東映アニメーションの海外戦略:20年以上かけグローバル市場を開拓、制作費増加でクオリティもアップ

TIFFCOM 2023で開催された「東映アニメーションの海外戦略について」のセミナーをレポート。このセミナーから見えてくるのは、同社はすでにグローバル市場を前提として事業展開しているということ、そして現在の成功は一朝一夕に生まれたものではなく、長い時間をかけて開拓した成果であるということだ。

グローバル マーケット&映画祭
東映アニメーションの海外戦略:20年以上かけグローバル市場を開拓、制作費増加でクオリティもアップ
東映アニメーションの海外戦略:20年以上かけグローバル市場を開拓、制作費増加でクオリティもアップ
  • 東映アニメーションの海外戦略:20年以上かけグローバル市場を開拓、制作費増加でクオリティもアップ
  • 東映アニメーションの海外戦略:20年以上かけグローバル市場を開拓、制作費増加でクオリティもアップ
  • 東映アニメーションの海外戦略:20年以上かけグローバル市場を開拓、制作費増加でクオリティもアップ
  • 東映アニメーションの海外戦略:20年以上かけグローバル市場を開拓、制作費増加でクオリティもアップ
  • 東映アニメーションの海外戦略:20年以上かけグローバル市場を開拓、制作費増加でクオリティもアップ

Photo by Eugene Gologursky/Getty Images for ReedPop

東京国際映画祭と並行して開催されるアジア最大級の映像コンテンツマーケット「TIFFCOM 2023」にて、「東映アニメーションの海外戦略について」と題したセミナーが開催された。

近年、東映アニメーションは「ONE PIECE」や「ドラゴンボール」、「SLAM DUNK」などをグローバル市場で成功させている。そんな同社の海外戦略の歴史と現況について語られた。

このセミナーから見えてくるのは、東映アニメーションはすでにグローバル市場を前提として事業展開しているということ、そして現在の成功は一朝一夕に生まれたものではなく、長い時間をかけて開拓した成果であるということだ。

グローバル市場が前提になれば映画の「原価」のかけ方が変わる

登壇したのは、東映アニメーション・常務取締役・営業企画本部長の篠原智士氏、ロサンゼルスのTOEI ANIMATION INCORPORATED President&CEOの遠藤昌幸氏、香港のTOEI ANIMATION ENTERPRISES LIMITED President 総経理/取締役社長の宇田川英昭氏、パリのTOEI ANIMATION EUROPE S.A.S Presidentの河内隆次氏の4名。日本の本社以外からも、各エリアの責任者が一堂に会する貴重な機会となり、それぞれの地域での東映アニメーションの浸透状況や戦略について語ってくれた。

まず篠原氏から東映アニメーションの全体説明が行われた。同社の売上高は874億円、純利益は209億円を誇る。しかし、これは東映アニメーション単体の利益額であり、同社の作品群が生み出す市場規模はこの15倍、12兆円規模になるだろうとのこと。

そんな同社は海外拠点をLA、香港、フィリピン、上海、パリに抱えている。それぞれの地域と国の事情に合わせた、きめ細かい営業とフォローを行っているとのこと。

LAは北米市場だけでなく南米市場も管轄している。同様に香港オフィスは広くアジア地域を、パリオフィスは欧州とアフリカ諸国に中東を担当しているとのこと。現在、業務を拡大していくため、欧州にサブブランチとなるオフィスを開設する予定もあるという。

フィリピンについては営業ではなく制作拠点となっている。上海も「東映動漫」という制作拠点となっており、これは今後の戦略のキーとなるかもしれないと篠原氏は語る。

東映アニメーションの作品ライブラリーは映画262本、テレビ作品233シリーズ、総話数13,500話という圧倒的な数字を誇る。しかも、いくつかのタイトルは時を経てもキャラクター人気が衰えていないところに特徴があるという。例えば、「ONE PIECE」は20年以上アニメ制作が続いているが、その分マーケットが階層的に積み重ねっている状況だという。

続いて、海外展開の話に移る。同社の海外展開の歴史は1992年にフィリピンに制作会社を設立したことから始まった。その後、1997年に香港に販売のための子会社を設立、2004年にLAとパリにそれぞれ営業拠点を設けた。

篠原氏は、当時の東映アニメーションの海外展開は世間の流れから逆行した「逆張り」だったという。当時はインターネットが普及し始めた頃で、海外の情報も手に入れやすくなったことから多くの企業は海外拠点から撤退していたという。親会社の東映も撤退したそうだが、東映アニメーションはむしろ積極的に海外拠点を作っていった。この逆張り戦略が今の繁栄の礎になっているという。

実際、現在の東映アニメーションの事業を牽引しているのは海外の売上で売上全体の6割になる。グローバル市場にすでに一定のシェアを持っている同社は、映画を作る時も、実写映画とは「原価」のかけ方が異なっていると篠原氏は言う。

篠原氏は2022年に親会社の東映から東映アニメーションに異動してきたそうだが、現在のアニメ映画の制作費は実写映画とはまるで異なることに驚いたという。一例として、2022年公開の『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』は、日本国内の興行収入は25億円だが、制作費はそれ以上だそうだ。

国内市場だけで展開していたら大赤字となるが、同作は北米市場で初登場1位を獲得するなど、海外で大ヒット。これだけの制作費をかけられるのは、初めからグローバル市場で展開することを考えているからだそうだ。


同様に『ONE PIECE FILM RED』や『THE FIRST SLAM DUNK』もグローバル市場でヒットを記録。お金をかけた分だけ映像のクオリティが上がっており、「マーケットの視点を変えることでクオリティを上げられる、正のスパイラルが働いている」と言う。

同社は今後、グローバル展開をさらに拡大させるべく、海外でIP開発を推進していく「地産地消」型のビジネス、世界一の映画産業ハリウッドを組んでIP展開する「ハリウッド」型ビジネスを、現在のアニメを海外輸出するビジネスと合わせてグローバル市場を開拓していきたいと考えているそうだ。

ハリウッド型ビジネスの第一弾が、実写映画『聖闘士星矢 The Beginning』だ。この作品は興行成績は芳しくなかったが、同社はハリウッド型の展開を諦めるつもりないという。そして、「地産地消」型の展開として、フランスや韓国のスタジオとの共同製作、東映動漫でのオジリナル作品を製作しているとのこと。

現地支社の地道な努力

続いてセミナーは各現地法人の代表からのプレゼンに移る。

LAオフィスの遠藤氏は、同オフィスの現地法人の立ち上げに参加。その後別部署に異動したが、2013年に再び戻ってきたという。この間、北米市場では子ども向け番組のバブルがはじけるなど苦しい時期もあったそうだが、2000年代後半から動画配信の台頭が起き、大人も巻き込んだアニメブームが今も続いている状況だという。

遠藤氏が現地法人を立ち上げた当初は、映像の露出もほとんどできない苦しい時期が続いたとのことだが、地道な努力を続けて配信で収益化できるようになってきたとのこと。

北米市場では、キャラクターのプロモーション活動が重要だと遠藤氏は語る。アニメ・エキスポやNYコミコンなどにキャラクターの巨大バルーンを出すなど精力的なプロモーションを展開。近年のアニメ人気で、コミコンはアニメイベントと差がなくなってきているという。さらには、ニューヨーク メイシーズの感謝祭パレードに孫悟空の巨大バルーンを出して一般層への認知を広げるべく展開も行っているという。

96th Macy's Thanksgiving Day Parade Balloon Inflation Photo by Roy Rochlin/Getty Images

続いて、香港オフィスの宇田川氏のプレゼン。香港オフィスは中国本土に韓国、台湾、東南アジア市場まで広く管轄している。この地域では国内作品のPRだけでなく、東映動漫のように地産地消で現地コンテンツの製作も行っている。日本の作品を楽しんでもらうだけでなく、現地のコンテンツも子どもたちに楽しんでほしいと考えているという。


そして、パリオフィスの川内氏から欧州市場のプレゼン。パリオフィスはアフリカと中東を含む市場を統括しており、フランスの大手配信ADNと提携したり、『ミラキュラス レディバグ&シャノワール』の共同制作なども行っている。川内氏は、東映アニメーションが他の会社と異なる点は、いかにローカルの奥地にまでライセンシーで食い込むかを追求している点で、ローカルの積み重ねが結果的にグローバルになると考えていることだという。


2008年からパリオフィスで勤務する川内氏は、当時は東映アニメーションと言っても欧州では誰も知らない状態だったという。そのため、まずは作品とともに企業名を宣伝していく必要があったそうだ。そのため川内氏は、まず日本のアニメそのもののシェアを広げる必要があると感じ、同社の作品だけでなく、ジャパン・エキスポなどで他社の作品も宣伝するなど、とにかく日本アニメを広げることに注力したとのこと。

そんな欧州市場は2022年になってから急伸しているそうだ。しかし、アジアや北米に比べるとまだまだ存在感が弱く、他社も含めて欧州市場を一緒に作っていこうと呼びかけた。

その他、中東市場については大きなプロジェクトを進めているところだという。どの国も、日本人が考えるよりも真剣に作品のことを考えているが、版権管理の仕方などで考えが異なるためにぶつかることがあるので、文化の通訳として立ち回ることが多いとのこと。

中東市場では現在、日本と米国で権利の取り合いをしている状況だそうだ。2020年以降、米外資系の勢力が伸びており、この市場も日本の企業が集まって戦う必要があると訴えた。

また、質疑応答では、日本アニメを海外展開する時、各国の異なるセンサーシップにどう対応しているのかという質問に対して、宗教の描写などデリケートなものについては改変することもあるという。

セミナーを通じて浮かび上がってくるのは、日本アニメのグローバル人気を牽引する東映アニメーションは、20年以上かけて海外市場を地道に開拓してきたということだ。

そして、グローバル市場開拓に功したからこそ、作品により多くの予算を投入してクオリティの高い作品を作ることが可能になる。同社は、邦画の枠を超えたビジネスをすでに展開しており、その規模を地産地消ビジネスとハリウッド進出でさらに拡大しようと挑んでいる。今後の映像産業にとって示唆に富むセミナー内容だった。

《杉本穂高》

関連タグ

杉本穂高

映画ライター 杉本穂高

映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。