経産省「アニメ制作業の就業環境実態調査」発表。労働ガイドライン"アニ適"創設に言及

経済産業省が「アニメーション制作業における就業環境等に関する実態調査」報告書を公表した。制作者926名・制作会社97社への調査から見えてきた改善傾向と構造的課題、そして新認定制度「アニ適(仮称)」の検討状況を読み解く。

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出典:経済産業省
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2026年4月23日、経産省がアニメーション制作業における就業環境等に関する実態調査」報告書を公表した。JAniCAの「アニメーション制作者実態調査2026」と連携して制作者個人983名から回答を得たほか、制作会社97社への法人調査、関係者ヒアリング、業界3団体(AJA・JAniCA・NAFCA)による懇談会も実施。多角的なアプローチで現場の実態把握に取り組んでいる。

広義のアニメ市場は2024年に約3.8兆円に達し、海外市場の伸びが加速している。政府はコンテンツ産業の海外市場規模を2033年までに20兆円へ拡大する目標を掲げており、アニメはその牽引役として期待されている。だが制作現場では慢性的な人材不足と就業環境の問題が続いたままだ。これまで網羅的に調査されてこなかった正規雇用やフリーランスの就業環境や人材育成の実態など、クリエイターの抱える課題などを包括的に調査しており、今後の政策議論の土台に位置づけられる。

以下、「制作者の収入」「改善傾向と残る課題」「法人向け調査」「アニ適(仮称)」の4つの切り口で整理していく。


アニメ制作者の収入:総作画監督で平均年収1000万

MURC集計による全体の平均年収は508.2万円、中央値は410.5万円だった。ただしJAniCA集計では四分位数の上位25%・下位25%を除外しており、そちらの平均年収は444.6万円。集計方法が違うため、単純比較はできない。(JAniCA集計は下記)


就業形態別に見ると、正社員・契約社員の平均年収が425.5万円(中央値360万円)なのに対し、フリーランス・自営業は632.1万円(中央値550万円)と大きく上回る。ただしフリーランスの回答者は平均年齢43.9歳、平均経験年数20.2年とベテラン層が中心だ。技術のある人材に仕事が集中するこの業界の構造を考えれば、腕のあるフリーランスほど稼げるのは自然な話ではある。

それよりも深刻なのが職種間の格差だろう。総作画監督の平均年収は1,015.5万円、監督は909.0万円。一方で動画は223.6万円、第二原画は214.0万円。4倍以上の開きがある。

出典:経済産業省

もちろん監督や総作画監督は長い経験と高い技術の先にあるポジションだから、単純に「格差だ」と批判する話ではない。問題は、キャリアの入口にあたる職種の年収が、東京で一人暮らしを続けるには厳しい水準にとどまっていることだ。

この点はJAniCA調査でも繰り返し指摘されてきたが、今回の報告書でも同じ構図が確認された。人材を安定的に確保し育てていくには、入口段階の報酬をどう底上げするかという問題は避けて通れない。

改善傾向と残る課題:休日は倍増、しかしフリーランスの健康診断受診率は4割未満

報告書を通して受ける印象は、「10年前・20年前と比べれば確実によくなっている。ただし就業形態や職種による差があり、全員が同じように恩恵を受けているわけではない」というものだ。

わかりやすいのが月平均休日日数の推移で、2005年の3.7日から2026年には7.2日へほぼ倍増した。健康診断を「毎年受けている」割合も2015年の49.9%から71.8%に上がっている。就業形態にも変化があり、フリーランスの割合は2019年調査の69.6%から36.5%へ大幅に低下。正社員・契約社員が約6割を占めるようになった(ただし、対象職種が異なるため、読み取りには留意が必要。2019年はアニメーターが中心で今回はプロデューサーや制作進行も含んでいる)。

契約の形も作品単位やカット単位から年契約へと移りつつある。配信市場の拡大でシリーズ制作が長期化するなか、制作会社が自社スタッフの囲い込みを優先する動きが強まっているためだ。仕事上の問題として「時間的余裕がない中での仕事を強いられる」を挙げる割合も、以前より下がっている。

ただ、この改善が全体に行き渡っているわけではない。フリーランスの月平均作業時間は208.3時間で、正社員の186.9時間より約20時間長い。月平均休日もフリーランスは6.0日で正社員の8.0日と2日の差がある。「3日以下」というフリーランスも20.1%いる。作業の開始も終了もフリーランスの方が遅い傾向にあり、深夜に及ぶ不規則な働き方が残っていることがうかがえる。

差がとりわけはっきり出るのが健康診断だ。正社員・契約社員で「毎年受けている」が94.3%なのに対し、フリーランスは38.2%。会社が福利厚生として健診を用意してくれる正社員と、自分で段取りしなければならないフリーランスとでは、セーフティネットに歴然とした差がある。

出典:経済産業省

改善が進んでいるのは間違いないが課題も残っていることが浮き彫りになる調査結果だ。報告書は「制作会社間の差が制作者間の差にも波及している可能性がある」と指摘しており、次年度以降の詳細分析でこの格差の構造を解きほぐす必要がある。


《杉本穂高》

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杉本穂高

Branc編集長 杉本穂高

Branc編集長(二代目)。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。

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