高知アニメクリエイターアワードとは?受賞者が語る参加の意義。「高知のアニメに対する本気度を感じた」

賞金総額最大3,000万円のショートアニメコンテスト「第2回高知アニメクリエイターアワード」が作品を募集中だ。第1回の受賞者に本アワードの魅力を聞いた。

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ハーフオブベントー
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  • REDMAN
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今年4月に開催された、高知アニクリ祭。その一環として、高知アニメクリエイターアワード授賞式も開催された。

本アワードは、ショートアニメーション(90秒~15分)の作品を対象にしており、賞金総額最大3,000万円と同種のコンテストの中では、高い賞金額で注目された。


応募総数122作品の中から第一回のグランプリを受賞したのは、京都精華大学マンガ学部アニメーションコースの学生4人が作り上げた『REDMAN』だ。また、本アワードは、審査員や任意の団体による特別賞や副賞も設定される場合があり、『HALF OF BENTO』がアニ魂賞を受賞した。

Brancでは、そのグランプリ受賞者であるキム・ソンジェ監督、アニメーターの青井愛佳氏、喜多一葉氏、北村昴大氏にインタビューを実施。さらに、アニ魂賞を受賞した、栗田唯氏を中心に集まった『HALF OF BENTO』のメンバーに話を聞いた。

4人の学生が作り上げたグランプリ作『REDMAN』

53カット完成画面

グランプリを受賞した『REDMAN』は、京都精華大学の卒業制作として制作された作品だ。約14分の手描き短編アニメーションを、ほぼ4人だけで作りきったそうで、約1年かけて完成させた。

コンセプトはキム監督が、大学入学前から温めていたものだという。ヒーロー戦隊として活躍する男性の悲哀を描いた本作は、人間くさいリアルな感情描写で、成熟した演出力を見せる。キム監督は、実写韓国映画の『ペパーミント・キャンディー』や黒沢清監督の作品、アニメでは『機動警察パトレイバー』やSTUDIO4°Cの作品に影響を受けたという。

高知アニメクリエイターアワードに応募したきっかけは、学校で募集ポスターを見たことだったそうだ。「賞金が大きかったし、応募条件で他のコンテストで受賞した作品は対象外とあったので、いけるかもしれない」と思い、応募を決めたそうだ。制作中に応募を決め、締め切りのギリギリまでリテイクして完成度を高めたという。

京都精華大学アニメーション学科の音響室にてアフレコを収録

そのかいもあってか、技術的に安定した内容で学生作品とは思えない完成度だ。4人は実際に実力がある若者たちのようで、大学卒業後社会人一年目の今、すでに大手スタジオの現場で活躍している者もいる。アニメーターの青井氏はサイエンSARUに入社、『ダンダダン』のエンディングパートの原画を手掛けている。キム監督と喜多氏はClover Worksで動画として『逃げ上手の若君』に参加し、北村氏はWIT STUDIOのWITアニメーター塾に所属している。

22カット完成画面
22カットレイアウト

キム監督は将来監督を目指し、他の3人はアニメーター志望。今後、プロの現場での活躍が期待される。その第一歩として卒業制作で300万円の賞金を獲得できたことは、自信につながっているようだ。

『HALF OF BENTO』が証明したストーリーボードの面白さ

『HALF OF BENTO』でアニ魂賞を受賞したハーフ・オブ・ベントーチームは、普段はSOIFULという会社でストーリーボードを作成しているクリエイター集団だ。

ストーリーボードとは、アニメーション制作前の動く設計図のようなもので、受賞作品もストーリーボードである。しかし、完成したアニメーション作品と比べてもそん色ない面白さを提供している。

このチームは、Blizzard EntertainmentやMARZA ANIMATION PLANET、Tonko Houseなどで活躍してきた栗田唯氏が立ち上げた会社SOIFULのメンバーが中心となっている。日本では珍しいストーリーボードの作成を専門にしている会社だ。

ストーリーボードは、日本のアニメ制作では作られることは少ないが、米国では一般的。ディズニーやピクサーでは、ストーリーボードを作り、専門家以外も集めて試写をしてから、企画の合否を決めるという。

チームメンバーは、栗田氏の他、大津卓也氏、塚本裕妃氏、都丸千歌氏、尾崎莉子氏の5人。それぞれにアニメーターやCGアーティストとしての経験があるが、みなストーリーアーティストという肩書きを用いている。

本アワードがストーリーボードを応募しているのもユニークだが、制作体制も一風変わっている。本作には、監督という肩書きを持った存在がいない。原案とキャラクターデザインは、都丸氏のものだが、5人が平等のチームとしてアイデアを出し合い制作しているのだそうだ。みんなでイメージボードを描き、意見を出し合い決めていくという作業が繰り返されたという。

米国のアニメーション制作でもストーリーボードはチームでアイデアを出し合って、ビジュアルによってストーリーを発展させていくと栗田氏は語る。そのために、特定の監督を置かずにみんなで完成させる方針なのだそうだ。「日本では脚本があって、その通りに絵を作っていきますが、脚本のストーリーをビジュアルによって変えたり、発展させたりしていくのがストーリーボードの役割」だそうだ。

制作と応募の動機は、チームでオリジナルの作品を一本作りたいという話になり、栗田氏が高知出身という縁もあって応募することになったとのこと。「僕らは、ストーリーアーティストなので、色が塗られたような最終感性形態じゃなくても応募可能な条件だったのも良かった」と大津さんは語る。

ストーリーボードは栗田さんいわく「大がかりな作品を作るためのマップ」だという。しかし、企画の面白さを測るために作るものなので、完成作品同様、面白さを伝えられるものではなくてはいけない。それが賞を受賞したというのは、まさにストーリーボードが作品の面白さを伝えることができたということを証明したと言える。「ストーリーの面白さが伝われば、それは作品と認められると分かって嬉しかった」と栗田氏も語る。

高知は出会いの場にもなる

『REDMAN』のチームは、高知アニメクリエイターアワードに参加してみて、想像以上に大きなイベントで、高知にアニメ文化を作ろうという本気の意気込みを感じたという。

「取材クルーも多く来ていたし、出版社の代表の方々などもいて、想像以上の規模感だった」と北村氏は語る。キム監督も「用意できるものは全部用意しようという感じで、高知にいい思い出を作れるようにしてくれていると感じた」という。

また、アワード参加者の多くは学生で、出会いの場としても貴重だったようだ。そこで出会った学生の中にもアニメ制作会社に内定をもらっている人がいて、コネクションを作る場としても機能しそうだ。

最後に受賞者として、次回以降本アワードに応募を検討する人に向けてアドバイスを聞いてみた。

キム監督は、「高知アニメクリエイターアワードは、コンペが観客の立場に近い位置にあって、エンタメ性が割と重視されると思います。物語の完成度や観客からどう見えるかを意識した方がいいと思います。そこが他のアート寄りのコンテストとは違うところ」だという。

都丸氏は、「この作品は、本当に楽しく作ったもので、そういうものが評価いただけたことがすごくうれしかったです。自分が面白く、楽しくやれるものを信じて、続けていけば結果が出るんじゃないかと思います」とエールを送った。

高知アニメクリエイターアワード2025の応募期間は、2025年2月16日まで。応募資格など詳細は公式サイトで確認できる。

高知アニメクリエイターアワード(https://www.anikuri.jp/

《杉本穂高》

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杉本穂高

映画ライター 杉本穂高

映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。

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