300坪の専用スタジオにVFXチームの内製…グローバルを目指す製作会社「THE SEVEN」の挑戦

TBS100%出資で2022年に設立された製作会社「THE SEVEN」。大規模スタジオの専有やVFXチームやライターズルームの設置など、日本国内では新たな試みも多い同社の目指す先とは?Netflixオリジナルドラマ「今際の国のアリス」を手がけた同社CCOの森井輝氏に話を聞いた。

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300坪の専用スタジオにVFXチームの内製…グローバルを目指す製作会社「THE SEVEN」の挑戦
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2022年に設立されたTHE SEVENは、従来の日本のドラマ・映画業界にはない、企画・プロデュースを専門に行う会社で、テレビ局であるTBS100%出資の会社でありながら、Netflixなどの配信プラットフォームを中心にグローバル展開を前提にした作品作りを目指していくとしている。

TBSが緑山に300坪のTHE SEVEN専用スタジオを新設することも発表しており、グローバル展開への本気度も伺える。


世界的ヒットとなった「今際の国のアリス」を手がけた森井輝氏をチーフコンテンツオフィサー(CCO)に迎えて本格始動した同社は、はたして従来の制作会社やテレビ局、映画会社とどう異なるのか。6月30日(金)のコンテンツ東京で講演後の森井氏に直撃し、話を聞いた。

THE SEVEN CCO 森井輝氏。

THE SEVENが300坪の新スタジオを持つ理由

――THE SEVENという会社は、いわゆる従来の制作会社とはどう異なるのでしょうか。

THE SEVENは、衣のついた製作会社、製作スタジオと言った方がわかりやすいかもしれないです。例えば、私が以前所属していたROBOTは衣のつかない制作会社で、実際に作品を作る会社です。THE SEVENは基本的に製作・プロデュース・企画統括からIP開発のようなことをやって、制作はROBOTのような制作会社に委託していく形になると思います。

――企画・プロデュースの会社であれば、撮影スタジオも制作会社のように、その都度抑えていけばいいという考えもありませんか。

そうなんですけど、僕が現場スタッフだった頃から、日本は慢性的に撮影スタジオ不足だったんです。韓国のスタジオドラゴンなど、海外の製作会社は大規模な撮影ができるスタジオを持っています。

僕らのプロデュースする作品はオープンスタジオが必要になるものが多いんです。例えば、「今際の国のアリス」は渋谷のスクランブル交差点を再現していますし、これから配信予定の「ゾン100~ゾンビになるまでにしたい100のこと~」は歌舞伎町を作りました。日本にはみんなが撮影したいと思っているけど撮影させてくれない場所がいっぱいあるんですよ。ですので、THE SEVENが優先的に使える撮影スタジオがあるのは、大きなアドバンテージになります。同じ敷地にオープンと室内スタジオの両方があれば、雨が降った時には室内の撮影をやればいいのでスケジュールも立てやすくなります。

新スタジオの完成予想図。

僕らが使っていない時は、海外の作品が拠点にしたい場合にも対応できると思います。よく、海外の人に、日本のスタジオは小さくてすぐ倉庫がいっぱいになってしまう、もっと大きいスタジオはないのかとよく言われるんです。今作っているのは300坪の日本の中では大きい部類に入るスタジオですから、海外のプロダクションの誘致も可能かと思っています。コーディネート業務などもできれば、海外とのつながりもでき、ノウハウも学べますから。

――日本ではそんなに撮影スタジオが慢性的に不足しているんですね。

はい。配信会社が参入して作品数が増加しています。だから、僕は制作会社にいた時からスタジオを建てたところが勝つと言っていました。当時から自治体に協力して作りませんかと相談していたこともあったんですけど、TBSさんからTHE SEVEN専用のスタジオも新設するという話を聞いて、僕の思っている理想に近いなと思ったんです。

日本と海外配信系作品の予算配分の違い

――本日の講演では、海外の配信系の作品と国内作品の予算の立て方の違いについて触れられていました。従来の日本のやり方だと、製作費の中に制作会社の取り分が含まれているが、海外の配信系作品の製作費と制作会社に支払う金は別になっていると。

そうです、別になっています。

――製作費と制作会社への支払いが一緒になっている場合、クオリティアップのために予算をより多く使ってしまえば、会社の利益を削ることになるということですよね。

そうですね。日本では映画もドラマも基本的にその方式で、製作費の10%が制作会社の取り分です。講演でも言及しましたが、日本では脚本の作り方に課題があって、例えば、CGを多用する作品で見せ場をたくさん用意した派手なアクションシーンを書くとします。それで本が完成する頃にスタッフが決まり、CG会社も決まってくる。それからCG会社に脚本を見せて見積もりがくると、予算オーバーなのでシーンを削ることになる。でも、監督以下のスタッフにも情熱があるので、削らずに何とかやりたいと思うわけです。そういう場合、会社の取り分を切り崩すことになるわけですね。こだわって制作すると儲からないという、おかしな図式になっているんです

海外の作品の場合、事前にこういう作品にしたいと決めて、クランクインの約1カ月前には予算が固まります。日々の撮影で調整しないといけないことはありますが、致し方ない事情が発生していたら聞いてくれますし、このシーンは追加予算が必要じゃないかと逆に向こうから言ってくることもあり、労働環境にも気を使ってくれました。結果、そういう現場では作品の質は向上していきます。日本の場合、決められた予算の枠でなんとかしていくという契約になっているので、これだと何かあったら制作会社は潰れるしかないんです。

――CGなどのVFXは予算のかなりの部分を占めますが、本作りの段階で相談できる環境を作るためにTHE SEVENには自社内にVFXプロデューサーがいると講演でもお話されていましたね。

はい。企画段階から専門家の目線で助言をもらえれば、脚本作りにも反映させられるし、企画書にも実際の金額に近い予算案を提示できるし、「こういう表現はオーストラリアのこの会社が上手いです」みたいな、クオリティを考えた提案もできます。オーストラリア等には助成金の還元もあるので、作品の質が向上した上に予算もいくらか戻ってくるとか、そういう組み立て方もできるようになるんです。

――予算について、グローバルOTTの作品は、国内のテレビドラマと比べて高額だと言われていますが、実際違うのですか。

そうなんですが、海外の作品と比べればまだ安い方ですよ。配信作品にも予算回収という概念はあるので、青天井の制作費というわけにはいかないです。1話これぐらいという土台になる額があって、内容によってはそれが2倍になったりする企画もあるという感じですね。1話で数十億もかけられるわけではないですけど、ウチがやるのは大型企画が中心です。

「今際の国のアリス」シーズン1は、コストパフォーマンスが良かったと言われました。シーズン1が予算を抑えられたのは、原作で初めからある表現だと予算がかなりかかるので、監督との合意もあり、その表現をシーズン2からにしたこと等が大きいです。

実際、シーズン2では予算が一気に上がったんですけど、フタを開ければ予想以上のヒットになりました。グローバルOTTでも、どんなにヒットしたシリーズでもシーズン2は視聴数が下がりがちになるそうなんですが、「今際の国のアリス」はシーズン2の方が伸びたので稀有な存在になれたんです。

企画ごとに最適な会社と組んでいく

THE SEVEN オフィス

――韓国のスタジオドラゴンなどは、傘下に脚本家や監督が所属するマネジメント会社も抱えています。THE SEVENでは、クリエイターを自社で抱えることは考えていないのですか。

オリジナルIPを作るためにライターズルームを設置しているので、年間契約にしてそれに近いものにはなると思います。今の若手は書くのが早いです。複数人でアイディアを出し合って、どれを取り入れるのか、数学的に構築して客観性を持ってシリーズ全体を構成できるんです。

ライターズルームの設置は、今までの作り方を否定するものではありません。もちろん、一人でじっくり考えたいというタイプの人もいますから、そういうタイプの人には今までの日本のドラマのように1人で全部書いてもらえばいいと思います。でも、新しいやり方に順応していくのも大事かなと思うんです。

ライターズルームで、日本ではまだ浸透していない“ショーランナー”気質の人材を育てていきたいと思っています。今は僕や発案者がショーランナーとして立ち回らないといけないですが、ゆくゆくはここから本当のショーランナーが出てくれば良いなと思います。

THE SEVEN ライターズルーム

――THE SEVENはグローバル展開を目指して設立されていますから、基本的に配信会社に作品を提供するのかと思いますが、それ以外のポートフォリオは検討されているのでしょうか。

THE SEVENは、どこの配信プラットフォームに話を持っていくのか、企画ごとに考えます。配信作品を作るために始めたとしても、ビジネスになれば結局なんでもやることになると思うんです。僕は映画出身だから映画も作りたいですし、まずは劇場で公開した後に配信に出せば、世界中に観てもらえるという考え方もあります。

これは理想の展開ですけど、我々が作ったドラマの放送権をテレビ局に買ってもらい、その後、中国など他国や配信会社にも販売していくとか、そういう展開もできないかなと思っています。このクオリティのドラマがテレビでも見られるのかと、お茶の間がひっくり返るようなことをしたいですね。

――従来のテレビドラマは、テレビ局が企画して制作会社は下請けとして作り、国内で放送してリクープするというやり方でした。THE SEVENが海外展開前提の作品をプロデュースし、今までと流れを逆にしてテレビ局に売れれば、地上波で質の高い作品が見られるようになり、全体の競争意識も上がっていくかもしれないですね。

そうですね。そうなっていくといいなと思っています。

《杉本穂高》

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杉本穂高

映画ライター 杉本穂高

映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。