ヤンマーがアニメ『未ル わたしのみらい』を製作する理由とは? CBO長屋明浩氏に聞くブランディングの核心

重機を製造する企業「ヤンマー」が全額出資をしてアニメを製作。TVアニメ『未ル わたしのみらい』が4月から放送される。同社のCBO・長屋明浩氏にアニメ製作に挑戦した意図を聞いた。

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ヤンマーがアニメ『未ル わたしのみらい』を製作する理由とは? CBO長屋明浩氏に聞くブランディングの核心
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  • 『未ル わたしのみらい』
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あのヤンマーがアニメを作ると聞いて、多くの人が驚いた。ヤン坊・マー坊といったキャラクターはいるものの、トラクターなどの重機を製造する企業とアニメ製作がすぐには結びつかない。

しかし、4月から放送開始予定のTVアニメ『未ル わたしのみらい』(以下、『未ル』)は同社が全額出資しての初のアニメ作品となる。同社の事業にとって、アニメ製作は果たしてどんな意味があるのか。

©YANMAR

企画を立ち上げたのは、同社のCBO(取締役ブランド部長)の長屋明浩氏だ。これまでトヨタ自動車の「レクサス」など国際的な製品のブランディングで実績を築いた同氏が、なぜアニメに目をつけたのか、話を聞いた。

ヤンマー長屋明浩氏。

ヤンマーの信念をアニメで伝えたい

――改めて、ヤンマーがブランディングの一環としてアニメを製作する動機はどういったものなのでしょうか。

長屋2022年にヤンマーに入社した時から、アニメ製作はひとつのアイデアとして持っていました。グローバル社会の中では、日本はアニメのイメージがものすごく強い。しかも、その人気はどんどん加速し、伸び続けています。ヤンマーはグローバル企業ですからこの推進力を使わない手はないと思っていたんです。しかし、弊社はBtoB事業が中心なので、知る人ぞ知る企業になってしまっています。ヤンマーでアニメというとヤン坊・マー坊を多くの人が思い浮かべると思いますけど、若い世代はもう知らないし、海外ではそれすらも全く知られていない状態なんです。

――『未ル』のプロジェクトに先駆けてヤン坊・マー坊のキャラクターデザインが公募で一新されました。ヤン坊・マー坊をアニメにするという方向性は検討されなかったのですか。

長屋もちろんありました。ヤン坊・マー坊が天気予報にしか出されなかった理由は色々あるようですが、ヤンマーはライフライン関連のシリアスなものを扱う会社で、あまりチャラいことはできないんです。その意味ではあの双子のキャラクターは親しみやすいけど、商品訴求には結び付きにくい。今回のアニメは、真面目にシリアスに取り組む方向性で考えていたので、ヤン坊・マー坊とは少し方向性が違うということになりました。

――『未ル』の内容は結構シリアスなんですね。

長屋そうですね。決して軽い話じゃないです。

――人と自然の対峙と調和というテーマを掲げていますね。

©YANMAR

長屋対峙と調和」です。これはヤンマーという企業のテーマなんです。今、地球がどうなっているのか未知ですよね。人類の行為も含めて対峙しているんだろうというフェーズにいるんじゃないでしょうか。

どうしてアニメにするのかということとつながりますが、結局企業のPRムービーを作って宣伝するというスタンスでは、我々が一番伝えたいと思っている若い世代の共感を得るのは難しいと思ったんです。ストレートな企業アピールって引かれちゃいますよね。だから、真面目にヤンマーが考えていること、信念みたいなものを届けた方がいいと思ったんです。

――確かに、いいことばかり言う企業アピールは見透かされますね。ところで、『未ル』の発表はLAのアニメエキスポで行われましたが、あそこを発表の場に選んだのは、グローバルに訴求するという狙いですか。

長屋私がやっているブランディングは、インクルーシブ・ブランディングと言って、要するにいかに巻き込むかということなんです。昔と異なり、上からブランドを押し付けても偉そうに見えるだけ。今はみんなが主役という時代で、共感とか共存を考えないといけません。そう考えると、その単位は世界になっていくわけです。アニメを選んだ理由もグローバルに巻き込みたいからです。世界に認められているグローバルなものって、アニメの他には日本には本当に少ないんですよ。

©YANMAR

――実際、アニメエキスポでの反響はどのくらいのものだったのですか。

長屋前年に巨大なルフィ像があった場所に、うちのロボットがいるわけですから、嫌でも目につきますね。現地で行ったパネルは大きなカンファレンスルームが満室になり200~300人くらい集まりましたが、ヤンマーを知っている人は、2,3人でしたね。ファンからすれば、新しいアニメを自分が発掘したという実感が持てたんじゃないかと思います。

――まさに巻き込みの論理で認知を拡げていけた実感があったわけですね。

長屋そうですね。社内もそれを受けて盛り上がって、その盛り上がりを外に出してというサイクルを繰り返すことで盛り上げていく、このパターンはアニメに限らず色々な領域で仕掛けています。

ブランディングに必要な内発的なエネルギー

©YANMAR

――アニメ製作を提案した時、社内の反応はどのようなものだったのですか。

長屋驚いていましたが、私が思ったよりも抵抗が少なかったです。いくつかブランディングのストラテジーとして提案したものの中で、ハイライトとしてアニメ作りを出したので、特に大きな抵抗はなかったです。

――社内でアニメ作りに対してどの程度具体的にイメージできていたかというと……。

長屋ここまでディープにやるとは思っていなかったかもしれないですね(笑)。PR用のアニメをちょっと作るくらいのイメージだったのかもしれないです。

――放送に向けて社内の雰囲気はどうなっていますか。


《杉本穂高》

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杉本穂高

映画ライター 杉本穂高

映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。

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