「リストア版」がアフターコロナの映画市場の兆しに?:アジア&ヨーロッパの映画館市場概況

アジア・ヨーロッパの一流ディストリビューターがアフターコロナの映画興行の現状を語る。

映像コンテンツ マーケティング
「リストア版」がアフターコロナの映画市場の兆しに?:アジア&ヨーロッパの映画館市場概況
「リストア版」がアフターコロナの映画市場の兆しに?:アジア&ヨーロッパの映画館市場概況

Courtesy of ACFM

釜山国際映画祭に併設されている、アジア最大の映像マーケット釜山国際映画祭見本市「Asian Contents & Film Market (通称:ACFM)」で、映像業界に関する様々なカンファレンスが開催された。

ACFMは、釜山国際映画祭の期間中に釜山展示コンベンションセンター(BEXCO)で4日間開催されるアジアのコンテンツマーケット。映画やオーディオビジュアルコンテンツから、書籍、ウェブトゥーン、ウェブ小説、ストーリーなど、さまざまなオリジナルIPの商談にアクセスできる総合イベントだ。

イベントでは商談や投資プロジェクトが活発に行われるだけでなく、アジアを中心とする映像業界の最新動向を共有するカンファレンスもいくつか開催されていた。

10月9日(月)には、ヨーロッパとアジアの共同制作を推進する「Ties That Bind(TTB)」と、ヨーロッパ映画プロモーション(EFP)が共催する「Cinematic Crossroads: Navigating European and Asian Film Markets」というイベントが開催された。ポーランドの独立系映画配給会社ニュー・ヨーロッパ・フィルム・セールスの営業責任者であるカタルジナ・シニアルスカ氏が司会を務めた本カンファレンスには、ドイツ・フランス・香港・台湾・韓国の一流ディストリビューターがパネリストとして登壇。アジアのアートハウス映画や商業映画をヨーロッパの観客に紹介する際に直面する課題や機会について、またその逆について洞察に満ちたディスカッションを繰り広げた。

まずは、シニアルスカ氏がコロナ禍後の各国の映画興行の状況について、各パネリストに直近の動向について尋ねた。

香港の配給会社ゴールデン・シーンのセールス&アクイジション・マネージャーであるフェリックス・ツァン氏は同国の状況について、「コロナ禍以降、配給会社として作品選定がよりシビアになっている」と語った。2022年の後半から映画興行は回復傾向にはあるが、劇場映画には家でも楽しめる作品との差別化が重要で、これから興行として大きな山を作れるような作品を探しているところだという。

フランスの配給会社ジョーカーズ・フィルムズのキニ・キム氏は「今、映画そのものはたくさんあるがクオリティが“充分とは言えない”作品ばかりである」とコンテンツ過多である同国の状況を話した。コロナ禍以降、作品のターゲット選定やヒット予測の見立てが難しくなっただけでなく、現在のトレンドといえるものが明確になっておらず、まだアフターコロナの戦略については分析中の段階だと話していた。

また、台湾のフラッシュ・フォワード・エンターテインメントのCEOを務めるパトリック・マオ・ホアン氏は、同国での劇場作品の人気ジャンル順は下記のようになっていると話した。

  1. ハリウッドのビッグIP

  2. 日本・韓国の作品

  3. 中国・香港のローカルコンテンツ

  4. ヨーロッパのアートハウス作品

日本作品は特にアニメーションの人気が高く、韓国作品はコロナ禍後動画配信サービスの影響を受け、ジャンル全体の人気が向上し、SNSでもバズが起きやすいコンテンツとなっているということだ。また、ヨーロッパ作品は特にコロナ以降観客が戻ってきておらず、かなり苦戦しているとのこと。そんな中でヒットしたのが、日本でも絶賛の声が続出した『aftersun/アフターサン』だったという。

「作品がより“選択的”になってきており、劇場映画には特別感が必要」と語ったホアン氏は、これからの可能性として、「リストア版作品のヒット」について言及した。一例に、最近で最大の成功を収めた作品の一つに、2000年にロッテルダム国際映画祭のグランプリを受賞したロウ・イエ監督の『ふたりの人魚』のリストア版があると語った。

これには香港のツァン氏も同意しており、ツァン氏は「香港では、中国本土のローカル映画のリストア版が、その作品を観たことがない中国本土の若者中心に刺さっており、中国映画文化の再教育の機会にもなっている。作品鑑賞に多くの選択肢があり、何を選んだら良いかが分からない状況で、劇場鑑賞においては“クオリティが高いもの”を観たいという気持ちが高まってきている。映画館で観る価値があるかどうかを選ぶ際にその作品の年代は関係なく、良いものであれば古い作品にも可能性がある」と話した。

この傾向について、日本でも2023年は、ウォン・カーウァイ監督作の特集企画「WKW4K ウォン・カーウァイ4K 5作品」や『タイタニック:ジェームズ・キャメロン25周年3Dリマスター』といったリマスター作品が大ヒットしており、香港や台湾でのこの動向には共通する部分があるのかもしれない。

動画配信サービスWATCHAのコンテンツビジネスチームリーダー、ジューン・リー氏はヨーロッパとアジアの映画ビジネスにおける映画祭の重要性を再定義した。かつては、海外での韓国映画のシェア率は非常に低かったが、映画祭のプラットホームを有効活用したことで、パク・チャヌク監督やポン・ジュノ監督のような世界的に活躍できる監督を輩出できたのだと語った。映画祭は韓国国内だけでなく、ヨーロッパのマーケットで作品を送り出すために、シネフィル界隈にアプローチすることができるとても重要な場所であると話していた。

また、ヨーロッパからみたアジアコンテンツへの視点について、ドイツのフィルムズ・ブティック社の国際セールス・エージェントのヴァレスカ・ノイ氏は「ヨーロッパ映画をアジアに売ること、またアジア映画がヨーロッパで観られるという両方が、コロナ禍以降非常に大変になっている」と厳しい現状を指摘した。ヨーロッパ映画・アジア映画を取り巻く同国の状況はここ10年で全く別物に変わっているという。これまで以上に、作品に“ユニークさ”があるかどうかをマーケティング戦略として重視しており、それぞれの国の個性があるコンテンツであることが重要だと語り、マレーシアの『Tiger Stripes』を良い作品の例としてあげていた。

今回のパネルに残念ながら日本の配給会社は参加していなかったが、「リストア版のヒット」、「ヨーロッパ映画の苦戦」など、今回話にあがったポイントは他アジア諸国と共通点があるように感じられた。各国の作品選定がシビアになっている現状から、国内からはよりクオリティの高い作品づくりに注力すること、また、海外映画のセレクトにおいてはコロナ禍後のオーディエンスの変化を踏まえた作品選びが重要になってくると感じられるカンファレンスであった。

《marinda》

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Branc編集長 marinda

Brancの編集長です。好きな動物はパンダです🐼