NPO法人映画業界で働く女性を守る会(通称swfi/スウフィ)は2026年4月26日、第4回「観たいのに観れなかった映画賞~いやぁ、時間がなくて~」(略称:MME賞)の投票結果報告書を公開した。性自認が女性であるすべての働く女性を投票対象とし、今回は154名から投票を集めた。2024年に劇場公開された日本映画620作品の中から、「観たかったのに劇場で観ることができなかった作品」を選ぶという、他に類を見ないユニークな映画賞だ。
総合1位には李相日監督の『国宝』が選ばれた。第2位は川村元気監督の『8番出口』で、映像部門賞(映像業界で働く女性による投票)でも1位を獲得している。第3位はオダギリジョー監督の『THE オリバーな犬、(Gosh!!) このヤロウ MOVIE』だった。
李相日監督「ユニークな名称の裏にある切実さは見過ごせない」総合1位受賞コメント
総合1位に輝いた『国宝』は、国内主要映画賞でも最優秀作品賞を受賞するなど高い評価を受けた作品。李相日監督からはMME賞の受賞に際し、以下のコメントが寄せられた。
受賞、とても嬉しく思います。
なんともユニークな名称の賞ですが、その裏にある切実さは見過ごせません。
『国宝』に携わってくれた多くのスタッフ・俳優たちも、人生の貴重な時間と労力を作品に注いでくれました。
興行は公開初週が勝負、が定説になりつつある風潮ですが、多くの観客の"観たい"という思いを牽引し続けたのは、まさに皆の尽力による賜物です。
良いものを創りたい、その一心で私たちは繋がっています。
受賞を共に喜べることに、深く感謝します。
「ユニークな名称の裏にある切実さ」という李監督の言葉は、MME賞の本質を端的に言い表している。観たい映画があっても劇場に足を運べない――その背景にある労働環境の問題こそ、この映画賞が可視化しようとしているものだ。
どうすれば映画館に行けるのか、アンケート結果も公表
報告書では投票結果とあわせて、働く女性の映画館利用に関する実態が示されている。クロス・マーケティングによる2025年の調査によれば、過去1年間に映画館で映画を観た人は全体の約36%にとどまっている。テレビ放送や動画配信サービスでの視聴が主流となる中、結婚・出産などライフステージの変化により自分の時間を確保しにくくなった女性層で、映画館利用率の低さが顕著となっている。
今回のアンケートでも「上映時間が合わなかった」「仕事の都合で行けなかった」という声が多数を占め、条件さえ整えば映画館で観たいという明確な意思が確認された。「どういった状況であれば映画館に行けたか」という設問への回答も可視化されており、swfiはこのデータが興行側にとっても観客のニーズを把握するための有益な資料になることを期待している。
自由記述では、「子供が生まれ、ひとり親になり、映画を観に行くのは『子どもと一緒に観られるもの』だけになった」「小さくても気軽に入れる映画館がもう少しあれば」といった切実な声が寄せられた。詳細はこちら。
「この映画賞がなくなること」が最終目標。興行収益と制作現場の好循環を目指す
MME賞は2023年の第1回開催当初、映画業界で働くキャスト・スタッフが「映画好きで業界に入ったのに、忙しくて映画を観に行けない」という皮肉な現状を可視化する目的で立ち上げられた。既存の映画賞における女性審査員・受賞者比率の低さを背景に、すべて女性の手で作り上げる映画賞として設計されている。その後、「映画館と距離ができているのは映像業界の女性だけではない」という声を受け、投票資格を業種不問のすべての働く女性へと拡大した。
swfiは映画賞としてのゴールを明確に掲げている。短期的には「すべての働く女性が年に1回は映画館で映画を楽しめる環境づくり」、そして最終目標は「この映画賞がなくなること」だ。働く女性が観たい映画を何本でも映画館で観られる労働環境が実現すれば、この賞の存在意義は自然と消滅する。興行収益が向上すれば制作現場も潤い、子育てしながら働ける映像業界の実現にもつながるという好循環につなげたいとしている。
swfiは2020年設立のNPO法人で、代表理事はSAORI氏。映像業界の労働環境改善を目的に、ハラスメントセミナーの定期開催、オンライン談話室の運営、フリーランス向け「心得カード」の配布、専門学校での講演などの啓発活動を展開している。


