インディーゲーム海外展開のリアルとは?Steam・中国市場の専門家と開発者が語る成功戦略【Into Globalイベントレポート】

シンポジウム「グローバルインディーゲーム戦略最前線~Steamを軸にした海外展開のリアル~」が開催。Steam市場の専門家、アジア最大級のパブリッシャー、世界的な人気を博す放置ゲームの開発者が登壇し、実践的なノウハウを語った。

グローバル アジア
Into Globalのシンポジウム「グローバルインディーゲーム戦略最前線~Steamを軸にした海外展開のリアル~」
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2025年7月9日、東京都が主催するコンテンツ事業者の海外展開支援プロジェクト「Into Global」の一環として、シンポジウム「グローバルインディーゲーム戦略最前線~Steamを軸にした海外展開のリアル~」が開催された。

本プロジェクトは、コンテンツビジネスに精通した海外展開の経験豊富な専門家と無料で個別に相談できる「相談窓口」と、コンテンツ産業の海外展開に関する情報提供を行う「シンポジウム」を提供している。

今回のイベントでは、Steam市場の専門家、アジア最大級のパブリッシャー、そして世界的な人気を博す放置ゲームの開発者が登壇。それぞれの視点から、インディーゲームの海外展開における実践的なノウハウや市場との向き合い方について語られた。本稿ではその模様をレポートする。

Steam市場の競争激化、成功にはパブリッシャーの存在が重要

最初のセッションでは、ルーディムス株式会社の代表取締役の佐藤翔氏が登壇。インディーゲーム開発者にとってSteamがなぜ重要なのかを解説した。佐藤氏は、Steamの強力なリコメンド機能が小規模なチームにも露出の機会を与えると指摘。一方で、2024年には年間1万8000本以上の新作がリリースされるなど競争が激化しており、ユーザーに自作を認知してもらう「ビジビリティの確保」が極めて難しくなっていると述べた。

佐藤氏は、成功のためにはパブリッシャーとの連携が有効な選択肢の一つとなるという。データによると、Steam上のゲームの約8割はセルフパブリッシングだが、500本以上売れているゲームに絞ると、そのうち78%にはパブリッシャーがついているとのこと。パブリッシャーは資金提供、マーケティング、ローカライズ、他プラットフォームへの移植など、多岐にわたる役割を担う。佐藤氏は、GDC(Game Developers Conference)のような海外イベントへの参加や、アワードへの挑戦、投資家へのピッチなどを通じて、パブリッシャーや投資家との繋がりを作ることの重要性を強調した。

中国ゲーム市場の特徴、攻め方とケーススタディー

続いて、中国最大級のインディーゲームパブリッシャーであるGamirror Gamesの日本支社CEO、立花卯月氏が中国ゲーム市場の特徴とこの市場における戦略を語った。Steamの言語別データでは、中国語(簡体字)ユーザーが大きな割合を占め、2025年2月の旧正月の時期には月間アクティブユーザーの50%を超えたこともあるという。この事実は、リリース時期を中国の休暇に合わせる戦略の有効性を示唆している。

中国市場への参入障壁としてしばしば懸念される「版号(ISBN)」については、グローバル版のSteamでリリースする際には不要であると明言。開発者にとって大きな利点となっている。

具体的な参入方法としては、まずSteamのストアページを中国語に翻訳するだけでも売上が大きく伸びるケースがあると紹介。さらに踏み込んだ戦略として、BilibiliやWeiboといった中国のソーシャルメディアでの情報発信や、現地のインフルエンサーとの連携を挙げた。立花氏は、日本の開発者が中国市場で成功するためには、単なる翻訳に留まらず、ネットで話題になる「ネタ」を意識するなど、文化的な背景を理解したアプローチが鍵になると述べた。

グローバルマーケットにおける放置ゲームの可能性

最後のセッションでは、『インクリメンタル・エピックヒーロー』シリーズを家族で開発し、世界的なヒットに導いたHapiwaku代表の髙橋英統氏が、個人のゲームクリエイターとしての視点から語った。髙橋氏が手掛けるのは、海外では「idle game」や「incremental game」として人気が高い「放置ゲーム」というジャンルだ。このジャンルは、ゲームプレイの「自動化」、転生を繰り返すことでキャラクターが指数関数的に強くなることや、そして1万時間を超えることもある「膨大なプレイ時間」といった特徴を持つ。

髙橋氏の成功要因の一つは、当時このジャンルでは珍しかった日本のアニメ風のビジュアルを採用したことだった。海外の日本文化ファンから大きな注目を集め、人気につながったという。

具体的な戦略としては、開発の初期段階から海外の掲示板サイトRedditなどでアイデアを公開し、ファンコミュニティを形成していったことを明かした。また、Discordには1万人以上のファンが集まり、有志による11言語への翻訳も行われたという。さらに、完成前のベータ版をリリースできるSteamの「早期アクセス」機能を活用し、正式リリース時と合わせて2度の大きな露出機会を得たことも成功のポイントだと語った。

クロストーク:「日本のインディーゲーム開発者が海外市場で成功するためには」

3名の登壇者によるクロストークでは、海外市場での成功の鍵についてさらに議論が深められた。

立花氏は、日本と中国の文化的な近さはコミュニケーションの助けになる一方で、中国ユーザーが好む「ネタ」の感覚など、文化的な違いを理解することが重要だと述べた。髙橋氏は、自身が作りたいゲームジャンルのファンが海外に多かったため、自然と海外市場を意識するようになったと語る。開発の初期段階から海外のファンと積極的に交流し、共にゲームを作り上げていく姿勢が成功に繋がったことを強調した。

また、パブリッシャーとの関係について立花氏は、契約前からプレイテストなどで交流を始め、時間をかけて相性を見極めることもあると語り、開発者とパブリッシャーの良好な関係構築の重要性を示した。

質疑応答では、海外コミュニティ運営の秘訣について質問が上がった。髙橋氏は「馬が合う人たちと積極的にコミュニケーションを取り、時には『この英語表現は失礼じゃないか』などと相談しながら進めている」と答え、信頼できるファンとの協力関係が重要であるとした。

今回のシンポジウムは、市場データに基づくマクロな視点から、個人のクリエイターによるミクロな実践論まで、多様な角度から海外展開のリアルを浮き彫りにした。成功への道は一つではないが、市場を理解し、ファンと真摯に向き合い、利用できるツールや仕組みを最大限に活用することが、グローバルな成功への第一歩となることを示す、示唆に富んだイベントとなった。

《杉本穂高》

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杉本穂高

Branc編集長 杉本穂高

Branc編集長(二代目)。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。

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