AIはアニメ制作の助けとなるか?実践者たちがプレゼン&議論【新潟国際アニメーション映画祭】

第3回新潟国際アニメーション映画祭でアニメーションとAIをめぐるシンポジウムが開催。3つのセクションを設ける力の入った企画となっていた。キーワードには「効率化」と「演出」があがってきた。

テクノロジー AI
第3回新潟国際アニメーション映画祭
筆者撮影 第3回新潟国際アニメーション映画祭
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第3回新潟国際アニメーション映画祭でアニメーションとAIをめぐるシンポジウムが開催された。3つのセクションを設ける力の入った企画となっており、現場で試行錯誤を続ける制作者から、識者を呼んだパネルディスカッションまで盛りだくさんの内容となった。

AIが今後のアニメーション制作に大きな影響を与えるのは間違いないと見られているが、その活用法は模索の段階にあると言える。そして、人間のクリエイティビティにAIはネガティブな影響を与えるのではという議論、あるいは著作権などの法的課題のほか、倫理面でも課題を残している状況だ。

制作者たちの発表を通じて見えてきたのは「演出」の問題だ。それぞれの発表とパネルディスカッションの議論を振り返って、AIと「演出」、今後のアニメーション表現のあり方を考えてみたい。

全編AIを用いた商業アニメ『ツインズひなひま』の事例

最初に発表したのは、株式会社KaKa CreationのCEO/プロデューサーの飯塚直道氏。同社は、今年3月にテレビアニメ『ツインズひなひま』を放送予定で、この作品は全編に渡りAIを用いて制作されたことで注目を集めている。

飯塚氏はAIでアニメを作った理由について、AIをめぐっては感情的な議論がSNS上で多い中、まずは矢面に立つつもりで一度作らないといけないと感じたからだという。

飯塚氏はAIをアニメに導入する必要性について、第1にアニメ業界が抱える問題の解決のためと説明。スタッフの高齢化、労働量の圧倒的な多さで後継者不足となっており、若い人々にとってアニメ制作が魅力的なものになっていないのではと危機感を抱いていたという。

第2の理由として、AIにしかできない表現の模索を挙げた。手描き、3DCGに次ぐ第3の矢になれるのかを検討するためにAIアニメに挑んだという。現状はマネーゲームの道具やコストダウンのツールとしてAIが語られがちだが、映像表現としてAIに何ができるか興味を持っているクリエイターも多いので、トライが必要だと判断したようだ。

飯塚氏は『ツインズひなひま』をテレビ放送に耐えうるクオリティのものにすることを目標にしたという。

飯塚直道氏

『ツインズひなひま』では、本編の9割近くの背景を写真から生成する方法で作成したとのことで、実写写真をアニメに変換、美術スタッフがレタッチするという工程で作成したという。AIは雲の描写が上手くないので、かなり直したそうだ。さらに構造物の描写も得意ではないので人の手で補強する必要があったという。

従来のアニメ制作においても写真原図を用いることがあるので、それに近い感覚と言える。ちなみにブック分けのような地道な作業はむしろ人がやったそうで、今後、AIがブック分けできるようになってほしいと飯塚氏は語った。

背景動画は、実写動画を生成AIで変換する形で作成された。スマートフォンで撮影した映像をキャラクターの見た目視点の映像のように使っているのが印象的だ。AIは時間の連続性をとらえるのが苦手なので、これは非常に難易度の高い作業だったという。また描写をどこまでデフォルメにするのかも問題で、デフォルメしすぎると、物の輪郭が溶けた絵になるので、ちょうどいい塩梅を探すのも大変だったようだ。

こうした背景動画的な演出は、昨今のアニメでは3Dレイアウトを駆使して作られるが、かなりの労力がかかる。AIによって低コスト化が実現できれば普通のスタジオでもやれるようになり演出の幅が広がると考えられる。

その他、CGから背景を作成することにもチャレンジ。ラフに作った背景モデルを生成AIで変換することで質感を作ってもらうやり方だ。また手描きのラフな絵から背景を作成する方法は、AIが設定を守ってくれず、リアリティラインもばらけてしまうようで、上手くいかなかったらしい。写真から背景を作る手法は、現実に即したレイアウトは作れるが、アニメらしい外連味あるレイアウトを作るのには向いていないと実感したという。

また、背景に関してAIならではの表現として、湖に大穴が空いている奇妙な滝を生成AIで出力できたという。これと同じものを手描きやCGで作るとなるとかなりの労力がかかるので、AIならではの表現の一例として挙げた。

こうした試みは、完成映像に使えるイメージの背景を出すために「AIによるガチャ」を繰り返す必要があったという。

キャラクターに関しては、ラフな原画をAIに読み込ませてレタッチさせることで生み出したとのこと。AIに作画監督の絵を学習させて、それに合わせて生成されるようにした。絵柄を合わせるのは地味な作業なので、こうした作業をAIに任せて、アニメーターには外連味ある動きを追及する時間を捻出させたいとのことだ。

また、モーションキャプチャからセルルックのキャラクターにAIを使って変換する試みも行い、全編の8割をこの手法で生み出した。手描きの絵をAIで変換するよりも安定感があったようだ。髪の毛などの揺れるものの表現は、ゲームエンジンの自動シミュレートさせた動きをAIで変換したらかなりリッチになったと手ごたえを感じたようだ。

また、絵コンテから直接生成するトライも行ったそうで、精度の高い絵コンテならかなりの部分まで行けるのではという実感を得たという。カットにもよるが、止め絵と口パク程度なら絵コンテからも直接生成できそうとのこと。

ちなみに、『ツインズひなひま』の制作は半分以上を技術開発に費やしたそうだ。飯塚氏の実感としては、作業の効率化はそれなりにできたようで、着色やカットごとの背景を作るというものは、便利なツールが出てくれば近いうちに実現するのではと語る。逆にしばらく実現しなさそうなものは、中割りだという。

AIが普及すれば、今後は動きを作れる人はより重宝されるのではという。その意味では、アニメの本質である動きがさらに重要となり、それをコントロールする「演出」が一層重要視されることになるだろうと語った。

実写の監督がAIでアニメ作りに挑む

続いて発表した中島良氏は、実写作品の制作を主に生業にしている。昨年のアヌシー国際アニメーション映画祭にStable Diffusionを用いた『死が美しいなんて誰が言った』が選ばれたことで注目を集めた。


中島氏は、最初に「生成AIを使う創作は妥協的な創作」だと語った。AIは知識を蓄積し、抽象化できるシステムで単なる確率に過ぎない、人間の生み出す表現には感情があり人生が宿るもので、人間同士で作る方がやりがいもあるという。

しかし、人脈も資金もない人間がアイデアを具現化するためのツールとしては有効だと中島氏は語る。「たとえ妥協であってもアイデアはだれかに見られたほうがいい」と中島氏は言う。

中島氏は、今後のAIは演出の意図に従って動くようになっていくだろうと語る。現在はAIロトスコープで、実写をアニメーション映像に変換するという形を採用しており、これによって絵が描けない人でもアニメーション制作が可能になるという。

中島良氏

また、VFXの補助ツールとしても用いているそうで、車が真っ二つになるシーンを生成したそうだ。3DCGモデルの車をフォトショップで前後に分けて、斬られた前後のカートをキーフレームとして、AIに中割りさせたという。

中島氏はこれらの経験から、AIが日本の映像業界に本格導入されると、人材不足の補助、労働時間の短縮につながるのではないかと語る。

自身の制作例として、スマートフォンで作る簡易的なバーチャルプロダクションを見せてくれた。実写の俳優と背景をそれぞれAIでアニメーションに変換していく。このノウハウなら、実写のやり方でアニメーション作品が作れるという。現在、高齢者とAIというテーマでリアルな絵柄のアニメーションを同様の手法で制作を検討しているとのこと。AIのように役立つ人間にならねばと思った高齢者が、自分をAIにする手術を受ける話だという。

最後に中島氏は、マンガ家になりたかった過去にふれ、自分のアイデアを自分の評価軸で評価し実現するためのツールとしてAIを見ているという。アイデアを誰かに見てもらうことで出会いも生まれるので、そういう思いを持った人を助けるためのものになるのではと語った。

スケジュール安定化と効率化を重視するQzil.la株式会社 / コミスマ株式会社


《杉本穂高》

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杉本穂高

映画ライター 杉本穂高

映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。

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