ReHaQ公開収録レポート「ヒットを生む発想と戦略:コンテンツビジネスの現在地」

2025年7月4日、コンテンツ東京2025でビジネス動画メディア「ReHacQ」の公開収録が実施されました。「なぜその仕事してるんですか?」をテーマに、同メディアプロデューサーの高橋弘樹氏とAKB48等の衣装を手がけるオサレカンパニーの茅野しのぶ氏が対談しました。高橋氏との…

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ReHaQ公開収録レポート「ヒットを生む発想と戦略:コンテンツビジネスの現在地」
ReHaQ公開収録レポート「ヒットを生む発想と戦略:コンテンツビジネスの現在地」

2025年7月4日(金)、「コンテンツ東京2025」の特別講演内で、「なぜその仕事してるんですか?」というテーマでビジネス動画メディア「ReHacQ」の公開収録が行われました。登壇者は、株式会社tonari CEO、ビジネス動画メディア『ReHacQ』プロデューサー 高橋弘樹氏と、AKB48や多数の人気アイドルグループの衣装を手がける株式会社オサレカンパニー クリエイティブディレクター 茅野しのぶ氏です。茅野氏は高橋氏との対談を通して、衣装デザインの仕事への情熱、秋元康氏との仕事秘話、そしてヒットを生み出すコンテンツ戦略について語りました。そのようすをお届けします。

衣装デザインへの情熱と独立の経緯

茅野氏は、自身のキャリアを振り返り、専門学校での舞台制作やファッションショーの経験が、衣装デザインの道に進むきっかけとなったと語りました 。一夜限りのために制作される衣装の儚さに魅力を感じ、当時はSNSも普及していない時代で、直接的な売上には繋がらなくとも、その活動自体に「ロマン」を見出したと述べています 。

当初はデザインの分野に進むことも検討されていましたが、最終的には「衣装」に特化することを決意されました 。学生時代から師匠のアシスタントとして経験を積み、2013年にはAKB48の衣装部門から独立し、オサレカンパニーを設立されています。独立の背景には、既存の仕事の枠に留まらず、自身のコンテンツを確立したいという強い思いがあったと言及しています 。

特に印象的なエピソードとして、AKB48の初期メンバー募集を知り、まだ衣装担当が決まっていないことを知ると、自ら積極的に連絡を取り、プレゼンテーションを行ったことを挙げられました 。マネージャーと衣装の両方を兼ねる人材として採用され、それがAKB48の衣装担当としてのキャリアの始まりとなったとのことです 。

また、AKB48の総合プロデューサーである秋元康氏との仕事についても茅野氏は語りました。

秋元氏から贈られた「人に涙を流させたいなら、その3倍の汗をクリエイターはかけろ」という言葉は、茅野氏のクリエイティブ活動の指針となっているようです 。この言葉により、時には厳しいダメ出しであっても、それがクリエイターとしての成長に繋がる重要な視点を与えてもらえると言及しました 。

AKB48衣装に込められた戦略と哲学

AKB48の衣装は「泥臭さ」をコンセプトの一つにしていると明かしています 。世界中の洗練されたアーティストの衣装と比べると、AKB48は「泥臭い」くらいがちょうど良いバランスであり、それがグループの独自性を際立たせると考えているそうです 。

AKB48の象徴的なイベントである総選挙の衣装については、新内閣発足時に議員たちが階段で記念撮影するイメージから着想を得たことを語りました。順位によって衣装のデザイン(丈や装飾)を変えることで、ファンが自身の投票が結果に繋がったことを視覚的に実感できるように工夫したと述べています 。

また、茅野氏はメンバー一人ひとりの個性やコンプレックスを深く理解し、それを衣装で魅力に変えることを重視されています 。例えば、高橋みなみさんの身長をカバーするために、衣装の丈や襟元のデザインを調整することで、テレビで見た際に全体のバランスが良く見えるように工夫した具体例を挙げられました 。これは、衣装が単なる装飾品ではなく、メンバーがステージに立つ上で自信を持ち、自己肯定感を高めるための重要なツールであるという茅野氏の信念に基づいています 。

さらに、衣装は「360度どこから見ても可愛い」というコンセプトで制作されており、色や素材、そしてメンバーの歌や踊り、動きによって最大限に可愛く見えるように計算されていると説明されました 。細部にわたるこだわりとして、踊ると布が翻るような仕掛けや、メンバーそれぞれの骨格やキャラクターに合わせたバリエーション豊かなデザインを取り入れていることを挙げられています 。

代表的な衣装デザイン事例

茅野氏は、具体的な衣装デザインの事例をいくつか紹介しました 。

  • AKB48 総選挙初期衣装: 新内閣発足時のイメージを取り入れ、メンバーの順位に応じて衣装の丈や装飾を変えることで、ファンが投票の成果を視覚的に感じられるようにしました 。

  • AKB48「ヘビーローテーション」衣装: 前田敦子さんから大島優子さんへのセンター交代というグループの転換期において、新しいAKB48の方向性を示す衣装としてデザインされました 。

  • =LOVE「ズルいよ ズルいね」衣装: メンバーの繊細な個性を表現するため、細かいオートクチュール(一点物の高級仕立て服)のような装飾が施されています 。平成初期(1995年~2000年代)のファッション要素と最新のトレンドを融合させたデザインが特徴です 。

  • HKT48 宮脇咲良 卒業コンサート衣装: 日本の「可愛い」とIZ*ONEファン目線(韓国)の「可愛い」「かっこいい」という異なる美意識を融合させ、世界のどのファンが見ても「可愛い」と感じる"ジャパニーズカワイイ"を表現しました。特に細かい装飾や比率の調整など、日本独特の細部へのこだわりが凝縮されていると語られました 。細部へのこだわりこそが日本の「可愛い」の真髄であると考えていると茅野氏は述べています 。

ヒットを生むコンテンツ戦略と情熱

セミナーの後半では、ヒットを生み出すコンテンツ戦略についても言及されました 。茅野氏は「永遠に続くコンテンツはない」という現実的な認識を示しつつも、コンテンツを長く継続させるためには「話題性」「成長性」「利益」の三つの要素が重要であると述べました。これらの要素が全て揃う必要はなく、時には一つでも十分な場合もあるそうです 。

しかし、最も重要視しているのは、制作者自身がそのコンテンツに「情熱」を注げるかどうかだと強調されました 。自分が心から語れないものは、決して他人を説得することはできないという強い信念を持たれています 。ヒットする企画の根底には、企画者の「オタク的」とも言えるような強い情熱と徹底的な準備があることを指摘し、自身もそうした情熱に触れた時にこそ、その企画に乗りたいと感じると語られました 。


茅野氏の衣装デザインという視点から、コンテンツビジネスにおけるクリエイティブな発想、戦略、そして「人を動かす情熱」の重要性が伝えられた収録となりました。

《杉田大樹@MediaInnovation》