世に溢れる作品数が膨大になり、可処分所得の奪いあいが激化する中、いかに読者に注目してもらうかが、マンガ産業にとっても大きな課題になっている。
マンガの届け方が難しくなるなか、連載開始と同時にショートドラマを展開するという新しい企画が動き出した。仕掛けるのは、STUDIO ZOON(以下、ZOON)の村松充裕氏とショートドラマ制作を手掛ける株式会社DoFullの河辺昇輝氏。選ばれたタイトルは『スリーコールアサシン』。なぜ、本作がこの企画に選ばれたのか、そして縦型という"別の文法"をどう使いこなすのか。早い消費が主流となった時代に、マンガIPをどう育てるか、話を聞いた。
マンガをプロモートする有効な手段が減っている
――マンガの連載開始と同時に縦型ショートドラマにするという企画は、どういう経緯で実現したのですか。
河辺:私は以前サイバーエージェントで勤務していたのですが、現在ZOONの事業責任者の新路さんが元上司でして、村松さんは講談社時代に我々のクライアントという間柄だったんです。そうしたご縁もあり、新路さんから「ショートドラマをやりたい」という話をいただき、一緒にやることになりました。
村松:ショートドラマをやろうと考えたのは、マンガをプロモートする有効な手段が以前に比べて減ってきているという感覚があるからです。以前なら、メディアに掲載されればある程度読んでもらえていたのですが、そういう接点が減っていますし、正攻法が効かなくなってきています。新しい届け方を僕らも必要としている中で、マンガと同時に縦型ドラマを展開するのは面白いのではないかと考えました。

――DoFulllとしては今回の取り組みにどんな意義を見出していますか。
河辺:村松さんが手掛けるマンガが大好きなので、一緒にやれて嬉しいというのもありますが、ショートドラマというものが、マンガを広げるためのツールとしてもっと認知されると良いなと思っています。ショートドラマはまだ若いマーケットなので、まだ様々な取り組み方があるはずなので、可能性を広げていきたいです。
――単にマンガのCMを作るというより、ショートドラマ自体をひとつの作品として展開するということですよね。
河辺:そうですね。まずは1話を作り、その反響と、実際に売上増加にどれだけ貢献できたかを分析した上で、シリーズ化を検討するという形になると思います。
なぜ『スリーコールアサシン』は縦型ショートドラマに向いていたのか
――『スリーコールアサシン』は、ショートドラマを頻繁に視聴する層とも相性が良い作品なのでしょうか。
村松:明確にターゲット年齢を設定しているわけではありませんが、社会に出て働いたことのある30代くらいを中心に、20代や40代にも読んでもらえるものになると思います。そういう意味では、ショートドラマをよく観る層とも合っていると思うんです。

――『スリーコールアサシン』が今回の企画に選ばれた理由はなんですか。
河辺:選定は当社が担当しました。ポイントは、少し犯罪の匂いがするところです。冒頭にひったくりのシーンがありますが、こうした自分にも起こるかもしれないタイプの犯罪ものは見られやすいんです。また、同僚の女性との関係も描かれていて、縦型でも成立しそうだなと思いました。
――マンガの冒頭のシチュエーションが、ショートドラマ化した時にアテンションを取りやすいものだったわけですね。
河辺:それだけでなく、この作品は視聴者が自然と問いを立ててしまう仕掛けがあるんです。ショートドラマでは、いかに視聴者を惹きつけられるかが重要。その『問い』があるから、次のセリフが気になりますし、思わず続きを見てしまうんですよね。
『スリーコールアサシン』の主人公は、見た目は普通の青年ですけど、冒頭でひったくりから鞄を取り返す。普通の見た目なのに、この人の正体が気になる、となるわけですね。
縦型ショートドラマでは、なぜ“間”が命取りになるのか
――マンガを縦型ショートにする難しさはありましたか。
河辺:全く文法が違います。例えば、ショートドラマではサスペンスは難しい。私たちは「共感値の高さ・低さ」と言っていますが、親子ものや恋愛ものは多くの人が経験していることなので、ショートドラマで見られやすいんです。一方で、人殺しなどは人生で経験したことのある人はいないじゃないですか。そういうジャンルはショートドラマでは見てもらいにくいんです。

――今回の『スリーコールアサシン』の主人公は元殺し屋です。殺し屋になったことのある人はほとんどいないですよね。こういう作品は共感値が低い?
河辺:そうですね。ですので、同僚の女性との恋愛要素を強調して、この2人の今後の関係の発展が気になってくるという仕掛けにしています。
――マンガを縦型のドラマにする時、レイアウトはどうなりますか。
河辺:映画などではワイドショットで状況説明をしますけど、縦型だとそういうショットが成立しにくい。だから、最初から何か出来事が起きて、セリフがずっと展開していくようにアレンジしていくことになります。
――そうした作り方だからか、ショートドラマは時間の流れ方が全く違いますよね。
河辺:基本的に、ショートドラマを見る人は、指を動かしながら見ています。飽きたらすぐに次の動画に行けてしまうため、一瞬飽きられただけで離脱されてしまいます。
――離脱させないために、どんな演出テクニックがあるのでしょうか。
河辺:例えば、日常会話をしているだけだと惹きつけられないです。でも、セリフの中で質問があると、その答えが気になりますよね。少なくとも答えまでは見ようと待ってくれたりするんです。あとは、間を極力なくすことですね。映画などでは間は重要ですが、ショートドラマでは行間を考えてほしいと思っても、すぐスワイプされてしまうので。
村松:確かに、ショート動画ってみんな質問していますね。
――こういうテクニックは、例えば縦読みマンガにも共通するものでしょうか。
村松:そうですね。でも、河辺さんの話を聞く限り、縦読みマンガは、日常会話でも読ませることは可能なので、まだ離脱されにくいと思います。それでも、通常の横読みマンガと比べると違いはあります。横読みマンガでは、手前でしゃべっているキャラを後ろで見ているということを、1コマで表現できます。縦読みマンガではそれが難しい。レストランやパーティ会場に10人くらいキャラクターがいても、誰かにピンスポットを当て続けないといけない。一人のキャラクターの感情を一本線で見せていく必要があります。ただ、一度ピンスポットを当てれば、まっすぐに読ませていくことができるので、日常会話なんかも読み応えは出せるんです。

早い消費の中で、マンガIPはどう育つのか
――ショートドラマでは不倫ものや復讐ものが多いですよね。これはなぜなんでしょうか。
河辺:マンガもそうなってきていますよね。不倫や復讐、正体を隠しているみたいな話が多くなってきている印象です。
村松:マンガの場合ですが、これは消費行動の変化があると思っています。以前は消費イコール買うことでした。でも今は、無料で見られるものがたくさんあります。その結果、消費は、軽い消費、強い消費、さらに愛着のような段階に分けられるようになったと思うんです。軽い消費はSNSでパッと見て終わり。これにはお金が発生しにくい。続きが知りたいという、強い欲求を伴う消費あたりからお金を使うようになります。
マンガはもともと雑誌で読まれるものでした。ここには、続きが知りたいという強い消費があったんです。でも今は、雑誌は細り、プラットフォーム化しています。プラットフォームは広告によってお客さんを誘導しており、短いターンで魅力を伝えないといけない。今のマンガ業界は、時間をかけて強い消費や愛着を作る仕組みがまだ作れていないんです。

河辺:広告出稿においても、長寿人気作品よりも刺激の強いエログロ系の作品を広告に出した方が、数字が良い傾向がありますね。
村松:僕らとしては、市場がそういう状況でも売上を立てないといけない。続きが気になるという強い消費と、愛着の上手いバランス、読んでいくうちにキャラクターを好きになっていく、そういうものを狙っていきたいと思っています。
河辺:ショートドラマでも、アプリ内を回遊してほかの作品を見るという習慣が根付きにくいので、大量に広告を出して視聴者を誘導するということが行われています。プラットフォーム自体が愛されるということも、あまり起きないんです。だからこそ、マンガに伴走する形でショートドラマで愛着を育てていけるようになりたいです。
――最後に、この新プロジェクト、展望について教えてください。
河辺:私たちとしては、数十万再生までいって、コメントでも「この作品面白そう」といった反応が読めたらいいなと思っています。続きも作りたいし、他の作品にも挑戦したいです。
村松:先ほど話していた漫画の届け方の新しい一つとして、業界としても定着していくといいと思います。
【作品概要】
作品URL:https://piccoma.com/web/product/213754
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