2025年10月28日、東京国際映画祭(TIFF)の会場において、2026年に開催されるカンヌ国際映画祭併設の国際映画見本市「マルシェ・デュ・フィルム」の「カントリーオブオナー(Country of Honour)」に日本が決定したことが正式に発表された。
記者会見には、Cannes2026 Marche du Film Country of Honour 実行委員会、マルシェ・デュ・フィルム、経済産業省、日本貿易振興機構(JETRO)の代表者が登壇。世界最大規模のフィルムマーケットにおいて日本特集が組まれる歴史的な機会に対し、官民一体(オールジャパン)で日本映画産業の海外展開を加速させていく決意が示された。
カントリーオブオナーとは、カンヌ国際映画祭と併催される映画マーケット「マルシェ・デュ・フィルム」において特定の国を重点的に取り上げるもので、選定国はパートナーカントリーとして、さまざまな形で注目を集める機会を得る。2024年はスイス、2025年はブラジルが選ばれている。

「日本文化が世界に貢献できる機会」実行委員会・迫本委員長
会見の冒頭、実行委員長を務める一般社団法人映画産業団体連合会の迫本淳一会長が登壇し、決定を報告した。迫本氏は、日本のコンテンツ産業の海外売上高が5.8兆円にまで拡大している現状に触れ、その経済的波及効果だけでなく、文化的な意義についても強調した。

「経済的な側面だけではなく、コンテンツを通じて日本を広く知っていただくことで、世界中の方々に親近感を抱いていただき、平和や外交にも国際社会における日本のプレゼンスを高める機会になる」と語った上で、白か黒かではない、良さも悪さも混然一体に表現する日本文化が世界に貢献できるのではと考えているという。
その上で、今回のカントリーオブオナー決定を「世界各国の映画業界との接点強化や海外への配給商談の促進、そして日本映画の情報発信をする機会」と位置づけ、「経済産業省、JETROを中心に、関係省庁とも連携を密にし、日本映画界としてオールジャパンで取り組んでまいりたい」と力強く表明した。
経済産業省「海外展開を加速する絶好のチャンス」
続いて、経済産業省の早坂悟課長補佐(文化創造産業課)が登壇。政府が掲げる「新たなクールジャパン戦略」における「2033年までに日本発コンテンツの海外売上高を20兆円に拡大する」という目標を紹介した。
早坂氏は、現状の売上の多くをゲーム(約6割)とアニメ(約3割)が占めていると分析しつつ、実写映像分野の大きな可能性に言及した。

「実写映像の海外売上もこの10年で約400億円から1400億円と着実に成長しており、成長の余地が大いにあると認識している。現在は国内市場の方が大きいが、ゲームやアニメのように、これからは海外市場が主戦場となるのが当たり前に変化していくと考えている」と語り、実写の海外展開を力強く後押ししていくことを強調した。
また、カンヌが世界で最も権威ある映画祭と最大のマーケットが同時に開催される場所であると指摘。「海外からも注目が高まっている今、このタイミングでカントリー・オブ・オナーに日本が決定されたということは、アニメとともに実写映像をカンヌの公式プログラムとしてアピールすることができ、海外展開を加速する絶好のチャンス。10年後に振り返ったときに、これが転換点だったと言えるようにしたい」と期待を述べた。
マルシェ・デュ・フィルム「日本の強力な産業と創造性を世界に」
フランスから来日したマルシェ・デュ・フィルムのギヨーム・エスミオル(Guillaume Esmiol)エグゼクティブディレクターは、日本が選ばれた理由について「日本は素晴らしい創造性を持つ国であり、その証拠に多くの監督、脚本家、俳優、アーティストが定期的にカンヌの公式セレクションに選ばれています」と述べ、昨年(2024年)は過去最高となる10本の日本作品が選出されたことに触れた。
同時に、「日本は非常に強力な映画産業を有しており、国際的にも非常に重要な国」と、ビジネス面での評価も強調した。

カントリー・オブ・オナーとしての具体的なプログラム内容についても言及があり、マルシェの開幕を飾る「オープニングナイト」を日本と共催することを発表。さらに、アニメーションデーで日本アニメをフィーチャーすることやジャンル映画へのフォーカス、国際連携を促す共同製作デーやプロデューサーネットワークなどを計画していることを明かした。「日本のアニメーションは非常にユニーク。この取り組みによって最高のアニメーションデーが実現できると確信しています」と期待を寄せた。
最後にエスミオル氏は、自身の母親が日本人であり個人的なルーツとしても今回の決定には特別な意味があると述べ、「日本とのコラボレーションを実現できることを非常に誇りに思います」と締めくくった。
テーマは「伝統、革新、未来へ」 JETROが概要説明
実行委員会の事務局も務めるJETROの土屋貴司デジタルマーケティング部長が、プログラムの概要(予定)とテーマについて改めて説明した。

カンファレンス:日本の実写映画やアニメの強みをアピール。
スクリーニング:最新の日本映画の上映会を実施。
プロデューサーネットワーク:海外有力プロデューサーと日本プロデューサーのビジネスマッチング企画。
アニメーションデー:アヌシー国際アニメーション映画祭との連携企画に参加。
共同製作で―:映画の国際共同製作を目的としたミーティングイベントに参加。
Goe to Cannes:制作中の作品の特別な上映会を実施。
レッドカーペットイベント:日本映画界の注目醸成。
オープニングナイト(パーティ):マルシェ・デュ・フィルムと日本で共催。

今回、日本のカントリー・オブ・オナーのテーマが「伝統、革新、未来へ (Beyond Boundaries: Tradition, Innovation, and the Future of Japanese Cinema」に決定したことを発表した。「このテーマには、日本映画の今と昔を大事にしつつも、アニメを起点に多様な表現へと広がる豊かさ、そして広大で素晴らしい未来への可能性を示すと同時に、世界の映画関係者の皆様にとって、日本の映画は常に注目すべき存在であるということを改めて認識していただきたいという思いを込めている」とテーマの意義について語った。

また、会期中に会場の至る所や広報物で使用される、富士山と桜をあしらったカントリー・オブ・オナー専用ロゴも披露された。土屋氏は「オールジャパンで取り組むことに鑑み、実行委員会の皆様、経済産業省、関係省庁、そしてマルシェ事務局の皆様と緊密に連携しながら、着実にしっかりと結果を残していきたい」と意気込みを語った。










