今年のカンヌ国際映画祭は多くの日本映画が出品されたが、中でも異彩を放ったのが、日本人史上最年少での出品監督となった団塚唯我監督の『見はらし世代』だろう。26歳で世界の舞台に立つことになった団塚監督は、本作が長編初監督となる。
『見はらし世代』は東京で配送運転手として働く青年・蓮(黒崎煌代)が数年ぶりにランドスケープデザイナーの父と再会することから、家族の喪失と再生を、変わりゆく都市の風景に重ねて描いた作品だ。主演には、黒崎煌代、共演に遠藤憲一、井川遥、木竜麻生らが名を連ねる。
すでにフランスでの配給も決定している本作はどのような経緯で制作されたのか、カンヌの地で団塚監督とプロデューサーの山上賢治氏に話を聞いた。
東京再開発への違和感から企画が始まった
――カンヌへの出品おめでとうございます。団塚監督と本作の制作会社シグロとの出会いはndjc(若手映画作家プロジェクト)の短編製作の時ですね。
団塚:そうですね。『遠くへいきたいわ』(2022年)という短編映画を作った時、今回のプロデューサーである山上賢治さんがロケーション担当をしてくださいました。今回、長編映画の企画をシグロに提案した時に賢治さんがプロデュースで、山上徹二郎さんがエグゼクティブ・プロデューサーとなって企画製作に入ってもらい、この作品がスタートしました。
――山上さんは、短編映画で団塚監督とご一緒した時から、何か光るセンスを感じていたのですか。
山上:そうですね。『遠くへいきたいわ』がすごく良い出来でした。とても美しい映画だし、一緒に現場にいてやりやすいですし、企画が始まる前から食事に行く仲になっていたので、一緒にやりたいなと思っていました
――団塚監督は、どんなところから本作の着想を得たのですか。
団塚:今までも家族の喪失のようなテーマを扱ってきましたので、最初の長編もそのテーマでいきたいと思っていたんです。短編よりもスケールを大きくした内容にしないといけないと思っていたところ、僕は東京出身ということもあり、街の再開発に対して違和感が募っていたタイミングで、それが家族というテーマと重なってこの企画を思いつきました。

――東京の再開発への違和感というのは、具体的にはどういうものでしょうか。
団塚:端的に言うと大規模かつ早いなと。大規模再開発を否定するわけではないんですが、これまであった記憶や建物の歴史がなくなってしまうことに対する不安が、人がいなくなるということに対する不安と近い感覚があったんです。
――山上さんはプロデューサーとして団塚監督の企画を聞いた時、どうお感じになりましたか。
山上:家族と都市の話は初稿段階から入っていて、すごく面白いと思いました。家族のメンバーそれぞれをバランスよく描けているし、いわゆる若手監督の情熱だけで書いたデビュー脚本という感じではなくて、きちんと物語として美しく完成していました。
――確かに、若手監督としては稀有な、冷静な視点がある作品という印象を受けました。
山上:男性も女性も、若者も年配の人、さらに背景もフラットに描けるのは、なかなかない感覚だと思います。若手だからとか関係なく、そもそもそういうセンスを持った作家はそう多くないですね。

黒崎煌代との出会い
――団塚監督が家族というテーマに惹かれる理由はなんでしょうか。
団塚:まだ自分は長く生きているわけじゃなく、一番親密なコミュニティが家族なので個人的な思いが出やすいですし、それについて考える時間も長かったからだと思います。
山上:家族のパーソナルな物語と再開発という社会の物語のつながりが上手く描けているのがこの映画の良い部分で、それは脚本段階から編集でも意識した部分です
団塚:そのバランスはかなり気を使いました。家族のドラマとその裏で起きている再開発の問題とが、編集によってもだいぶバランスが変わるのでギリギリまでずっと話し合っていましたね。
1月に撮影して、カンヌの応募締め切りが3月だったので、そのギリギリまで編集しているような感じでした。
――本作は、渋谷のMIYASHITA PARKの再開発を取り上げていますが、その理由はなんですか。この場所は、現実の再開発時にはホームレスの立ち退きなどで大きくニュースに取り上げられていました。
団塚:ニュースで取り上げられていたことが一番大きな理由ですが、やはり僕自身東京出身であることもあって、変わっていく街への寂しさや違和感があったんだろうと思います。

――カンヌの公式上映では、どんな反応がありましたか。
団塚:基本的には温かい反応が多かったです。美しいと言っていただけることが一番多かったように思います。MIYASHITA PARKの問題をイデオロギー的な善悪の対立構図に見せたくなくて、壊れていくものがあれば新しいものも生まれていく、それを享受しながら生きていく若者がいるということを誠実に描きたいと思っていたので、報道やニュースとは違う見せ方をできたかなと思います。
――主演の黒崎煌代さんについてもお伺いします。黒崎さんの映画デビューはシグロ製作の『さよなら ほやマン』でしたが、団塚監督が黒崎さんを主演に選ばれた理由はなんですか。
団塚:実は『さよなら ほやマン』のメイキングのスタッフとして参加していて、黒崎くんとはそこで出会ったんです。年齢も近いし、すぐに仲良くなれて。それで僕が黒崎くんとやりたいと山上さんとも話して決まったような感じです。
――黒崎さんのどんな点を俳優として評価していますか。
団塚:僕は俳優を選ぶ時に、舞台挨拶やインタビュー記事など、芝居そのものよりも実際に本人としてしゃべっているものを参考にすることが多いんです。

カメラを向けた時に、「ただ自分でいられる」ことってすごく難しいんです。黒崎くんはそういう難しいことが本能的にできる役者なので、この映画の主人公についても、僕が書いた脚本以上のものにしてくれるんじゃないかと思ったんです。
初めてのカンヌは「楽しかった」
――本作の製作委員会はシグロと黒崎さんの所属するレプロエンタテインメントの2社だけですね。若手作家のデビュー作の企画を成立させるのは難しいことだと思いますが、実際にどのようなご苦労がありましたか。
山上:私自身、今回が初プロデュース作品なので、他の企画がどの程度大変で何が違うのか、まだわかっていないんです。苦労は確かに多かったですが、楽しかったですね。
団塚:色んな事が起こりますけど、僕もずっと楽しいことが続いています。僕も初長編監督で黒崎くんも映画初主演だし、衣装部も録音部も初めてのチームでした。初めてづくしの現場でしたけど、バタバタすることもなく楽しくやれたのが良かったですね。
カンヌでは、インターナショナルのセールス会社とフランスでの配給も決まって、これからも一緒にやっていきたいと言ってもらえたことは、大きな励みになりました。
――企画を考えた当初から国際映画祭を狙っていたんですか。
山上:はい。最初からそういう話をしていました。映画祭を狙えるくらい素晴らしい才能を持っていると思っていましたし、家族と都市というテーマは海外でも通用するものだから。諸々のスケジュールの都合で1月撮影は動かせなかったので、なんとか間に合ってよかったです。
団塚:自分としては映画祭を意識しないようにしていました。だから、撮影後もほぼそのことを忘れていて、友達とドライブしているときにカンヌに選ばれたという電話を受けてびっくりしました。

――初長編監督でカンヌに出品という大きな成果を得ましたが、団塚監督の今後の予定はいかがですか。
団塚:ぼんやりといくつか企画を考えている段階で、これから形にしていくつもりです。予想外にカンヌに選ばれたりしてバタバタしていたので、本格的に練り上げるのはこれからですね。
――最後に今後の抱負をお願いします。
団塚:まずは本作をたくさんの方に見ていただきたいです。今後、僕としてはSFにも挑戦したいと思っています。一本作るとたくさんアイデアが湧いてきていて、それが自分としてもすごく嬉しい。これから忙しくしていこうと思っています。
■『見はらし世代』公開情報
10月10日(金)公開
出演:黒崎煌代、遠藤憲一、井川遥、木竜麻生、菊池亜希子、中村蒼、中山慎悟、吉岡睦雄、蘇鈺淳、服部樹咲、石田莉子、荒生凛太郎
監督・脚本:団塚唯我
企画・製作:山上徹二郎
製作:本間憲、金子幸輔
プロデューサー:山上賢治
アソシエイト プロデューサー:鈴木俊明、菊地陽介
音楽:寺西涼
配給:シグロ
配給協力:インターフィルム、レプロエンタテインメント
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