ディズニーがアクティビストとの委任状争奪戦に勝利。争点はどこにあったのか【決算から映像業界を読み解く】#44

ウォルト・ディズニーが2024年4月3日に開いた株主総会で、会社側が提案する取締役選任案が賛成多数で可決された。

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ディズニーがアクティビストとの委任状争奪戦に勝利。争点はどこにあったのか【決算から映像業界を読み解く】#44
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ウォルト・ディズニーが2024年4月3日に開いた株主総会で、会社側が提案する取締役選任案が賛成多数で可決された。

アクティビストのトライアン・ファンド・マネジメントが求めていた、同ファンド創業者のネルソン・ぺルツ氏と元ディズニー経営幹部のジェームズ・ラスロ氏の取締役選任案は否決され、米国史上最大と言われたプロキシーファイトは幕を閉じた。

ぺルツ氏は赤字が続く動画配信事業の利益率を20%程度まで高めることを求め、ボブ・アイガーCEOの後継者が育成できていないことを批判していた。その主張はもっともなものも多く、ディズニーはアクティビストの提案を受け入れたととれる行動を起こしている。

経営に混乱をもたらすアクティビストの存在だが、経営改革に乗り出すきっかけを与えているのも事実だ。

独占禁止法抵触でフォックス買収時にスポーツチャンネルの統合は断念

ネルソン・ぺルツ氏が強く批判していたのは主に3つ。1つ目は2019年3月に成立した21世紀フォックスの買収。2つ目は動画配信事業の赤字。3つ目はボブ・アイガー氏の後継者の不在だ。

フォックスの取得は買収額が8兆円を超える巨額のM&Aだった。フォックスは「アバター」や「X-MEN」などの有力なIPを保有していた。ディズニーは2019年11月12日から北米とオランダで動画配信サービス「Disney+」の提供を開始している。

買収の狙いが動画配信サービスの強化にあったのは明らかだ。2005年にディズニーに加わり、「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」などのマーケティングを手掛けてきたアサド・アヤズ氏は買収に際して、映画を基本戦略にしつつ、動画配信に適した作品を考えるとの見方を示していた。

映画でヒットIPを生み出し、その後ドラマシリーズをストリーミングで配信して稼ぐ、現在の典型的なIP戦略だ。ただし、この買収は思わぬ見込み違いを生じることにもなった。スポーツ局を取り逃がしたのだ。

ディズニーは、フォックスのスポーツ局をディズニーのスポーツチャンネルに統合する青写真を描いていた。しかし、司法省が22地域のスポーツ局を売却することを買収の条件とすることに決定。スポーツ局はシンクレア・ブロードキャスト・グループが96億ドルで買い取っている。

ディズニーがスポーツチャンネルを統合して独占力を高めると、ケーブル放送局や動画配信サービス事業者に対して値上げをしやすくなることなどが懸念されていた。独占禁止法に抵触しかねないというわけだ。

なお、フォックスのスポーツチャンネルは全米プロバスケットボール(NBA)やナショナルホッケーリーグ(NHL)などの放映権を保有している。動画配信サービスの本格化を目論んでいたディズニーは手痛いしっぺ返しを食らうこととなった。

このような経緯から、ディズニーのフォックス買収はよりIPの取得という側面の強い内容になっていた。

ディズニーを含むメディア3社を提訴

スポーツ配信を巡っては、もう一波乱ありそうだ。

アメリカのスポーツ専門配信サービスのfuboTVは、2024年2月21日にディズニー、FOXコーポレーション、ワーナー・ブラザース・ディスカバリーの3社を独占禁止法違反で提訴したと発表し、議会からも懸念の声があがっている。

3社は共同でスポーツ専門配信サービスの立ち上げを明らかにしていた。1社が1/3の所有権を持ち、ディズニーのESPN+とHulu、ワーナーの傘下Maxで各種スポーツ配信が視聴可能となるものだ。動画配信サービスでスポーツの放映権は莫大な投資が必要。3社共同で負担を軽減し、包括的なスポーツコンテンツを加入者に提供する試みだった。


fuboTVは3社の合弁事業が実現すると、fuboを含む動画配信事業者やケーブル、衛星テレビが不利な立場に追い込まれ、割高な送信料を強要されると指摘している。

司法省は提訴する前の2月15日に調査に乗り出したとブルームバーグが報じている。コムキャスト、DirecTVからも抗議の声が上がっているとも言われており、市場の健全性が保たれるかどうかが焦点になる。

巨大化するメディアの舵取りの難しさが改めて浮き彫りになっている。

アクティビストの圧力で大胆なレイオフを実施

ディズニーの動画配信事業は苦戦している。未だに黒字化を果たせていないのだ。コンテンツの強化を目的に8兆円もの資金を投じてフォックスを手中に収めるも、主力の北米エリアで課金ユーザー数が高止まりを続けているのだ。

Quarterly Earning Reportsより筆者作成


《不破聡》

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