う事業者が、みんなで1つの映画を一緒に制作している共同製作契約を結んでいるということでしょうか。大体みんな同じような業界にいるプレイヤーが参加していて、阿吽の呼吸みたいなものがあり、やりやすさはあると思います。でも、問題点はいくつもあります。

ひとつは、新しいビジネスチャンスを逃しているという点です。共同製作契約を結んでいるがゆえに、新しい取り組みはなかなか実行することが難しいです。なぜなら、委員会にはたくさんの会社が入っており、権利の窓口が分散されているので、各社の考え方が1社でも異なると、新しいことに舵を切ることはできないんです。

例を挙げると、僕がティジョイで配給をしていた時代に『劇場版 TIGER & BUNNY』や『009 RE:CYBORG』、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q 』を海外で直接配給をさせてもらったんです。その経験もあって、今後日本の映画も絶対にグローバルにプラットフォームビジネスができるから、直接海外の劇場に配給した方が大きなビジネスチャンスにつながると確信していました。だから、東映時代に自分が企画やプロデュースで携わった作品の時にも、製作委員会に自分たちで海外配給させて欲しいという提案をしたのですが、海外へのライセンスを持っている会社は嫌がるんです。なぜなら、海外の配給会社に対してマージンを取って自分の部署の売上を上げなければならないから。作品自体の売上ではなく、自分の部署や会社の利益しか見えなくなってしまい、作品としては海外でのビジネスを広げた方が儲かるはずなのに、それぞれの部署や会社の事情が優先されて、最適化できないんです。

もうひとつは、委員会方式の場合、制作費を上げるには全社の承諾が必要なので、1社が反対しただけで予算を上げられなくなります。予算を少なくする分には合意しやすいけど、費用を上げるための合意が難しいので、映画制作に大きなお金をかけづらくなっているんです。

海外市場に自ら配給を目指す

――日経新聞の記事では、ファンドの投資期間は8年、100億円を目標に年間10本程度製作すると出ていました。

そうですね。ファンドへの投資期間は実質7年で、会計開始時から計算すると8年、回収期間は5年で約13年で運用していきます。現状、2026年以降の公開を目指して、長編映画の企画開発を10本以上進めています。海外との共同製作作品もいくつか準備中です。

――参加予定と発表された映画監督の名前を見る限り、娯楽色の強い作品も作家性の強いタイプの作品も作っていくのですか。


《杉本穂高》

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杉本穂高

映画ライター 杉本穂高

映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。

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