3月2日に開催された第8回「クランチロール・アニメアワード」は、日本での実施は昨年に続いて2度目となる。
『パラサイト 半地下の家族』のポン・ジュノ監督など、ビッグなゲストが多数来場した同アワードには、ソニー・グループやクランチロールの重役たちも多数集まっていた。
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Brancは、そんな重役の一人、クランチロールのプレジデントであるラウール・プリニ氏にインタビューする機会を得た。アニメアワードを日本で開催する意義や、同社の今後の戦略について話を聞いた。
クリエイターとファンを繋げるためのアワード日本開催
――クランチロール・アニメアワードの日本での開催は昨年に続いて二度目になります。昨年の反響はいかがでしたか。
ラウール日本でアニメアワードを開催した目的は、世界中のアニメファンとアニメのクリエイターを繋げ、称えることでした。そのためにはやはりアニメ制作の中心である東京で開催するのがふさわしいと思って、昨年、東京での開催を決断しました。ご参加いただいたアニメクリエイターの方々からは、年間を通して最も優れたアニメを選ぶという行為、世界とつながること、クリエイターたちの努力に注目してもらうこと、それら全てにおいてポジティブな感想をいただいています。
――アニメアワードには、ミーガン・ザ・スタリオンやポン・ジュノなど著名なゲストが今年も来場しています。どのようにゲストの人選をしているのですか。
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ラウールアニメアワードの目的は、ファンがクリエイターを称えることにあります。そのためには、賞のプレゼンターはアニメファンであるべきだと考えています。そして、彼ら・彼女らが世界中のファンを代表する存在であるかどうかが大切だと思っています。アニメファンはグローバルに広がっているので、それを反映し、多様な人々の代表であるべきだと考えているんです。実際に今年のプレゼンターは、米国だけでなく英国、韓国やインド、フィリピンなど世界中から来ていただいています。
――日本では一般層にまでアニメが浸透してきていますけど、海外のアニメファンも同じように一般層にまで広がっているのでしょうか。
ラウール世界も日本と同じように、様々なタイプの人がアニメファンを自称するようになってきています。傾向として言えるのは、若い世代にとってアニメを観るのが一般的になっているということです。
Polygonのリサーチによれば、アメリカのZ世代の42%が週1回アニメを観ているとのことで、欧州でも同様に若い世代に浸透しています。米国では、アフロ・アメリカンやヒスパニックが、人口に占める割合と比べてアニメファンが多いという調査結果もあります。
クランチロールは単なる配信会社ではない
――ストリーミングプラットフォームの競争は、世界的に激しくなっていると思います。クランチロールは競合他社に対してどのように差別化をはかっていくのでしょうか。
ラウール我々はなんでもかんでも配信しようと思っていません。それよりも、特定の誰かのための大切なサービスでありたいと思っています。ですから、アニメに特化することが他社に対する差別化戦略であり、アドバンテージだと考えています。そのため、他のストリーミング会社よりもアニメに関してはより広く深いラインナップを揃えています。
もう一つは、クランチロールは全てのアニメファンのためのサービスでありたい、そのためにはゲームや映画配給、グッズの販売などあらゆることを手掛けて、色々な方法でファンを喜ばせたいと考えています。
――現在のクランチロールは単なるストリーミングプラットフォームではなく、アニメに関するあらゆることを行う会社であるということですね。
ラウールおっしゃる通りです。配信事業は重要ですが、それ以外のことも広く行いアニメファンにとって一番にたどり着く場所を目指しているのです。
――実際に、どの分野の成長が顕著ですか。
ラウール一番の成長分野はストリーミングです。その次に伸びているのは映画配給ですね。我々は、より多くのアニメファンを映画館に惹きつけたいと思っています。3つ目はゲームです。今年、『One Punch Man World(ワンパンマン・ワールド)』というゲームをリリースし、非常に人気があります。マーチャンダイジングについても、世界的に伸びてきています。
――率直に、アニメのグローバル市場の伸びしろはまだあるでしょうか。まだ拡大可能だと考えていますか。
ラウールはい、世界中で伸びると考えています。前述のリサーチ結果で、中国と日本を除いても、世界には8億人のアニメファンがいて、それは今後10億人に達するというデータがあり、 まだまだ伸びしろはあります。
――グローバル市場で特に注目している地域はありますか。
ラウール北米やラテンアメリカ、欧州に中東など重要な市場はたくさんありますが、今大きく伸びているのはインドと東南アジアです。
――ソニー・グループとの協業関係はどのようになっているのでしょうか。例えば、ソニー・ピクチャーズとはどの程度協力関係にあるのでしょうか。
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ラウールクランチロールがソニー・グループの一員になれたことを非常にうれしく思っています。ソニーは日本企業で、クリエイター達との関係について長い歴史を持っていますから。ソニー・ピクチャーズとは世界でアニメ映画を配給する際に協力関係にあります。前身企業から数えれば100年以上の歴史と経験を持つ同社のネットワークを活用して、世界中の映画館にアニメ作品を配給させてもらっています。また、ソニー・ミュージックとも音楽ライブの開催などで協力することもあります。このアニメアワードもソニー・ミュージックと一緒に開催していますし、グループ間のパートナーシップは多岐にわたります。
――Netflixは昨年『ONE PIECE』や『幽☆遊☆白書』の実写化を成功させました。御社はアニメやマンガの実写化に興味はありますか。
ラウールNetflixがマンガの実写化で成功を収めたのは素晴らしいことですが、我々はアニメにフォーカスしており、アニメを世界中に届けることをミッションにしています。ですから、今のところは実写作品を作ることは考えていません。
また、別途メールにて、クランチロールの音楽関連事業についての質問を、チーフ・コンテンツ・オフィサー(CCO)の末平アサ氏から回答いただいた。近年、同社はアニソンアーティストの世界ツアーサポートにも積極的だ。これもラウール氏の言う、「色々な方法でファンを喜ばせる」同社の事業戦略の一環と言えるだろう。
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――近年、御社はアニソンアーティストの海外ツアーなども手掛けています。これはどういう狙いですか。
末平アサクランチロールは、様々なアーティストのツアーに協力させていただいており、RADWIMPSがその第一号です。RADWIMPSは『すずめの戸締まり』のプロモーションと、同バンドの北米、ヨーロッパ、オーストラリアツアーにおいて提携しました。弊社が『すずめの戸締まり』の配給を担当したこと、そしてRADWIMPSと新海誠監督とのコラボレーションが今回3度目であることを考えると、このパートナーシップはとても自然な流れでした。映画監督と、音楽を担当したミュージシャンの双方をサポートし、我々のパートナーにも機会を最大化できたのは素晴らしいことでした。
アニメファンはJ-POPが大好きで、海外に進出するアーティストも応援したいと思っています。そして、アニメに関連する音楽のライブ体験を欲しています。RADWIMPSや初音ミク(MIKU EXPO)、そしてAdo(「Wish」ツアー)のようなアーティストと一緒に仕事をし、私たちはそのような体験を世界中のファンに直接届けることで、アーティストとアニメの両方への愛を深めることができると考えています。