【Next-Gen】若手業界人とおはなし#1:Elles Films 粉川なつみさん

🗣️Branc編集長のmarindaが、『ストールンプリンセス:キーウの王女とルスラン』劇場公開のため、自身で配給会社Elles Films(エルフィルムズ)を立ち上げた粉川なつみさんとおはなし。

映像コンテンツ マーケティング
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  • ストールンプリンセス:キーウの王女とルスラン
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Branc(ブラン)の新企画「【Next-Gen】若手業界人とおはなし」がスタート。

本企画はBranc編集長のmarinda(現在26歳)が同世代の若手業界人とラフに近い目線でお話していく企画。今年9月で立ち上げ1年となったBrancの日々の成長や悩みと共に、新しいことにチャレンジしていく次世代【Next Generation】の若手の映像業界人と意見交換をしていく。

第一弾はウクライナのアニメーション映画『ストールンプリンセス:キーウの王女とルスラン』(以下、『ストールンプリンセス』)劇場公開のため、自身で配給会社Elles Films(エルフィルムズ)を立ち上げた粉川なつみさんとおはなし。本作は騎士に憧れる俳優ルスランと王女のミラが悪の魔法使いに立ち向かっていくファンタジー・ラブストーリーで全国で絶賛公開中。今回は、配給会社立ち上げ、『ストールンプリンセス』公開までの道のり、そしていま映画業界に対して思うことなど多岐に渡って歓談した。


学生時代は美術監督を目指していた

――はじめまして!まずは粉川さんが映画業界に入ったきっかけを教えてください。

大学在学中にインターンで入社した映画宣伝会社にそのまま新卒で入社し、そこでは、ウェブのパブリシティや映画のタイアップ進行を経験しました。その後、中国映画を中心に扱う配給会社に転職し、海外のアニメーション映画を日本に展開する業務などに携わりました。

――大学時代から将来は映画業界で働きたいという想いがあってインターンを始められたんですか?

そうですね。最初は映画の美術監督になりたくて、専門的に学べる学校に入ったのですが、あまりの激務に嫌気がさしてしまって。美術って誰よりも早く現場に入って建て込みをやって、撮影が終わった後も片づけで、最初から最後までいるのがすごく大変そうで…。

これからどうしようかと悩んだ末に映画ビジネスを学び始めたのですが、それがすごく面白かったんです!その時に、ちょうど先輩から宣伝会社のインターンを紹介してもらって、軽い気持ちで1週間やってみました。SNS運用なども経験させてもらってすごく楽しかったので、そのまま続けました。

――なるほど。そして今はご自身で会社を立ち上げられて…!

どうなるか分かんないですね、本当に(笑)。

――『ストールンプリンセス』との出会いはいつ頃だったのですか?

ロシアのウクライナ侵攻(2022年2月)が始まる前から、前職で色々な作品を観ていたんですよ。ウクライナにもアニメーション映画があるということは知っていたんですが、当時はあまり興味が湧いていなかったんです。だけど、侵攻が始まったときに映画の存在を思い出して、「この作品を公開できたら私なりの貢献になるかも」と思い、2022年の7月に会社を辞めて8月に会社を立ち上げました

――すごいスピードですね!

そうですね、準備にあてたのも半年ぐらいで。2022年の3月頃から作品側に連絡を取り始めて、会社の立ち上げを決心したのが6月、7月頃でした。

何としてでも『ストールンプリンセス』を公開したい!

――『ストールンプリンセス』を劇場公開するために、Elles Filmsを立ち上げられたと。そこまで突き動かされた理由は何だったのでしょうか。

最初は、前職の会社で配給したかったんですよ。でも、色々な事情があって難しくて…。本作のオレ・マラムシュ監督は日本が大好きで、「今ウクライナは苦しいニュースしかないから、自分たちの文化がアニメーション大国の日本で公開されると、ウクライナ人にとっても良いニュースになると思ったんだけどな」と言ってくれていたのが心残りでした。

その時、他に交渉されている会社もなさそうだったので、このウクライナのアニメーションが日本で公開されることはもうないんだろうな…と思ったときに私がやらないと、という使命感が湧いてきたんです。

――ひとりで起業するとなると、かなり勇気がいりませんでしたか?

実は昔から独立してみたいという気持ちはあったんです。ただ、映画業界ってみな「オワコン」って言ったりするじゃないですか。なので映画業界で起業するっていうのは現実的ではないと思っていた時に、この作品に出会って、監督の言葉もあったので「もう起業するしかない!」と思って色々な人に相談しました。

やっぱり「今はこの作品でいいかもしれないけど今後どうやっていくの?」と反対する人や、「生き残れても一年、二年とかじゃない?」みたいなネガティブな意見もいただいたんですが、映画.com編集長の駒井尚文さんに相談したところ「いや、いいでしょ!やるべきだよ!」と。「自分ももし25歳に戻れるんだったら絶対に起業していた」と言ってくださって、「もし上手くいかなくても、もう一回違う会社に入り直せばいいんだから!」と力強い言葉で後押ししてもらいました。確かにそうだと決心もついたので、その時に辞表を出しました。

立ち上げから公開まで、全てが初体験

――作品公開までの交渉は、今までご経験されてきた業務内容と近かったんでしょうか?

いや、実は全然近くなくて。私は契約書を結んだこともなければ、そもそも英語が全く話せないんですよ(笑)。でも、翻訳機を使ったり、友人に頼って添削してもらったりしました。配給権については、「私の全財産はこれぐらいしかないから金額をもっと抑えてほしい」と交渉したら、個人で新たに始めるのであれば金額も頑張って抑えるよと了承いただけました。ほかにも、劇場公開に向けて、製作委員会の会議やキャスティング交渉など、色々なことがありましたが、どれも未経験で…。これまではパブリシティだけが映画の重要な部分だと思っていたんですが、今回映画公開までのたくさんの業務を知り、だから映画に携わる人はいつもみんな大変なんだと改めて理解しました。

――本作の立ち上げから公開まで、全てが初体験だったんですね。

そうですね。契約書のチェックなんてしたことないですし。

――海外との交渉だったら法律も違いますよね。

そうなんですよ。全然理解できないものもありましたが、経験者に相談しながら情報を集めました。本当に色々な方が応援してくれました。

――その中でも特に大変だったことはありましたか?

一番大変だったことは選べなくて、もう全てが大変でした(笑)。買付の締結は英語ができないので、他の人よりも時間がかかってしまいましたし、クラウドファンディングも簡単に集めたと思われがちですが、街頭でチラシを配ったり、一人ひとりにお願いしていきました。結局目標金額は集まりきらず、各企業からの出資をお願いする形になったのですが、委員会周りの調整もやったことがなかったので、本当に大変でした。

――メディアの情報だけを見ていると「すごい」と思うんですが、どれほどの苦労があって、私がこれまで目にしていた情報が達成できたんだろうと驚かされました。

キャスティングが決まった後の調整も苦労しましたし、吹き替えの収録も初めてで想定よりも時間がかかりました。あとは吹き替えができてからも、国内の契約書を作らないといけなくて。それは朝日新聞さんの力を借りながらやらせていただきました。

資金調達も大変でしたね。一応、クラウドファンディングのお金と製作委員会の出資はありましたが、それだけでは不安だったので、うちの会社で融資を申し込みました。でも、映画事業は不安定なビジネスだから融資できないと断られてしまって…。それでも諦めきれず、銀行を回るなど資本政策に奔走したのですが、融資してもらうのはすごく大変でしたね。

――計り知れないですね…。

その結果、新しいことに挑戦できましたし、日々楽しいですけどね。

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《Branc編集部》

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