【カンヌ現地レポート】「映画祭に映る障害者はわずか1%」英プロデューサーが突きつけた調査結果と、ノルウェー発の当事者映画が示す可能性

2026年カンヌ国際映画祭マーケット部門「マルシェ・ドゥ・フィルム」内で開催された「Who Gets to Be Seen? Disability Representation in the Film Industry」は、世界5大映画祭における障害者・ニューロダイバース当事者の比率を定量化した報告書、そしてノルウェーの当事者監督による長編デビュー作の制作実践を通じて、映画産業における構造的な見えにくさを浮き彫りにした。

グローバル マーケット&映画祭
【カンヌ現地レポート】「映画祭に映る障害者はわずか1%」英プロデューサーが突きつけた調査結果と、ノルウェー発の当事者映画が示す可能性
【カンヌ現地レポート】「映画祭に映る障害者はわずか1%」英プロデューサーが突きつけた調査結果と、ノルウェー発の当事者映画が示す可能性
  • 【カンヌ現地レポート】「映画祭に映る障害者はわずか1%」英プロデューサーが突きつけた調査結果と、ノルウェー発の当事者映画が示す可能性
  • 【カンヌ現地レポート】「映画祭に映る障害者はわずか1%」英プロデューサーが突きつけた調査結果と、ノルウェー発の当事者映画が示す可能性
  • 【カンヌ現地レポート】「映画祭に映る障害者はわずか1%」英プロデューサーが突きつけた調査結果と、ノルウェー発の当事者映画が示す可能性
  • 【カンヌ現地レポート】「映画祭に映る障害者はわずか1%」英プロデューサーが突きつけた調査結果と、ノルウェー発の当事者映画が示す可能性
  • 【カンヌ現地レポート】「映画祭に映る障害者はわずか1%」英プロデューサーが突きつけた調査結果と、ノルウェー発の当事者映画が示す可能性
  • 【カンヌ現地レポート】「映画祭に映る障害者はわずか1%」英プロデューサーが突きつけた調査結果と、ノルウェー発の当事者映画が示す可能性
  • 【カンヌ現地レポート】「映画祭に映る障害者はわずか1%」英プロデューサーが突きつけた調査結果と、ノルウェー発の当事者映画が示す可能性
  • 【カンヌ現地レポート】「映画祭に映る障害者はわずか1%」英プロデューサーが突きつけた調査結果と、ノルウェー発の当事者映画が示す可能性

2026年5月14日、カンヌ国際映画祭マーケット部門「マルシェ・ドゥ・フィルム」のプロデューサーズ・クラブ(Lérins)にて、ワークショップ「impACT | Who Gets to Be Seen? Disability Representation in the Film Industry」が開催された。

司会を務めたのは、36か国200社の独立系プロデューサーを束ねるEuropean Producers Club(EPC)のマネージング・ディレクター、Julie-Jeanne Régnault氏。「マルシェがインクルージョンをテーマに据えるのは今年で2回目。我々が本気でこだわっているテーマだ」と冒頭で意義を強調した。登壇したのは、英国のプロデューサーで「 The Crip Count」報告書の著者であるSamm Haillay氏(Kirlian Enterprises)、そしてノルウェー映画界の若手プロデューサーTøri Gjendal氏(Nordisk Film Production)。


本稿では、定量データが明らかにする産業構造の歪み、映画祭別に見えてきた傾向、当事者性に基づく制作実践、そして公的助成機関に求められる役割という四軸から、約1時間のセッションを振り返る。


世界5大映画祭で当事者はわずか「1.16%」

セッション前半は、Samm Haillay氏が2026年2月にロッテルダム国際映画祭で発表した報告書「The Crip Count」を解説した。彼が取り組んだのは、サンダンス、ベルリン、カンヌ、ベネチア、トロントという5つのAリスト映画祭において、2025年に選出された全作品の脚本家・監督・プロデューサーのうち、自らを障害者またはニューロダイバースと公表している人物が何人いるかをカウントするという、地道な作業だ。

ベージュのスーツにメガネ、顎髭のある男性登壇者のクローズアップ。マイクを口元に持ち、話し、左手でジェスチャーをしています。背景のスクリーンには、額縁のようなグラフィックと「Disabled Directors(障害者監督)」などのテキストの一部がぼんやりと見えています。

データサイエンティストの友人の協力を得て大規模言語モデルによるスクレイピングツールを構築し、4,000人超の経歴、インタビュー、大学図書館の記録までを精査。自己申告の事例のみを抽出し、最終的にすべて人力で再確認した。

結果は厳しいものだった。5つの映画祭、計675本、4,550のアバヴ・ザ・ライン(主要な制作陣と出演者)のうち、公に障害を自認している人物はわずか53クレジットで1.16%。役職別では監督が2.35%、脚本家が1.14%、プロデューサーは最も少ない0.8%にとどまった。「合算すると1%。覚えやすい数字だ」とHaillayは自嘲気味に語った。

パネルディスカッションのステージ。大きなスクリーンには「The 2025 Crip Count(2025年 クリップ・カウント)」というタイトルのスライドが表示されており、異なるデザインの豪華な額縁に囲まれた6つの異なる割合の数字が示されています。左から:1.16%(障害者のアバブ・ザ・ライン・クレジット合計)、0.8%(障害者プロデューサーの割合)、1.19%(公表された障害を持つ重複のない個人)、2.35%(障害者監督の割合)、1.14%(障害者脚本家の割合)、1%(2025年の複合クリップ・カウント数)。前方に3人の登壇者が座っています。

参考データとして提示された各国の国勢調査では、人口に占める障害者比率は国によって幅があるものの、カナダ・米国・英国ではおおむね20~25%前後にのぼる。映画祭の1%との落差は20倍以上ということになる。

トークセッションの様子。スクリーンのスライドタイトルは「Disabled Population Benchmarks 2025(2025年 障害者人口のベンチマーク)」。画面中央には積み上げ棒グラフが表示されており、各国の非障害者(濃いグレー)と障害者(水色)の人口割合の目安が示されています。横軸は左からドイツ、アメリカ、フランス、ベルギー、イギリス、カナダ、イタリアです。割合の正確な数値は記載されていませんが、グラフの視覚的な割合から、アメリカ、イギリス、カナダの障害者の割合が他の国よりも高く描かれています。スライドの前には3人の登壇者が座っています。

映画祭別に見る格差

Haillay氏は、映画祭ごとの内訳も公表した。

最も高い比率を示したのはサンダンス映画祭だ。95作品・534人のうち10人(1.87%)が当事者で、監督に限れば116人中5人(4.31%)と5映画祭中最多。ただし脚本家は102人中1人(0.98%)、プロデューサーは448人中8人(1.78%)にとどまる。

トークセッションの様子。スライドタイトルは「By Festival(映画祭別)」で、今回は「SUNDANCE 2025(サンダンス映画祭 2025)」のデータです。右側のドーナツグラフは、非障害者98%、障害者2%を示しています。左側には以下のテキストがあります。<br />・2025年、サンダンス映画祭は95本の映画をプログラムし、534人の重複のないアバブラインの映画製作者をクレジットした。<br />・10人、すなわち1.87%が障害者であった。<br />・5大Aリスト映画祭の中で障害を持つ監督の数が最も多く、116人中5人(4.31%)であった。<br />・しかし、障害者と自認していたのは、脚本家102人中わずか1人(0.98%)、プロデューサー448人中8人(1.78%)に過ぎなかった。

トロント国際映画祭は絶対数で最多を記録。217作品・1,169人中14人(1.4%)が当事者で、監督が233人中6人(2.57%)、脚本家が352人中9人(2.56%)だが、プロデューサーは857人中わずか6人(0.7%)。

トークセッションの様子。スライドタイトルは「TIFF 2025(トロント国際映画祭 2025)」。右側のドーナツグラフは、非障害者98.8%、障害者1.2%を示しています。左側には以下のテキストがあります。<br />・2025年、TIFFは217本の映画を上映し、1,169人の重複のないアバブラインの映画製作者をクレジットした。<br />・14人、すなわち1.4%が障害者であった。内訳は、監督233人中6人(2.57%)、脚本家352人中9人(2.56%)、プロデューサー857人中6人(0.7%)。<br />・TIFFはAリスト映画祭の中で障害者の表現においてリードしているが、ここでもプロデューサーの割合は著しく過小評価されており、業界で最も注目されるプラットフォームにおいて障害を持つ映画製作者が継続的に排除されていることを浮き彫りにしている。

カンヌ国際映画祭は公式部門・監督週間・ある視点・批評家週間・ACIDの全部門を通算して103作品・663人中7人(1.06%)。監督2人(1.80%)、脚本家1人(0.48%)、プロデューサー5人(1.05%)という内訳だ。Haillay氏は数字の低さを認める一方、「会場のアクセシビリティ対応など、施設面では前進している」と付け加えた。

トークセッションの様子。スライドタイトルは「CANNES 2025(カンヌ国際映画祭 2025)」。右側のドーナツグラフは、非障害者99%、障害者1%を示しています。左側には以下のテキストがあります。<br />・2025年、すべてのサイドバー(オフィシャルセレクション、監督週間、ある視点、批評家週間、ACID)において、カンヌは103本の映画を選出し、663人の重複のないアバブラインの映画製作者をクレジットした。<br />・障害者はわずか7人、すなわち1.06%であった。内訳は、監督111人中2人(1.80%)、脚本家208人中1人(0.48%)、プロデューサー478人中5人(1.05%)。<br />・表現の低さにもかかわらず、現場でのアクセシビリティ(PMR:移動困難者への対応)では前進を見せている。

最も衝撃的だったのはベネチア国際映画祭だ。83作品・401人中わずか2人(0.5%)。監督は90人中ゼロ、脚本家135人中1人(0.74%)、プロデューサー278人中1人(0.36%)という結果となった。

トークセッションの様子。スライドタイトルは「VENICE 2025(ヴェネツィア国際映画祭 2025)」。右側のドーナツグラフは、非障害者99.5%、障害者0.5%を示しています。左側には以下のテキストがあります。<br />・2025年、ヴェネツィアは83本の映画を選出し、401人の重複のないアバブラインの映画製作者をクレジットした。<br />・障害者はわずか2人、すなわち0.5%であった。内訳は、監督90人中0人(0%)、脚本家135人中1人(0.74%)、プロデューサー278人中1人(0.36%)であり、アバブラインの役割における障害者の表現に関して、ヴェネツィアは最も包摂性の低い映画祭となっている。

ベルリン国際映画祭も「進歩的な評判にもかかわらず、ほぼ消去(near-erasure)と呼ぶべき数字」(Haillay)を記録。177作品・741人中4人(0.54%)にとどまった。

トークセッションの様子。スライドタイトルは「BERLINALE 2025(ベルリン国際映画祭 2025)」。右側のドーナツグラフは、非障害者99.5%、障害者0.5%を示しています。左側には以下のテキストがあります。<br />・2025年、ベルリンは177本の映画を上映し、741人の重複のないアバブラインの映画製作者をクレジットした。<br />・障害者はわずか4人、すなわち0.54%であった。<br />・監督200人中3人(1.50%)、脚本家245人中3人(1.22%)、プロデューサーは563人中わずか2人(0.36%)。<br />・この映画祭の進歩的な評判にもかかわらず、これらの数字は(障害者が)ほぼ消去されている状態を示している。

Haillay氏は監督職の比率が他職に比べて高くなる理由について、「監督についてはインタビューも記事も多く、自己申告を発見しやすいから」という方法論上のバイアスを率直に認める。「もしも全員が公にカミングアウトできていたら、数字はもう少し変わるだろう」と調査についての見解を述べた。

意思決定層の問題

映画を完成させるには、企画開発、ピッチ、ファイナンサー集め、セールスエージェント獲得に実制作など、無数のハードルがある。映画を完成させること自体が偉業であり、障害を持つクリエイターたちは、そのすべての段階で公正な支援を受けられていない可能性が極めて高いとHaillay氏はいう。

彼が最も強調したのは、映画祭よりもむしろ意思決定層の問題だ。報告書の方法論で英国の映画関連意思決定機関の幹部層を調査したところ、当事者は「完全にゼロ」だったという。「組織内に障害者やニューロダイバースの人々がいないわけではない。だが意思決定の役職には誰もいない」。

パネルディスカッションのステージ。スクリーンには「THE CRIP COUNT(クリップ・カウント)」というタイトルのスライドが表示されています。スライドの背景は、車椅子に乗った人物を別の人物が押している、古いモノクロ写真です。スライドの下部には「How disability inclusion in the film industry is (really) going(映画業界における障害者インクルージョンの(本当の)進捗状況)」というサブタイトルがあります。前方に3人の登壇者が座っています。

彼は障害者権利運動のスローガン「Nothing about us without us(私たち抜きに私たちのことを決めるな)」を引きつつ警鐘を鳴らす。「素敵な言葉だが、意思決定の場では常に『私たち抜き』で物事が決まっている。当事者の経験、カメラが回っていないときに何が起きているかを知らない人間が、誰が物語を語ることができるかを決めてしまっているのが現状だ」と語る。

車椅子に乗った監督Mari Storsteinからのビデオメッセージ

セッション後半はケーススタディへと移った。題材は2026年初頭にノルウェーで公開された映画『My First Love』。プロデューサーはNordisk Film Productionで2022年にノルウェー映画学校を卒業したばかりのTøri Gjendal氏だ。

会場には、車椅子に乗ったMari Storstein監督からのビデオメッセージが流された。ドキュメンタリー出身で生まれつき車椅子を使用する彼女は、ノルウェーの陽光が差し込む自宅から、観客に直接語りかけた。

パネルディスカッションのステージ。スクリーンには、自宅らしき場所で車椅子に座っている女性のリモート映像が映し出されており、映画祭などへの包摂性について話している様子です。英語の字幕には、「Fist I have to say that I am very excited that you are having this workshop,-(まず初めに、このワークショップが開催されることをとても嬉しく思っています、-)」と表示されています。前方に座っている3人の登壇者が、スクリーンを見上げています。

「まず、障害者表象についてのカンファレンスが開催されること自体に、私はとても興奮しています。これは私が本当に情熱を注いでいるテーマですから」とStorsteinj監督は切り出す。

「10代の頃、自分のような人間には別のルールが適用されていることに気がつきました。そしてカメラを使えば、その感覚を表現できると思ったのです」。長年ドキュメンタリーに携わってきた彼女は、「ごく普通の生活を送ろうとする人々の物語をたくさん聞いてきましたが、障害者にとって普通であることは絶え間ない闘いです」と続け、以下のように率直に映画における障害者像についてこう語る。

「私は映画の中で自分が代表されていると感じたことが一度もありません。映画に登場する障害者を見ても、そのキャラクターに自分を重ねることができませんでした。私たちはあまりにもステレオタイプに描かれてきたからです。その理由は明らかで、私たちについての物語が、私たち自身によって語られていないから」。

『My First Love』は青春ラブストーリーで、多くの人にとって未知のノルウェーの一面を描く批評的な作品」でもあると彼女は語った。「この映画が、人々が私たちをどう見るかを変える一助となり、映画産業がより平等で、よりインクルーシブになるよう奮い立たせることを願っています」と結んだ。

当事者監督・主演で映画を作るのは「拍子抜けするほど普通だった」

ビデオメッセージを受け、Gjendal氏がプロジェクトの経緯を語った。脚本はCOVID期間中に書かれ、Nordisk Filmに持ち込まれた。彼女が入社した時点ですでに社内に存在しており、プロデューサーを担当することになったという。

会場から「障害のある主演では資金が集まらないと言われ続けてきた」という米国の脚本家からのコメントがあった。これに呼応する形で、Gjendal氏は『My First Love』の制作現場の実態を率直に共有した。

赤い花柄のジャンプスーツを着た女性登壇者のクローズアップ。マイクを持って話し、笑顔で上を見上げています。背景のスクリーンには、「LIVE」のテキストと、その下に大きなQRコードが表示されています。

「車椅子の監督と主演を抱えた制作は『高くつく』し『手間がかかる』から大変だろうとよく聞かれます。この現場は私自身がラインプロデューサーも兼ねていましたが、実のところ拍子抜けするほど普通でした。少しだけ時間をかけて、アクセシブルなロケーションを選ぶだけでした」。

車椅子の主演女優を移動させるためのタクシー予算は通常より多めに組み、撮影は通常の5日制ではなく週4日制とし、1日の撮影時間は最大8時間に制限。監督と主演の昼休みは通常の30分ではなく1時間とした。「これはむしろ全ての制作現場が見習うべき働き方だと思います。週末がちゃんとあって、眠りたいときに眠れますから」。

トークセッションの様子。前方には3人の登壇者(両端に赤い花柄の服を着た女性、中央にベージュのスーツを着た男性)が椅子に座っています。後ろの巨大なスクリーンには、セッションのタイトルが映し出されています。画面右上には「impACT MARCHÉ DU FILM」、右下には「The European Producers Club」のロゴがあります。中央には大きく「Who Gets to Be Seen? Disability Representation in the Film Industry(誰が見られるのか?映画業界における障害者の表現)」と書かれています。左下には「Live」という文字と共にQRコードが提示されています。


三者の証言から見えてくるのは、映画産業における障害表象の課題は、技術的・予算的な障壁よりも、ほとんどが意思の問題ではないかということだ。

「映画産業をよりインクルーシブにしたいなら、物語を語りたい人々のところへ我々から赴かなければならない」司会のRégnault氏はこの言葉でセッションを締めくくった。

なお「2025 Crip Count」報告書は以下のサイトで入手可能だ。

https://thecripcount.wixstudio.com/thecripcount

《杉本穂高》

関連タグ

杉本穂高

Branc編集長 杉本穂高

Branc編集長(二代目)。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。

編集部おすすめの記事