新連載:『日中アニメトレンドウォッチ👀🔍』の第1章。中国四川省出身で現在は日本の広告代理店でプランナーを務めるEIKYOさんをゲストライターに迎え、中国起点でアニメ市場のトレンドと変遷を辿っていく。第1章は序章として中国国産アニメーションの中国国内での歴史を大まかに振り返っていく。
2010年代前半:中国国産アニメーション映画復活の声が上がったワケ
2010年前後から「中国国産アニメーション映画の復活」が囁かれはじめた。その背景の一つには、2008年に制作が始動したオリジナル劇場長編アニメーション『大鱼海棠(紅き大魚の伝説)』がある。当時の中国アニメーションには珍しく、洗練された美術設定資料が公開され、業界内で大きな話題となった。また、「映像もストーリーも完成度が高い、画期的な作品」と評された『魁拔(クィーバ)』(2011)も劇場公開されるなど、希望をもたらす出来事が相次いでいた。
しかし、『魁拔(クィーバ)』は業界内では大きな話題となったものの、興行は振るわず350万元(約6,230万円)止まりで、その後2013~14年に公開された続編も含めて計7,000万元(約12.4億円)の赤字を出した。『紅き大魚の伝説』は資金集めが難航したことで劇場公開まで長い時間を要し、2010年代前半時点では、中国国産アニメーション映画について「復活」と評するには時期尚早だったようだ。
1960年代:中国アニメーションをけん引した「上海美術映画製作所」
ここで「誕生」ではなく、「復活」という言葉が使われたのはなぜなのだろうか?
かつて「上海美術映画製作所」という中国国営の老舗スタジオがあった。国営メディア企業の制作スタジオとして設立された同社は、1960年代から政府の出資により中国伝統の絵画技法をいかしたアニメーション表現を模索し、水墨画のアニメーション映画『小蝌蚪找妈妈(おたまじゃくしがお母さんを探す)』(1960)や、京劇のテイストをとり入れ、海外映画祭に出品された『大闹天宫(大暴れ孫悟空)』(1961-1964)など、話題作を数多く制作していた。
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しかし「上海美術映画製作所」以降、中国国産アニメーションは長年にわたり、映画・テレビシリーズを問わず低迷期が続いていた。特に2000年に入り、一部企業がアニメーション制作関連の補助金を目当てに市場へ参入。その補助金をはるかに下回る原価で制作された低クオリティな作品が大量生産されたことで業界全体のイメージダウンをもたらしてしまい、国産アニメーションは「駄作」の代名詞となった。これにより、中国の国産アニメーションが多くの人に敬遠される状況は2010年代前半まで続いた。
2010年代後半:悪循環を断ち切る『西遊記 ヒーロー・イズ・バック』『ナタ~魔童降臨~』の成功
だがこの状況は2015年から少しずつ変わりつつある。停滞していた国産アニメーション市場の悪循環を打ち破ったのは、『西游记之大圣归来(西遊記 ヒーロー・イズ・バック)』(2015)の成功である。