アニメ業界団体「NAFCA」が設立!人手・スキル不足が深刻なアニメ制作現場のリアルを聞く

「現場の流れは負のスパイラルに陥っている」──「呪術廻戦」総作画監督を務めた西位氏が語るアニメ制作現場の現状、そして「NAFCA」でスタート予定のアニメーター教育の取り組みとは。

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アニメ業界の労働環境はあまり良い評判を聞かない。

ワクワークが2022年10月に発表した調査結果では、アニメ業界で働くフリーランス(1,132名)に2021年の年間売上(収入)を聞いたところ、300万円未満が約半数。20 代に限ると300万円未満は約8割にものぼった。若手が継続して働き続ける環境は整備されておらず、将来的にはアニメ業界の衰退が懸念される。

そういった現状を打開するため、元アニプレックス代表取締役社長でアニメプロデューサーの植田益朗氏が中心となり、5月中旬に 「一般社団法人日本アニメフィルム文化連盟」(以下、「NAFCA」)の設立が発表された。今回Brancでは「NAFCA」の代表理事を務める植田益朗氏、「呪術廻戦」で総作画監督を担当したアニメーターの西位輝実氏に、「NAFCA」設立の経緯からアニメ現場の現状など、詳しく話を聞いた。

アニメ業界全体の地位向上を目指す

――今回、NAFCAを設立した経緯を教えてください。

植田以前からアニメーターの人材不足、とりわけ若い世代の人材不足はアニメ業界で問題視されていました。製作委員会方式をとるようになったことやアニメ作品の人気でタイトル数は増えていますが、制作現場の数はそれほど増えているとは言えないため、アニメーターの負担は非常に大きくなっています。現場に降りてくる制作費に大きな上昇がないため、現場が過酷な環境になりがちな側面もあります。

日本のアニメ黎明期はTV放送がほぼ全てでしたが、現在までに劇場、パッケージ、そして配信とビジネスの形態が大きく変化してきました。しかし制作サイドの体制がその変化に対応できていないと感じており、そういったことも現場の過酷さにつながっていると思います。

――こういった状況を見直すために立ち上がった…と?

植田その一助になればと。やはり、アニメーターをはじめクリエイターはフリーランスが多く、個々人の力は弱いです。加えて、制作会社も受注する側であり、基本的には立場が弱いのです。彼らが単独で声を上げることには限界があるため、業界団体として何かできないかとこの団体を立ち上げました。

――そもそも、NAFCA以前にアニメ業界に従事する人を支える団体はあったのでしょうか?

植田アニメ業界で言えば『日本アニメーター・演出協会(JAniCA)』、声優業界で言えば『日本俳優連合(日俳連)』など、それぞれの職種に特化した団体はあります。ただ、NAFCAでは職種を分けずプロデューサー、監督、アニメーターに声優も含めてアニメ制作の現場全体が抱える問題にアプローチできるよう、アニメ業界の地位向上を目指して設立しました。

作画監督はSNSでスカウト?

西位輝実氏

――次にアニメ現場の労働環境について教えてください。長時間労働の要因としてはどういったことが挙げられますか?

西位色々ありますが、まずレベルの高い絵を描ける人が足りていないこと。物理的に作業量が膨大な上に、近年求められるクオリティも非常に上がっていると感じます。アニメを作る工程では誰かの作業を待ってからということも多くあり、ここも長時間労働の要因になっていると思います。私が仕事を始めた20年ほど前と比べても、アニメの画面に対するクオリティの要求レベルが上がっていますので、その分やはり時間もかかります。それから、今はあまりに人が足りないためにスキル不足の新人もバンバン現場に出されるようになっているんですね。そのフォローをするために作画監督などが修正の時間を取らざるを得ず、結果長時間労働になるということもあります。

――ただでさえ忙しいのに余計な仕事も多そうですが。

西位業務量が増えるのもそうですが、リテイク費用も発生するためここで予算やスケジュールを食い潰してしまうということもあります。制作会社はおおよその予算感で仕事を受注することが多いのですが、このリテイクが膨らむことで予算オーバーになることもしばしばで、そうなると経営が安定するだとか個々のクリエイターへの還元、というのは遠い話になってしまいます。次の作品、その次の作品…と作り続けなければ経営が成り立たないような状態で、現場の流れは負のスパイラルに陥っていると言えますね。

――人材不足の弊害が今すでに起きている…。

西位はい。もうはっきりと起きていますね。最近ではアニメーターが足りないばかりに、制作担当者がSNSでイラストを投稿している人をスカウトしたりということもよく聞きます。中にはそのまま作画の責任者である作画監督になるという人もいます。本来であればアニメーターとして動画の経験を積んで、動画検査、原画、作画監督やキャラクターデザイナーにキャリアアップするというのがモデルケースですが、現在はその道がかなりぐちゃぐちゃになってしまって、作画に対する責任者が不在になりがちです。アニメ制作のルールや全体図を知らない人たちも増えていると感じます。

クオリティ格差が進行中

――人手不足、スキル不足の深刻さが見えてきました。この現状を放置した場合、私達一般視聴者にはどういった弊害が予想されますか?

西位やはりクオリティが落ちる作品が増えます。このまま業界の技術やノウハウが受け継がれなければ、最悪の場合、今までのような日本製アニメの優位性を保てなくなっていく可能性もあると思います。

――とはいえ、『推しの子』や『鬼滅の刃』など、クオリティが高い作品も多い印象です。

西位原作が人気の作品には「ギャラとか気にしないから参加したい」「好きな作品や作家だから携わりたい」というクリエイターは多いため、優秀な人が安くても集まります。実は原作が有名な作品も無名な作品もギャラ自体に大差はないんです。そのため、「好きだ」「やりたい」という気持ちがモチベーションになるんですね。作品のクオリティ格差は今後ますます顕著になるでしょう。

アニメ業界の面白さ

植田益朗氏

――こうした問題に「NAFCA」としてどのように対応していきたいですか?

植田まずは「アニメータースキル検定」 に力を入れたいと思っています。「アニメータースキル検定」 は、「原画と原画の間に中割りを描き、動きを滑らかにする作業 “動画“をできるようになろう」ということを軸に据えています。過去にはこの「動画」の仕事も日本で行われており、新人アニメーターの修行の場にもなっていたのですが、現在は海外に依存するケースが非常に増えています。検定を通して基礎知識や技術を身に付ける、そんなアニメーターの再教育の場にしていきたいと考えています。

――“検定”とすることでスキルが可視化できそうですね。

植田そうですね。信頼できる物差しになればと思って検定にしています。制作会社はどこも目の前の仕事が忙しすぎるため、人材育成に手が回っていません。「アニメータースキル検定」 が人材育成について考え直すキッカケにもなっていければと考えています。

――他に「NAFCA」として発信していきたいことはありますか?

西位やはりこうやってメディアに取り上げてもらう時は「アニメ業界はブラック」という見出しになりやすい。そういう報道を見ると「アニメーターなんて稼げないから他の仕事にしなさい」と心配する親御さんもいます。もちろん、そういう部分は否定できません。しかし、稼げているクリエイターがいることも事実です。実力次第では世界中で必要とされる人材になり得ます。そういった前向きな部分もアピールできれば、興味関心を持つ人が増えると思っています。

――最後にアニメ制作の一番の魅力はどこに感じていますか?

西位チーム作業だからこその楽しみがあります。私は結構飽き性なのですが、同じ作品でも携わる人によって仕上がりが変わるため、それが毎回毎回とても刺激的で面白いです。アニメは本当に“0”から創るんですよね。全く何もないところから色々な個性やセンスを持つ人が集まって、段階を踏んで“1”を創り上げていくことは、何事にも替えられないやりがいであり面白さだと思っています。


NAFCAでは現在会員を募集中。https://nafca.jp/membership-type/

《望月悠木》

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望月悠木

フリーライター 望月悠木

政治経済、社会問題、エンタメに関する記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。

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