※グラフは各調査より筆者作成
一般社団法人・日本アニメフィルム文化連盟(NAFCA)が、アニメ業界の働き方に関する実態調査結果を発表した。低賃金・過重労働というイメージが定着しているアニメ業界だが、いくつかセンセーショナルな数字が並び、多くの報道で引用されている。
アニメ業界の労働実態調査をNAFCAが実施するのはこれが初めてだが、一般社団法人・日本アニメーター・演出協会(JAniCA)も定期的にアニメ業界の労働調査を行っている。ちょうど2023年12月に最新の調査結果を出しているが、2つのレポートを比べてみると平均労働時間や収入など主だった数字に乖離が見られる。
例えば、一カ月の平均労働時間は、NAFCAの調査では平均219時間、中央値が225時間に対して、JAniCAの調査では平均198時間、中央値が192時間となっている。年収分布でもNAFCAの調査では年収200万未満が22.3%いるのに対して、JAniCAの場合は9.0%に留まる。
どちらもアニメ業界で働く人口の全数調査ではないので、どちらもサンプルに偏りがあることも考えられる。より正確な実態を掴むためには、2つの統計の性質を検討し、精査・比較してみるべきだろう。
NAFCAとJAniCAの違い
NAFCAはアニメ業界の労働環境を改善するために立ち上がった組織だ。人材育成のためスキル検定の提供、政策提言・業界ヒアリングなども行い積極的に情報を発信している。会員は個人でも年会費を払うことで会員になれる。調査対象はNAFCAの職業正会員および準会員(アニメ業界従事者と回答した人)となっている。
一方JAniCAは、アニメーターと演出の団体組織で、基本的にはアニメ業界でその2つに従事している者のための団体だが、準会員や業界会員といった形で、それ以外の職種の人でも会員になれる。2009年にアニメーター労働白書を発行して以来、定期的にアニメ業界の労働実態を調査しており、現在はその対象をアニメーション制作全域に拡げて、JAniCA会員以外の労働者も対象に調査している。
有効回答数はNAFCAの323件に対してJAniCAは429件となっている。一般的許容誤差5%、信頼度95%のリサーチに必要なサンプル数は、母数が10,000以上の場合概ね400程度で確度の高い結果が得られると言われる。アニメ業界の労働人口の総計は不明だが、JAniCAの2015年の資料によれば、原画2,200~3,100人、動画600~1,000人とのことで、その他制作進行や美術など他のスタッフを含めて大きく見積もると7,000~8,000人くらいはいるのではないか。そのため、サンプル数による信頼度を考えるとJAniCAの方が確度が高いと言えるが、NAFCAの調査も少なすぎるということはなく、充分に信頼できるレベルのサンプル数と言える。
平均作業時間、年収、休日数を比較
さて、両方の調査の主要なポイントを比較してみたい。報道ではやはり長時間労働のエビデンスとして、1カ月の平均作業時間がクローズアップされている。まずはここを比較してみよう。
両者のレポートは数字の示し方に相違があるため、比較のために一日の平均時間をパイチャートで割合に置き直す。
JAniCAの調査では、1日の平均作業時間が8時間以下の回答が48.5%に対して、NAFCAでは28.7%とかなりの差が見られる。NAFCAの回答者の方が長時間労働が多い。
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次に平均年収を比較してみよう。こちらもJAniCAの方が高めの結果がでている。600万円以上では10ポイントの差がつき、200万円未満の差も大きく出ている。JAniCAの資料によれば回答者の年収の平均は455万円とのこと。
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また1ヶ月の休日数もJAniCAの方がやはり多めの結果となっている。休みが3日以下という人の割合で大きな差が出ている。
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総じて、労働状況に関してNAFCAの調査の方が厳しい数字が出ているといえそうだ。
正社員の多さ、年齢分布の差が影響?
これらの違いはどこから来るのだろうか。次に年齢層の分布で比較してみよう。