556億円の補助金に"司令塔"はいるか──経産省エンタメ戦略、ROI審査への転換とコントロールタワー構想の現在地

経産省は「エンタメ・クリエイティブ産業戦略改定骨子案」を提示した。支援の量は整いつつあるが、支援の質をいかに上げるのか、評価基準や実行のためのコントロールタワーの不在などが課題に上がっている。

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出典:経済産業省
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経済産業省は2026年3月27日、第18回エンタメ・クリエイティブ産業政策研究会を開催し、「エンタメ・クリエイティブ産業戦略改定骨子案」を提示した。2025年6月の閣議決定後、政策5原則の策定と補正予算556.3億円の成立を経て、2026年3月10日には新支援制度「IP360補助金」の公募が始まっている。政策が実行フェーズに移る中、今回は骨子案への意見集約が行われた。支援の量は整いつつあるが、支援の質をいかに上げるのか、評価基準や実行のためのコントロールタワーの不在などが課題に上がっている。


「売上3倍、投資3倍」──分野横断の評価が課題に

事務局は「ものがたり大国5ヵ年計画」として、海外売上6.1兆円→20兆円、民間投資額9.3兆円→33.3兆円のロードマップを示した。分野別ではゲーム12兆円、アニメ6兆円、マンガ1兆円、音楽0.5~1兆円、実写0.5兆円を目標に掲げる。

出典:経済産業省

財政支援の規模は252億円→589億円へ倍増。経産省分は102億円→355億円と3倍超になり、大胆な投資促進税制(投資下限額35億円以上、即時償却または税額控除7%)の創設や研究開発税制の3年延長も盛り込まれた。事務局資料のグラフ上では韓国を上回る規模に達した。

委員からは「民間が相当なリスクを取る必要があり、政府がどこまで支えられるかが課題」との指摘があった。加えて、出版社の投資がアニメに向かいゲーム会社がマーチャンダイジングを手掛けている現実を踏まえ、「分野別の縦割りで投資額や成長を測定・評価するのは実態にそぐわない」という意見も出た。事務局は「IPの360度展開」を戦略の柱に据えるものの、横断的な評価指標の設計は今後の宿題として残されている。

審査基準の転換──クリエイティブ評価からROI・客観指標へ

補助金の審査基準は抜本的に変わった。従来の「クリエイティブ評価」「オリジナル企画」中心の定性審査から、市場評価(過去作品の最高売上・製作規模・資金調達比率)、海外展開指標(配信国数・ローカライズ言語数)、構造改革指標(出資+レベニューシェア比率10%以上等)、ROIを軸とした客観指標へ移行した。

出典:経済産業省

ROIは「補助金がある場合の売上高から補助金がない場合の想定値を引き、補助金額で除す」という独自の計算式を採用している。政府支援なしでも実施される投資を排除し、新規投資・規模拡大・前倒しに限定して支援する設計だ。

傾斜配分はすでに実行されている。ゲームのコンテンツ製作支援は交付決定額が0.6億円→13.2億円、アニメも3.5億円→8.5億円へ大幅に増えた。一方で委員からは「データに基づく判断だけでなく逆張りの視点も重要。あえて違う道を選ぶことでチャンスが生まれる」との声もあり、合理的指標と創造性の両立は引き続き検討課題となっている。


《杉本穂高》

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杉本穂高

Branc編集長 杉本穂高

Branc編集長(二代目)。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。

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