Photo by Victor Boyko/Getty Images for Red Sea IFF
サウジアラビアの Ithra Film Productionsは、国際的な映画製作者を誘致し、地元の才能やクルーが活躍できるようにすることを目的とした新しい映画ファンドを立ち上げた。
Varietyによると、Ithra Film Productionsは、国有石油会社のサウジアラムコが文化振興のために出資しているキングアブドゥルアジズ世界文化センターの一部門であり、年間最大5本の映画を委託し、資金を提供することを目指しているとのこと。また、サウジアラビアの映画産業の発展に寄与するという条件以外の選考基準は明らかにされていない。Ithra Film Productionsの舞台芸術・映画部門責任者であるマジェド・Z・サマン氏は、カンヌ国際映画祭のサウジアラビアパビリオンのパネルでこのファンドを発表した際に、「我々は国際的な映画製作者にサウジアラビアの映画製作者とのコラボレーションを求めており、サウジアラビアの才能と分野の発展を加速させる旅に参加してもらう」と述べた。さらに、「地元のクルーと協力することで、知識の伝達と異文化交流の有機的なプロセスを促進し、地元の産業を高め、世界の映画界を豊かにしたいと願っている」と付け加えた。この企画公募の締め切りは8月4日で、非公開のパネルによって選ばれる。
なぜ、サウジアラビアは国際的な映画製作を推進するのか。背景には、同国の国家戦略がある。石油依存からの脱却を急ぐサウジアラビアの国家戦略「サウジ・ビジョン2030」は国内発電に占める再生可能エネルギーの割合を50%まで引き上げる目標うぃ掲げている。世界的な気候変動への危機感を背景に、脱炭素の動きが加速している。世界有数の産油国であるサウジアラビアにとって、産業構造の転換は国の存亡に関わることだからだ。
そして、サウジアラビアは石油に変わる産業を育成する必要がある。その有力な1つがエンターテインメントなのだ。同ビジョンでは、「国内における文化・娯楽活動への支出を、総家計支出の2.9%から6%に引き上げる」ことを目標とし、そのために「文化、娯楽活動の促進」を政府支出により推進していくことを宣言している。
同国のエンタメ支援の本気度は、投じられる予算の規模からも明らかだ。JETROによると、サウジアラビア娯楽省は2028年までに文化産業へ最大640億ドル(約9兆円規模)を投資する意向を示しているという。政府主導で国内外の投資家誘致やパートナーシップ締結が進められているのだ。
Ithraのファンドも、この文脈で読み解くと戦略的な意図が浮かび上がる。 同ファンドは「全額出資」という好条件と引き換えに、サウジアラビア国内での撮影や、地元の才能(タレント・クルー)との協働を求めている。Ithraの担当者であるマジェド・Z・サマン氏はカンヌ国際映画祭のパネルで、「地元のクルーと協力することで、知識の伝達(ナレッジ・トランスファー)を促進したい」と語っている。 つまり、海外の一流プロダクションを呼び込むことで、そのノウハウを国内の映画産業に移植しようとしているわけだ。
現在、世界各国で映画のロケ地誘致合戦が激化している。魅力的な税制優遇措置(インセンティブ)や撮影環境を提供することで、外貨獲得や観光振興につなげるのも狙いだ。

