パイロットフィルム、アドバイザー、渡航費…。香港フィルマートに挑んだ日本人作家3組が明かす、Film Frontier支援の使われ方

香港フィルマートで新設された「Film Frontier」セクションに、日本発の3企画が参加した。『HIDARI』『Unknown Face』『Life is Yours』の作り手たちは、国際共同製作の現場で何をつかんだのか。香港でのピッチを終えたプロデューサー、監督たちに聞いた。

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パイロットフィルム、アドバイザー、渡航費…。香港フィルマートに挑んだ日本人作家3組が明かす、Film Frontier支援の使われ方
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毎年3月に開催される、アジア最大級の映像コンテンツ見本市「香港フィルマート」。その中の、HKIFF Industryが運営するプロジェクトマーケット「Hong Kong – Asia Film Financing Forum(HAF)」は、開発中・制作中の長編フィクションおよびアニメーション企画を世界中の投資家・配給会社・共同製作パートナーに引き合わせる場だ。

今年、新たに「Film Frontier」セクションが設けられた。HKIFF IndustryとJapan Creator Support Fundが連携し、国際共同製作や海外パートナーとの協業を積極的に求める次世代の日本人映画作家にスポットライトを当てる新枠だ。

記念すべき初回には、ドワーフ/ノリ・松本紀子プロデューサーらによるコマ撮りアクション時代劇『HIDARI』と、草野なつか監督の長編第3作『Unknown Face』の2本が選出された。さらに、HAFのIn-Development Project(IDP)部門には、川和田恵真監督・東映の高橋直也プロデューサーらが手がけるオリジナル企画『Life is Yours』が選ばれている。

これら3企画は、文化庁・独立行政法人日本芸術文化振興会・公益財団法人ユニジャパンが運営する、若手クリエイターの海外展開を支援するプログラム「Film Frontier」の支援対象となっている。今回、香港でピッチに臨んだ3組のプロデューサーと監督に、その経緯と手応え、そして企画開発支援が現場でどう機能しているのかを聞いた。

3つの企画、3つの異なる事情

『HIDARI』は、川村真司が監督・脚本を手がけ、ドワーフが共同監督の小川育を立てつつプロデュースを担い、スタジオとしては、ドワーフと TECARATが制作を行う長編化企画だ。IPを100%自分たちで保有するという、日本のアニメーション業界では珍しい座組で進行している。

「コマ撮りは日本だけで公開しても弱いので、最初から世界をちゃんと見すえて、海外から、一緒に作るって形を敷きたいなと思って営業しています」(松本氏)

従来より柔軟なファイナンスのあり方を模索し、クラウドファンディング、Film Frontierの支援、そしてクエストリーによるファンドの参画。多彩な手段を組み合わせる背景を、松本氏はこう語る。

「『HIDARI』アートハウス映画でもないし、よくあるエンタメでもない独特のポジショニングの作品。我々が100%権利を持ってるし、新しいチャレンジするのにふさわしいかなと思いました」(松本氏)

ストップモーション時代劇「HIDARI」パイロット版 - YouTube

『王国(あるいはその家について)』で高く評価された草野なつか監督の長編第3作『Unknown Face』は、「顔」と「能面」をテーマにした作品だ。福岡で映画上映企画「アジアン・フィルム・ジョイント」を運営する三好剛平氏が、初の本格的な劇映画プロデューサーとして参加。タイのアノーチャ・スウィチャーゴーンポン監督と、プロデューサーのポール・モリ氏が共同プロデューサーに名を連ねる。

東映の高橋直也プロデューサーと川和田恵真監督が手がける『Life is Yours』は、2026年2月のベルリン国際映画祭・European Film Market(EFM)のCo-Production Marketに、日本企画として初めて選出された作品として注目を集めている。外国資本が多数進出し、日本でありながら日本人がマイノリティとなっているスキーリゾートを舞台にした物語だという。

本作は『ディア・ストレンジャー』に続く、高橋プロデューサーの国際共同製作プロジェクトだ。

3者3様の参加動機

3つの企画は、香港フィルマートに来た理由もそれぞれ異なる。

『HIDARI』にとって、こうしたコンテンツマーケットでまとめてピッチをするのは初めての経験だという。ピッチを連打することで見えてくるものがある、と松本氏は手応えを語る。

「個別に会社を訪れてピッチすることはありましたが、ここで千本ノックみたいにピッチすると、自分たちの作品がどういう位置付けなのかが客観的にわかってきます。ストップモーションに対してどういうリアクションされるかとか、どういう興味を持った人が来てるのかなど、いろいろと見えてきます」(松本氏)

『Unknown Face』はHKIFF Industryから「会いたい人」のリクエストを募り、事務局がアレンジする仕組みのなかで、ワールドセールスのパートナーを見つけることが最大の目標だ。

『Life is Yours』はEFMという欧州のマーケットに続いてアジアのマーケットに参加したのは明確な理由がある。本作は日本、ヨーロッパ、アジアからバランスよく資金を調達することを目標にしているためだ。

Film Frontierの支援がなければ、僕らはまだスタートも切れていなかった

「Film Frontier」は、3つのプログラム(海外渡航プログラム、滞在型企画開発、長編アニメクリエイター支援)で、制作・映画祭・海外セールス・法務など各方面のアドバイザーが伴走しながら、実践的な活動訓練と発表機会を提供する仕組みだ。

『Unknown Face』と『Life is Yours』は「海外渡航プログラム」、『HIDARI』は「長編アニメクリエイター支援」の対象となっている。

最も率直に支援の意義を語ったのが、『Unknown Face』の三好氏だった。

「本当に有り難い支援です。もしこれがなかったら、僕らはまだスタートも切れていなかったんです。この支援がプロジェクトを0から1へ後押ししてくれたおかげで、自分たちに興味を持ってくれる人たちが可視化され、こちらも具体的に考えながら動ける機会が生まれました。加えて、活動費という後ろ盾と、対象期間の明確化によって、安心してしっかり走り込めるサポートになっていることも有り難いです。、続けていけばきっと他の作り手たちの支えにもなるものだと思います」

草野監督も、開発期間の収入問題というクリエイター固有のリアリティから語る。

「企画を開発してる間って収入がないんです。この支援があるから、ちゃんと作品に注力できるようになります。パイロットフィルムの制作費があるのも大きくて、今回のマーケットだけでなく、ご縁がありそうな会社と会う機会になった時お見せできるようになりました」

三好氏もプロデューサーの立場として「パイロットフィルムがあると伝えられる情報量が格段に変わる」と手ごたえを語ってくれた。

アドバイザー制度が結んだ縁

『Life is Yours』もFilm Frontierの支援金でパイロットフィルムを作成している。しかし、それだけに留まらない実務的に重要な出会いをFilm Frontierが提供してくれたという。それは『ルノワール』などで知られる、国際共同製作の経験豊富なプロデューサー・水野詠子氏の参画だ。

「Film Frontierにはアドバイザー制度があり、僕たちから水野さんに、アドバイザーとして入っていただけないかとお願いしたのが最初でした。ただ、企画について話していく中で、水野さんが監督のビジョンに共鳴してくださり、僕たちもその知見やプロデューサーとしての視点に大きな刺激を受け、自然とプロデューサーとして参加していただく形になりました」

水野氏の参加が決定的だった、と高橋氏は強調する。

「水野さんは国際共同製作の知識が深く、ベルリンでも非常に大きな手応えを掴めました。水野さんのおかげで、欧州のプロデューサーのネットワークに入っていけたと実感しています」

「ためらいなく営業に出られる」

『HIDARI』にとってFilm Frontierの支援は、川村監督をはじめとするメンバーの「動く自由」を生み出していると語る。

「私たちもインディーズだし、そんなにお金もありません。資金的なサポートがあるおかげでためらいなく海外マーケットに営業しにいけるようになります」(松本氏)

パイロットフィルムが既に完成しているため、開発費の使途は別の方向に向かっている。

「新しいキャラクターデザインを入れるなど、デックを更に豊かにしたり、ビジネス的なアドバイスを海外の人から受けたりとか、色々な角度での活動に支援をしていただけています」

それぞれの次なるステージ

3つの企画は、それぞれ次のステージへと歩を進めている。『HIDARI』は年内のクランクインを視野に、カンヌやアヌシーでのヨーロッパ、北米・アジア圏のマーケットも回りながら多面的な座組を模索する。「コマ撮り作品はそもそも打席が少なく、リクープできていない作品も多い。だからこそ、私たちは業界の未来のためにも、きっちり回収できるものを作りたい」(松本氏)。

『Unknown Face』は2025年内の脚本初稿を経て、2027年初頭の撮影開始を目指す。「自分たちにふさわしいサイズで、こだわる所はこだわれる身軽さを担保しておきたい」(三好氏)。

『Life is Yours』は2027~2028年撮影開始を目指す。高橋氏は、この企画の成立が持つ意味をこう語る。「オリジナルで、中規模予算でも、現場で無理な負担をかけずに海外からお金を集めて作っていける。そんなモデルケースを、若手のために作りたい」。

サイズもジャンルも座組も異なる3企画。だが3組から繰り返し聞こえてきたのは、企画開発の段階に伴走する公的支援の重要性だ。「開発期間は収入がない」「マーケットに出る旅費・素材制作費が捻出できない」「そもそも何が必要かを知る術がない」。クリエイターが必要とするものを的確に支援する仕組みが機能し始めている実感の持てる、香港取材となった。

《杉本穂高》

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杉本穂高

Branc編集長 杉本穂高

Branc編集長(二代目)。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。

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