試行錯誤を繰り返した『クレオの夏休み』宣伝秘話
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──作中、クレオが本当にずっと可愛らしいなと感じました。
最初はクレオやクレオを演じたルイーズちゃんの魅力を全面的に押し出していこうと思っていました。でも追々やっていて気づいたことなんですけど……彼女は典型的なフランスの美少女みたいなイメージとはちょっと違うところにあるような、動いているところを見て愛くるしさを感じるようなタイプなんですよね。それも含めて、本作の大切なテーマである深い愛の絆や、登場人物たちの気持ちや状況を、本当にきちんと伝えたいなっていうのは思っていました。
本作は横浜フランス映画祭でも上映されたのですが、横浜フランス映画祭は主催者側がゲストを呼んでくれるので「もちろん監督には来てほしいですけど、ルイーズちゃんをとにかく呼んでください」とお願いしました。撮影の時は5歳半くらいだったんですが、日本に来てくれた時には8歳になっていたんです。上映が終わった後に監督とプロデューサーとルイーズちゃんが登壇してくれて、ルイーズちゃんの大きくなった姿に観客の皆さんがワーっと盛り上がってくれて感動もひとしお……という感じになってくれたので目標が達成できたなと思いましたね。
──本作の宣伝ではどのような点を工夫されましたか?
宣伝する中で一番難しかったのは言葉の見せ方です。例えば、「ナニー」は、「ベビーシッター」とは厳密には違う役割なので、まだ日本では浸透しているわけではないこの「ナニー」をどう伝えようかっていうのはすごく考えて。分かりやすく「ベビーシッター」って言葉を使うと、今の私たちにとっては“一時的に子供を預かってもらう人”っていうイメージになると思うんですね。でもこの作品のグロリアは朝から晩まで付きっきりで育てくれる「ナニー」で。クレオが赤ちゃんの頃から6歳まで、ずっと一緒に過ごしてきたんです。そんな人がある日急にいなくなってしまうことになって、クレオは追いかける。「ベビーシッター」という言葉では2人の関係性とか過ごしてきた時間の長さが伝わらないって思って、日本語でいうところの「乳母」にたどり着いたんです。最終的に、宣伝では「ナニー(乳母)」という表現を使うことにしました。この映画をきっかけにこの「ナニー」という言葉や文化を浸透させられたらいいなと思っています(笑)。
ほかにも、クレオが訪れるグロリアの故郷は「カーボベルデ」というアフリカの美しい島国で、フランスに出稼ぎに行く人が多い国です。この映画は愛の絆がテーマではあるんですけど、経済的な問題や人種的なところなど、今の社会的な部分もちゃんと含まれているのが大きな魅力だと思いますね。「カーボベルデ」も出せるところではしっかり国名を出して「アフリカ」って大雑把には言わないようにしています。「パリからアフリカの島国・カーボベルデへ」ってしっかり言いたくて。「パリからアフリカへ」とひと括りにしてしまうのは乱暴というか。例えばですが、日本に置き換えたとして「パリからアジアへ」とか言われたら、なんかちょっと……(笑)。だから言葉をちゃんと出せるところではしっかり出すっていうのをこの宣伝では意識していますね。
――邦題やポスターもフランス版から結構変わっていますよね。
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原題は『Àma Gloria』なんですけど、フランス語でもこのままでは意味が通じないらしくて。「a」と「ma」の間にスペースがあったら音だけでは「私のグロリアへ」っていう解釈ができるそうなんですけど、「ama」だけでは特に意味はないんです。カーボベルデの公用語であるポルトガル語では「AMA」は「乳母」という意味なので、いくつかの音の響きや意味がかかっているタイトルだそうです。これは邦題が必要だと思ったので、かなり考えましたね。
30~40個くらいみんなで案を出し合って、ずっと考えて紆余曲折してこの邦題になりました。フランス映画ってバカンス映画がすごく素敵な印象もありますし、「夏休み」という言葉には始まりがあって終わりがあるような、明るいけど“あの頃”を思い出すようなノスタルジックな雰囲気もあるなと思ったので、楽しいけどちょっと切ないっていうニュアンスを込めたくてこの邦題にしました。
――夏休みの冒険感がある映画でぴったりだなと思いました。
キャッチコピーは、最初は「大好きなあなたに、会いたい」だったんですね。というのも、最初私たちは名作『ポネット』をイメージしていたんですけど、「夏休み」っていうタイトルに決まり始めたあたりから「この子の成長を我々は応援しましょう」っていうテンションになってきて(笑)。1人で異国に行くなんてすごいことだし、離れ離れになっても2人の愛情はきっとこれからも続くし、ちょっとポジティブなニュアンスを足せたらと思って、クレオの行動力を称えて「大好きなあなたに、あいにいく」にしました。
ポスターもオリジナルはスタイリッシュでちょっとしんみりした感じなんですね。だから日本版は温かみを感じられるように、エモーショナルな感じにしているんですよ。フランス映画祭で、お客さんやライターさんの反応を一度集めた上でブラッシュアップしていけたので、それはすごく良かったですね。
ミニシアター洋画の課題、これから頑張りたいこと
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――今年は映画祭などに行かれる予定はありますか?
先月カンヌ国際映画祭に行きました。『クレオの夏休み』に出会ってから1年後のカンヌに行くことができました。今も映画祭には行きつつ、常に新しい情報を海外の映画会社からキャッチしています。
――映画祭は現地でしか見られないことや気づけないこと、そこでしか作れないコネクションみたいなものも大きそうだなって思います。
やっぱり行ってみると全然違うなと思います。カンヌ内でも評判みたいなのが回るんです。「今みんなこの作品を観に行っているよ」みたいな噂が回って、それに一目散で行ってみて劇場で体験します。やっぱりお客様が劇場で体験することを、自分も体験してみることによって劇場公開すべきか考えられるのはいいなと思います。コロナ禍ではオンラインがメインになったこともあったので、このままかなとも思ったんですけど、しっかり復活していますね。
実際、現地に来ている人と話して、「この映画、すごい批評家受けするっぽい」とか「拍手が起こったらしい」とか、色々な国の人の反応とかも聞きつつ総合的に見て決められるので、映画祭はこれからもとても大事な場であり続けるんじゃないかなと思います。
――次の作品も進んでいるということですが、今後堀内さん自身がチャレンジしたいことはありますか?
今はまだ一つ一つをこなすことに本当に必死ですね。今、トランスフォーマーくらい小さい配給会社でもスタッフに20代とか30代前半の若めの方って結構いたりするんですけど、その方々と時々集まって話すことがあるんです。みんなすごい映画が好きで、「ミニシアター業界のブームを再び!」みたいな夢を見ているので、それが起こせるような面白いことができたらいいなと思います。また洋画に注目を集められるようなことができたらいいなと思っているんですが、アイデアがあったらぜひ教えてください(笑)。
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――(笑)。私も洋画が一番好きなので……。友人ともアニメの話は共通の話題にできるけど洋画は話しにくいというのを身に染みて感じています。でもやっぱり作品の多様性がなくなっちゃうのは一番悲しいなと思いますね。
洋画はどんどん厳しくなっているなっていうのは思いますね。劇場のランキングとかを見ると、邦画とアニメの人気がすごいですよね。特に若い方は配信で観ることに慣れているので、ミニシアター系の洋画を観に劇場に足を運んでくれる方はとても貴重だと実感しています。ただ、リバイバル上映とかは結構人気ですね。カルチャーとして追っている方が観たかったけど観れていなかった作品を追い求めているのかなと想像したりして。この間上映されていた『ゴーストワールド』も盛況だったと聞きましたけど、そうやって一周して、過去の名作を追っている方は多いんだなって思いました。となると新作の小さい映画がますます厳しくなっちゃうわけなんですが(笑)。ミニシアター作品は「私はこれが好き」ってとことん言えるタイプの映画に出会えることが魅力だと思うので、広めていけたらいいなと思います。