民放公式テレビ配信サービス「TVer」の急成長が続いている。
2015年のサービス開始以来、右肩上がりで再生数を伸ばし続けており、今年8月には月間ユニークブラウザ数(以下、MUB)3,000万を突破、今年度はMUBの最高記録を更新し続けている。2022年度の広告売上の成長率は前年比215%と飛躍的な伸びを見せている。
放送局の放送収入の減少が続く中、TVerは未来のテレビの形として業界からも期待を寄せられる存在となっている。そんなTVerの今と今後を、取締役・サービス事業本部長の薄井大郎氏に聞いた。
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コンテンツの充実とCTV対応増で利用率は順調に成長
――TVerがここ数年急成長しています。要因は何でしょうか。
コネクテッドTV(CTV)の利用者増加とコンテンツの充実です。コンテンツに関しては、例えば各放送局がドラマの見逃し配信について1~3話を常設してくれる番組を増やしてくれましたし、スポーツのライブ配信の増加も見逃せません。特に今年の夏にはラグビー、バスケットボール、アジア大会、バレーボールと多くの国際大会がありました。TVerは、一般的に「ドラマを見るプラットフォーム」という印象が強いと思いますが、実は視聴数ではバラエティがドラマに肉薄してきているんです。ドラマの方がタイトルごとの視聴数は多いですが、バラエティは番組数が多いんです。それからUI、UXの改善は日々少しずつ地道にやっていて、そういう努力が実を結んでいるのかなと思います。
――地上波放送と同時に行われるリアルタイム配信の方はいかがですか。
今はGP帯(午後7時~11時)の番組を中心にリアルタイム配信を提供していますが、楽しみ方の範囲を広げるという点では活用していただいていると思います。コンテンツをより広く届けるという観点で放送局側もコンテンツを出してくれています。
――CTVからの利用がPCを抜いたのが2020年だったと思いますが、これはTVerの事業にコロナの影響があったと考えていいでしょうか。
多くの動画配信サービスがコロナで伸長したのと同様、TVerの利用者も増加したのですが、コロナが落ち着いた後でも成長率は鈍化していません。コロナがきっかけでTVerを使い始めた方は確実にいらっしゃると思いますが、巣ごもり需要だけで伸びたわけでないと言えます。
――TVerは2015年にサービスを開始し、今年で8年目です。テレビの事業変化を象徴する存在と言えると思いますが、開始当初と今を比べて、放送局側のTVerに対する認識や姿勢は変化してきていますか。
そうですね。2015年当初は、プレゼントキャストという会社が運営していたわけですけれど、2020年に放送局がそれぞれ増資して筆頭株主となって今のTVer社となったのが転換点でした。コンテンツの拠出数もそれ以降多くなってきました。
ローカル局の番組も全国で楽しまれるように
――コンテンツの充実という点でお聞きします。それでもやはりドラマが主力という点に変化ありませんか。
そうですね。やはりドラマが一番の成長ドライバーになっています。
――TVerの視聴傾向は放送とは必ずしもイコールではないと思うのですが、例えば、フジテレビの「silent」は視聴率はそこまで高くなかったのに、TVerでの再生数が非常に高かったですね。
「silent」はやはり、ターゲットのユーザー層を考えると配信向きだったということでしょうね。TVerはF2層が一番多く、その次がM2層で、その後に若年層が続きます。その年代の人に強く興味を持ってもらえたコンテンツだったということではないかと思います。
――考察系のドラマが流行しているのも配信の影響があるのでしょうか。
そうですね。見返すことができる配信は考察系に向いていると思います。
――オリジナルコンテンツも制作するようになっていますが、今のところ手ごたえはいかがですか。
いい感触です。直近ですと「潜入捜査官 松下洸平」は再生数700万を超えています。放送なしのコンテンツをこれだけ観てもらえていることにすごく手ごたえを感じています。
――あの番組は、地上波でCMを打っていたのですか。
いえ、地上波でCMは打っていません。
――それで700万回再生はすごいですね。
そうなんです。あのドラマは松下さんが各局のバラエティ番組に出演する様子をドラマにしているので、それぞれの番組に松下さんが出ていたことに告知効果は大きかったと考えています。TVerの強みは各局と連携できることで、各局単体では実現が難しいことをやれたということが良かったと思います。
今後もTVerだからこそできるコンテンツには挑戦していきたいと思っています。オリジナルのバラエティ番組「最強の時間割」シーズン2は11月から配信しています。また、我々としては、放送局にTVerをうまく使ってほしいという気持ちもあります。TVerがあるからこういう展開もできるねとか、各局の制作者たちが考えてくれるようになることが理想ですし、それに向けて我々にできることはやっていきたいと思っています。
――TVerのオリジナルコンテンツを外部プラットフォームに出していく予定はないのですか。例えばABEMAはNetflixとパートナーシップを提携してオリジナル作品を海外でも展開するようになりました。
今のところはそういう予定はないです。まずは足元のユーザー数、再生数の最大化を目標にしているところです。
――ローカル局の番組配信にも力を入れ始めていますね。ローカル局側はこの動きに対してどんな反応がありますか。
局によって様々ですが、やはり露出が増えるのは基本的にプラスになっているはずですし、ユーザー視点でもポジティブな面が多いと思います。実際、地元以外で多く観られているタイトルはあって、例えば、さんいん中央テレビの「かまいたちの掟」やテレビ埼玉の「いろはに千鳥」などはエリア外からもたくさん視聴されています。こういう番組が全国で観られるようになるのはいいことですよね。
――かつての「水曜どうでしょう」のように地方局から全国レベルの人気バラエティが、TVer経由で生まれるかもしれませんね。
それができたらすごく意義がありますよね。
完全無料であることをよりアピールしていきたい
――放送局側もTVerに積極的に取り組むようになってきていると思いますが、放送収入の減少が続く中、TVerの広告収入の成長に局からの期待は感じますか。
期待されているとは感じています。実際、制作者サイドもどうやったらTVerに出せるのかと気にしている人が増えているので、放送局もTVerの使い方を模索してくれるようになっています。
――広告主も、TVerの再生数を広告の取引指標として重要視していると思います。いわゆる「ながら視聴」的なものよりも、TVer広告は視聴完了率も高いですよね。
そうですね。広告の視聴完了率も95%と非常に高いのがTVer広告の特徴です。視聴完了率が高いということは、ながら視聴のようなものとは違って視聴に専念している人が多いと言うことだと思いますし、それだけ広告を出したい企業様にもそこを注目してもらえていると思っています。
――ネット動画広告市場全体が成長傾向で、競争も激しくなっていると思います。Netflixが広告プランを導入するなど、様々な動きがありますが、競合に対するTVerの強みはどこにあると考えていますか。
シンプルですが、TVerは全てが無料であるということ、そして系列の放送局の番組が観られるということが一番の強みだと思います。
――では、TVerは今後も無料で提供していくのですか。
現状では、無料サービスとしてユーザー数を伸ばしていくのが目標です。有料モデルの話は様々な方からも期待されていますが、まずは、無料に力を入れてやっていくことになると思います。
――今後、取り組むべき課題はなんだとお考えなのでしょうか。
コンテンツのカテゴリを拡張していく余地はまだあると考えています。例えば、アニメはまだまだ少ないですし、報道ももしかしたらもっと増やせるかもしれません。あと、マーケティングについては、TVerの認知率は高いんですが、実は無料であることは意外と認知されていないので、無料であることをもっと周知する必要があると思っています。
――それは意外ですね。HuluやTELASAのようなサービスと同一のものと思われてしまっているのかもしれないですね。
その可能性はあります。我々は無料だと当たり前に思っていますけど、実は世間では案外、無料だと知られていないんです。ですので、最近はどこかに出るたびに無料と言うようにしています。無料であることは大きな武器なので、認知が上がれば潜在ユーザーをさらに掘り起こせますし、その分まだ成長の余地が大きく残っているということだと思っていますので、ここは頑張っていきたいです。