東京国際映画祭と並行して開催される映像コンテンツのマーケット「TIFFCOM」は、2023年にコロナ禍以降、初のリアル開催、今年は仕切り直しの2年目となった。
映画祭マーケットの役割が世界的に変化する中、今年のTIFFCOMは、昨年対比で参加者が増加、特に海外からの参加者が125%となり大幅に増えた。リアル開催ならではのセミナー企画も倍以上に増やし、3日間、多くの人が詰めかけたようだ。
TIFFCOM事業の代表を務めるユニジャパンの椎名保氏に、今年のTIFFCOMを振り返ってもらった。
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アジアからの来場者が増加
――昨年と比べて来場者が増加しています。全体的な手ごたえはいかがですか。
椎名参加者も伸びていますし、全体的に上手くいったと思います。海外からの参加者が前年比125%ということですが、これはアジアからの来場者が増えた結果です。アジア各国の海外に対する関心が高くなっていて、その中で日本市場は海外進出を考える上でも重要だと考えられているようです。様々な国でグローバル市場への意識が高くなっていることを反映しているのでしょう。
――今年はセミナーが15本もありました。こちらの方はどうでしたか。
椎名1日目から満席続きで3日目までその大盛況が続きました。初日の午前中、中国のRoad Picturesのセミナーは朝一番だったので少し不安だったのですが、ふたを開けたら満席近く、想像以上に中国市場への関心が高いことがわかりました。今回、生成AIをテーマにしたセミナーも開催しています。AIが映画産業にもたらすインパクトがどうなのか、脅威もあるが可能性もあると色々言われる中で、今まさにAIが映画製作に導入され始めている時期に、こういう企画ができたのは非常によかったと思いますね。
AIは一過性のものではなく、映画製作を永久に変えていくものになる可能性が高い、だから、今年一回やって終わりということではなく、より実用的な事例や課題などを今後も紹介していければいきたいと思っています。
――昨年に続いてタイのBL特集のセミナーがありました。
椎名去年はBLだけだったものが、今回はGL(ガールズ・ラブ)も紹介していました。去年の開催の感触が良かったようで今年もやりたいと言われ、やってもらいました。去年よりもスターが大勢登壇して華やかでしたね。タイは国として大きなブースも構えていて、大使館では親睦会も開いていたようです。日本だけでなく、各国でBLとGLのIPを積極的に紹介しているようです。その他、韓国は自国の外国映画の支援プログラムの紹介、香港は共同製作助成とカンフー映画のセミナーを開催しています。こうしてアジア各国のセミナーが揃うのも、それぞれの国々のグローバル化の意識の高まりを反映していると思います。
――国内事業社も、例えばTBSやフジテレビがグローバル戦略を発表する場としても活用されていました。国内のテレビ事業者のグローバル意識もかなり高くなってきた印象を受けます。
椎名すごく高くなっていますね。グローバル市場に打って出ていく用意があるということでしょう。今後は国際市場で積極的に戦うことになるでしょうし、TIFFCOMでグローバル戦略の発表を行うのは、パートナー探しをする意味もあるんだと思います。今年は日経新聞もセミナーに登壇し、グループ会社のテレビ東京系列局のコンテンツをまとめて海外展開する共同プロジェクトを紹介したんです。これは他局の方も注目していましたし、海外の人にも関心を持たれていたようです。
――海外からの来場者は、やはりアニメ関連のブースを訪れる人が多い印象でしたが、実際どうだったのでしょうか。
椎名TIFFCOMはフロアごとに映画、テレビ、アニメ、セミナーや商談ルームと分かれていますが、アニメのフロアに向かう人が一番多いのは確かです。これは去年から続く傾向です。
製作パートナー探しの場へと変化する映画祭マーケット
――昨年に続き、出版社が映像化権を交渉するTokyo Story Market(TSM)が開催されました。今年は参加社が2社増えて6社となりました(KADOKAWA、講談社、集英社、スクウェア・ エニックス、日本文芸社、主婦と生活社)。
椎名昨年から始めたTSMは4社のみの参加でしたが、さらに拡大しようと思って、色々な出版社に声をかけていました。11社ほどが興味を示してくれていましたけど、マンパワー不足もあって増加数は2社となりました。他の出版社の方も関心は高いようで、当日会場に視察に来られていましたね。
――総予算の60%以上を確保している企画が、残りの資金調達を募るTokyo Gap-Financing Market(TGFM)の方はいかがでしたでしょうか。今年で5回目となり定着してきたでしょうか。
椎名こういうプログラムの必要性がやっと浸透してきたという感じですね。ヨーロッパ映画は国をまたいだ共同製作が当たり前ですから、ファイナンスを募集する案件はひっきりなしにあるわけです。一方でアジアはこれからといった感じで手探りの状態が続いていました。もう何年かしたら、アジアでも国際共同製作が当たり前になっていくでしょうから、こういうファイナンスを探すマーケットの存在は重要性が増していくはずです。
――近年、国際映画祭のマーケットの傾向として、コンテンツの売買よりも製作のパートナー探しが増えていると言われますが、東京でもその動きが目立ってきていますか。
椎名昨年はバイヤーとプロデューサーで概ね6:4くらいだったと思うのですが、TGFMのブースを見てこのブースは何か?と質問されるケースは去年よりも多かったです。興味を持ってくれる人は確実に増えています。コロナ禍を経て、売買はオンラインでもできるようになってきていて、試写もネットで見る習慣になっていますからね。日本はこれまで国内のマーケットで完結する企画が多かったけれど、今はどの会社も危機感を持って海外市場を開こうという意欲を持つようになってきました。国際共同製作への興味も増えているのですが、どこから始めればいいかわからない人も多いと思いますので、TGFMをもっと活用してほしいです。
――今年は、東京国際映画祭の方では、オープニングを飾った『十一人の賊軍』や、ウィメンズ・エンパワーメント部門の『徒花-ADABANA-』など、TGFMでに過去参加した作品がいくつか選ばれていますね。TGFMの成果が目に見えるようになってきたと思います。
椎名そうですね。世界の映画祭でも企画マーケットに出して制作、完成作品がその映画祭でお披露目というパターンはあります。東京でもそういう流れが実現できるようになってきましたし、TGFMにも参加し、ベネチア国際映画祭に出品した『不思議の国のシドニ』など、他の映画祭で注目される作品も出てくるようになりました。
TGFMとTSMと合わせて500件を超えるミーティングがあったようです。TSMは6社、TGFMは15企画から20企画に増えていて、1件あたりの平均ミーティング数は横ばいでしたから、全体的に商談数はかなり増えています。
――TGFMではイタリア特集として、5企画イタリアからエントリーしていました。これは日本とイタリアで締結した映画共同製作協定が今年発行されたことと連動しているのですね。
椎名そうです。日本のプロデューサーからイタリアのプロデューサーに会いたいとか制作会社を紹介してほしいという声がかなりありました。
この共同製作協定によって、日本とイタリアの双方で自国の作品として扱われるようになるので、それぞれの国のサポートにアクセスできるようになります。
――ということは、この枠組みを用いればイタリアの助成金を日本のプロダクションも利用可能になると?
椎名そうです。この協定に基づく承認を受けた企画は、日本とイタリア両国の特典や助成金の資格を享受できるようになります。そういうものにもアクセス可能になりました。さらに、イタリアはEUの一部ですし、37ヵ国と製作協定を結んでいるので、この協定に基づいた作品は、EUやイタリアと協定を結んでいる他国も共同製作に加わりやすく、それらの助成金などにもアクセスすることも可能になるわけです。しかも、日本で上映する時は日本映画として、イタリアではイタリア映画として扱ってもらえる、これは非常に大きいことです。国内の制作者からも、イタリアのプロデューサーや制作会社を紹介してほしいという問い合わせを何件も受けましたね。
今後の課題、展望は
――来年以降の展望を教えてください。
椎名今年はタイが国を挙げて大きなパビリオンブースをつくりました。台湾、中国や韓国からも去年以上に出展したいと言われていたのですが、会場スペースの関係で全てに応えきれないのが悩ましいところです。それらの国々は、来年はもっと広いスペースを確保したいと言うわけですが、そのためにはどうすべきか、難しいです。
――この手のコンベンションをやるとなると、東京では会場が限られてきますね。
椎名かといって、映画祭と離れた場所でやるのもあまり都合がよくないわけです。幕張や国際展示場は遠いですから。ここはなかなか難しいところですね。
――それだけ、日本の市場の重要さが認識されていることの表れとも言えるでしょうか。
椎名一種の嬉しい悲鳴ではあります。東京で開かれるマーケットの魅力というのは間違いなくあるのだと思っています。