2025年5月18日、カンヌ国際映画祭期間中に開催された「Marché du Film」にて開催されたパネルディスカッション「Technological Constraints & Freedoms – How Does Technology Influence Storytelling? feat. Hideo Kojima & Fatih Akin(技術的制約と自由 – テクノロジーは物語にどのような影響を与えるのか?)」において、世界的なゲームクリエイターである小島秀夫氏と、映画監督であるファティ・アキン氏が登壇。
テクノロジーが物語に与える影響や、それぞれの創造的な世界における制約と自由について議論した。
業界の境界を越える巨匠たち
小島秀夫氏は、ステルスゲームを人気ジャンルに押し上げたことで広く知られ、ゲームに映画的な表現とストーリーをもたらし、世界的に有名になった。2015年にコジマプロダクションを設立し、『DEATH STRANDING』(2019年)をリリース。その続編『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』は2025年6月26日にリリース予定だ。また、『DEATH STRANDING』はA24によって映画化される予定だ。映画への愛をことあるごとに語ってきた小島氏は、念願のカンヌ映画祭への参加が叶ったと喜びをあらわにしていた。
ファティ・アキン監督は、世界的な巨匠として知られる。2004年の『愛より強く』はベルリン国際映画祭で金熊賞を受賞し、2017年の『女は二度決断する』ではダイアン・クルーガーがカンヌで最優秀女優賞を獲得、ゴールデン・グローブ賞最優秀外国語映画賞にも輝いた。今年のカンヌ国際映画祭では、最新作『Amrum』がカンヌプレミア部門に選ばれている。

映画監督が小島作品に魅せられる理由
両者は以前から親交があり、そのきっかけは小島氏がアキン氏の映画『女は二度決断する』の大ファンであったことだ。小島作品に出演するノーマン・リーダスとダイアン・クルーガーが夫婦であることから、小島氏がノーマンに映画への感動を伝え、それが巡りめぐってアキン氏に伝わり、日本での対面が実現したという。
互いの作品に対する敬意も深く、アキン氏は小島氏の作品、特にゲームのビジュアルとアイデアには「これまで見たことのない瞬間」が満ちていると絶賛、もし小島氏が映画監督であれば「最高の監督になるだろう」と述べた。一方、小島氏はアキン氏の映画、特に難民問題や家族の繋がりを描くテーマに強く心を打たれると語った。
多くの映画監督が小島氏の作品に惹かれる理由について、アキン氏は、映画監督たちが常に表現における「秘密のコード」を探しているからであり、小島氏がその秘密のコードを知っていると感じているのだという。
アキン氏も小島氏のゲームに「人形男」として出演しており、アキン氏は「ゲームのキャラクターになることはパルム・ドールを受賞するよりもはるかに価値がある」とコメントし、会場の笑いを誘った。

テクノロジーが切り拓く物語の可能性
本パネルディスカッションの主要テーマであるテクノロジーとストーリーテリングについて、両者は自身の見解を述べた。
小島氏は、ゲームが「プレイヤーがタイムラインを決定するインタラクティブなメディア」であると強調。彼自身は「ストーリーテラー」と呼ばれることが多いが、まだ「インタラクティブなストーリーテリングの完璧な成功を収めることができたと思っていない」と語る。
しかし、テクノロジーの進化は目覚ましく、建築家や心理学者など様々な専門家との協業によってゲーム開発は日々進化していると述べた。彼は「今日できないことが明日には可能になるかもしれない」と語る。

小島氏は会場の若いクリエイターたちに対し、インタラクティブなストーリーテリングの課題解決に貢献するよう呼びかけた。AIについて「効率性を高め、より創造的になるためのツールであり、恐れるべきではない」という。アキン氏もテクノロジーに対して肯定的な見解を示した。彼はすでに自身の脚本執筆プロセスでAIを文法チェックや表現の調整に利用しており、「ツールとして役立つ」と語る。テクノロジーの「ダークサイド」やリスクも認識しつつも、「機会」と「開かれた空間」として捉えているという。
アキン氏は、テクノロジーが物語や映画の制作に役立つのであれば、どんな技術でも取り入れたいという。彼は作品ごとに異なるアプローチを試みるので、テクノロジーがその探求をさらに進める手助けになるのであれば、臆することなく活用すると述べた。
異なるメディアで活躍する二人の巨匠が、テクノロジーの進化がもたらすストーリーテリングの新たな可能性と、その中に宿る普遍的な創造の力を探求する貴重な機会となった。ゲームと映画という二つの表現形式が、互いに影響し合い、未来の物語体験をどのように形作っていくか、今後の展開が大いに期待される。