約16分の自主制作短編アニメ『藍の約束』がYouTubeで公開され、約1カ月で6万再生を記録。静かな話題となっている。
ある夏の夜に少年が魔法の世界に迷い込み、そこで出会った年上の女性の魔法使いとともに過ごす時間を美しく描き上げた一篇だ。自主制作ながら、 豊崎愛生、雨宮天といった有名声優を起用、クオリティの高い映像を作り上げている。
本作を制作したのは、新渡つもり氏と、TIMTOM氏の2人を中心として結成されたスタジオ春となりだ。新渡氏は商業アニメ作品の演出として活動する傍ら、本作の監督を務め、TIMTOM氏も本業を別に持ち、本作のプロデュース・音楽を担当した。
近年、2人のようにSNSや動画サイトで自主制作のアニメーションを発表するクリエイターが増え、MVやCM、企業広告などの領域で活躍の場が広がっている。X(Twitter)などのハッシュタグ「#indie_anime」で自らのショート動画を投稿する個人アニメクリエイターが増加し、インディーズアニメが盛り上がりを見せていることが背景にある。
テレビや劇場アニメとは異なる場所に活躍の場を築き始めたインディーズアニメの世界について、スタジオ春となりの2人と、自らも映像作家・プロデューサーとしてこの領域で活躍する史耕氏を交えて話を聞いた。

『藍の約束』制作経緯
――スタジオ春となりと『藍の約束』の企画の成り立ちについてまず教えてください。
TIMTOMスタジオ春となりは、僕と新渡が中心となって立ち上げられたチームです。今は本業とは別に個人として映像や音楽制作の活動をやっています。本作では音楽制作と作品全体のプロデュースを担当しています。
新渡僕は普段は商業アニメの演出をやりながら、今回自主制作で監督を務めました。
TIMTOM史耕さんは『藍の約束』の制作には参加されているわけではなく、クラウドファンディング実施時に応援コメントをいただきました。史耕さんのお力添えもあって目標金額114%を達成できました。ありがとうございました!
史耕いえ、特に僕は何も特別なことはしていないです。
新渡『藍の約束』は、僕がオリジナルアニメを作りたいと思って立ち上げた企画です。その最初のメンバーにTIMTOMさんもいて、プロデューサーになってもらって一緒に企画を大きくしていきました。
TIMTOM新渡監督がアニメを作りたいと発信されているのを見て、自分もやりますと手を上げました。最初は音楽制作のみで関わる予定だったんですけど、新渡さんや当時集まったメンバーと関わる中でこれは大きいことができそうだなと思って、プロデュースもやらせてください!と立候補したんです。
――新渡さんはオリジナルアニメを作りたいという動機を前々から持っていたのですか。
新渡そうですね。フリーランスになったタイミングだったので、ちょうどいいかなと。会社で長く続ければ、監督のポジションは選択肢としては出てきます。でも、僕はテレビシリーズの監督がやりたいわけではなく、オリジナル映画が作りたいので。
このまま会社にいるとその選択肢はなかなか巡ってこないと感じて、フリーランスになろうと思いました。
――クラウドファンディングもされていましたが、あの資金はプロモーション用ですよね。製作費は自分たちの持ち出しですか。
新渡そうですね。ウン百万円とかかっていますね。
――『藍の約束』制作期間中も、商業アニメの仕事もしていたんですよね。
新渡並行でやっていました。2カ月くらい、こっちの制作に集中していた時期もありましたけど、なんとかなりました。

――自作に集中できないことで葛藤はありませんでしたか。
新渡それはありましたね。でも、現実問題、まだ自主制作だけでは生きていけないので。
――『藍の約束』を公開してみて、反響はいかがですか。
新渡これくらいいけたらいいなという目標には充分達成できたかなと思っています。
TIMTOM各所から素敵なコメントやメッセージをいただけて大変嬉しいです。 ただ再生数的にはもう少し行きたいですね。数字が全てではありませんが、でもやはり多くの方に届いてほしいので、視聴が増えるようこれから頑張りたいと思います。 あとは平均再生時間や再生維持率、視聴者の方の属性、どんな経路で動画に辿りついてくれたのかなど、YouTubeならではのデータが取得できたのがとても良かったです。気づきも多く、今後の方針を考える上での参考になりました。
インディーアニメの今
――スタジオ所属からインディーズアニメのシーンに行く人もいますけど、フリーランスになってすぐに大きな仕事をもらえるかというとまたそれは別の話ですね。
史耕そうですね。でも、今は広告案件を若手のインディーアニメ作家さんが担当するケースも多く見受けられます。その意味ではチャンスはそれなりにあると思います。

――今、広告やMVのシーンが盛り上がっていますね。あとはSNSで自主的に短いアニメーションを作って、ハッシュタグ「#indie_anime」で盛り上がるというような。春となりのように完全自主制作アニメを作る動きはどうなんでしょうか。
史耕盛り上がっているのが広告系というのは間違いないですが、自主アニメーションを作るムーブメント自体は昔からあって、例えば、DigiCon6とか、CGアニメコンテスト、映画祭コンペに挑む人は一定数いました。そこに新しく入ってきたカルチャーとして、「ずっと真夜中でいいのに。」など、若手のインディーアニメクリエイターと組むミュージシャンなどが出てきて、注目されるようになった感じだと思います。そういうクリエイターと音楽アーティストが一緒にもの作りをしていく流れは、ニコニコ動画の遺産という面もあると思います。今活躍している世代は4,5年前からこのハッシュタグで楽しんでいた層で、ニュージェネレーションだと思います。
――MVをアニメで作るケースはかなり増えましたね。
TIMTOM圧倒的に多くなりましたね。『藍の約束』の劇中歌を歌ってくれたMINAさんも、あのハッシュタグからクリエイターを見つけ、ご自身のMV制作をオファーされています。
――最近では長編映画に挑むインディー出身のクリエイターも出てきましたよね。『数分間のエールを』のHurray!や『クラユカバ』の塚原重義監督、来年公開予定の『メイク・ア・ガール』の安田現象監督など。このトレンドについてどう思いますか。
史耕SNS等でのショート尺アニメを公開しファンの人気を獲得していくような流れはまさにトレンドだと思います。そして王道なアニメの作り方以外にも少人数のチームのクリエイティブを中心にフロー開発、紐付き絵柄、ルックにこだわっていけるチームにチャンスが訪れるのは明るいことだと感じています。
インディーアニメとお金の問題
――インディーズで活動するにはお金の問題は切っても切れません。
史耕そうですね。最低限生活もしていかないといけないし、実際、生きていくためのコストを削って作っている人もいます。それは、その人の生き方なので一概に否定できませんが。そういう状況を少しでも良くするために、今、僕は経産省主導の「創風」というプロジェクトに参加しています。これは映像作家をフックアップするためのプログラムです。
――創風は、一年かけて作家と並走して作品を仕上げるというプログラムですよね。
史耕必ずしも作品を完成させないといけないということでもなくて、最大500万円を支援し、企画を通すためのパイロットフィルム作りでもいいんです。事務局とメンターをまじえて話し合いながら、色々柔軟に支援できる枠組みになっています。
――国の助成は、どこで出すのかある程度出口まで決めていないと応募できないものが多いですけど、出口がはっきりしなくていいのは、助かりますね。
史耕そうなんです。作家のビジョンを聞いた上で、採択するかどうかを決めるという感じで、現場の実情に即したものになっていると思います。
――お金の問題は、インディーズ作家にはついて回る問題ですから、こうした行政の支援が充実してくると、活躍の場が拡げられそうですね。
新渡そうですね。広告などのクライアントワークは色々あると思うんですけど、結局自分の作りたいものを作ろうとしたときにどうするのかというのは、簡単には解決しないですよね。
――こういう、様々なことに向き合いながら制作するために、プロデューサーは本当に必要な存在ですね。例えば、新海誠監督も川口典孝さんがプロデューサーとして支え続けたのが大きかったです。
新渡今、自分が思っているのは、やっぱり良いプロデューサーに出会うことはすごく重要なんだということです。今回、TIMTOMさんには本当に助けてもらいました。何かを作ろうとしたときに同じ熱量で引っ張ってくれるプロデューサーって得難い存在だと思います。
史耕今、オリジナルでアニメを作りたいと思っても、実際にそれを可能な環境にもっていけるのは一握りだと思います。TIMTOMさんみたいに、チームを作り上げられる存在はインディーアニメでは珍しいと思います。インディーアニメに向き合ってくれるプロデューサーは本当に少ないので、超貴重です。今後、TIMTOMさんみたいな人が増えていかないとインディーアニメ界のこれ以上の発展はないと思っています。
――最後にスタジオ春となりの今後の目標を教えてください。
新渡オリジナル企画で長編のアニメ映画を作りたいです。大変だとは思いますがもっと尺が欲しいなと思いました。
――今後の活動予定は決まっているのですか。
TIMTOM『藍の約束』については、他のチャネルでも観ていただけるようにできたらいいなと思っていますし、機会があれば、他のインディーアニメ作家の方々と、ミニシアターなどで上映するイベントなんかもしてみたいですね。
スタジオ春となりとしては、新渡さんがお話しした通り、長編のオリジナル作品に挑戦しようと考えています。僕らのチームは業界を志す若い学生から映像・アニメ業界で既に活躍されている方もいます。それぞれのライフステージも変化していきますから、ずっと同じメンバーでとはいかないでしょうけど、次回作も一緒にやりましょうと声をかけているところです。
読者の方ももしご興味あれば、我々までご連絡くださると嬉しいです!チームに加わってくださる仲間を大募集しています。