漫画家必携ツール「クリスタ」のセルシスが事業の選択と集中で新たな成長ステージへ【決算から映像業界を読み解く】#70

ペイントソフト「CLIP STUDIO PAINT(クリスタ)」やアニメーション制作ソフト「RETAS STUDIO」を提供しているセルシスが勢いに乗っている。

ビジネス 決算
漫画家必携ツール「クリスタ」のセルシスが事業の選択と集中で新たな成長ステージへ【決算から映像業界を読み解く】#70
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ペイントソフト「CLIP STUDIO PAINT(クリスタ)」やアニメーション制作ソフト「RETAS STUDIO」を提供しているセルシスが勢いに乗っている。

2024年9月18日にスタンダード市場からプライム市場への区分変更を発表。翌19日の株価は一時ストップ高となり、年初来高値を更新した。業績も好調そのものだ。2023年8月1日に自動車業界向けソフトウェアを提供するUI/UX事業を加賀FEIに譲渡。この事業は赤字に陥っていたため、選択と集中を進めたことで利益率が飛躍的に高まっている。

主力サービスである「クリスタ」の改良を重ねることで収益基盤を拡大できる余地はあるものの、次の事業を作れるかどうかが中長期的な成長のカギを握っている。

前期で大胆な構造改革を実施

セルシスの2024年12月期第2四半期累計(2024年1月1日~2024年6月30日)の売上高は、前年同期間比4.5%減の40億6,000万円、営業利益は同51.6%増の11億500万円だった。営業利益率は17.1%から27.2%へと、実に10ポイント近く高まっている。

決算短信より筆者作成

セルシスは第2四半期の決算発表後に通期業績の上方修正を発表した。売上高は予想比3.7%増の80億900万円、営業利益は同20.1%増の19億8,800億円にそれぞれ引き上げている。予想を上回る大幅な増益となっているのだ。この数字に修正してもなお、上半期の営業利益は通期予想の55.6%に達している。10月4日の時点でセルシスのPERは28倍を超えている。これほど株価に勢いがあるのは、再度の上方修正に期待されているからではないだろうか。

増益の要因は2つある。UI/UX事業からの撤退と「クリスタ」の好調だ。UI/UX事業は2023年12月期に7,900万円の営業損失を計上している。セルシスは2019年にSocionext Embedded Software Austria GmbHの株式を取得。この会社は自動車業界向けHMIソリューションを提供しており、クリエイター向けソフトウェアへの依存度が強い事業展開から多角化に向けて歩き出した。しかし、黒字化の道は厳しいものだった。2019年12月期は4億3,600万円の営業損失を出しているが、のれんの償却費は3億5,000万円。償却費を除いても黒字化できていなかったのだ。

更に新型コロナウイルス感染拡大が深刻化すると、世界規模で自動車の生産台数が低下。設備投資への意欲も減退し、大型買収を決めた後のUI/UX事業は一度も通期黒字化を果たすことができなかった。セルシスは2023年12月期に純利益が前期の4割減となる6億2,600万円となったが、この期にUI/UX事業譲渡に係る特別損失9億1,400万円を計上した影響が大きい。

前期では痛みを伴う構造改革を行ったが、今期は改革を断行した成果が如実に表れている。

海外のクリエイターからも注目される存在に

「CLIP STUDIO PAINT(クリスタ)」は2012年に発売を開始した、ペイントやマンガ制作に特化したソフトだ。Adobeが席巻していたペイントソフト産業に風穴をあけた。「クリスタ」は「Illustrator(イラストレーター)」や「Photoshop(フォトショップ)」よりも使いやすく、立体感のある人物や動物、アニメ・マンガ寄りのイラストを描くのに向いている。

MUGENUPがイラストレーター2,661人を調査した「イラストレーター白書 2019」では、使用しているソフトとして「クリスタ」はトップを獲得。全体の78.5%が使用しており、2位「フォトショップ」の37.1%を大きく引き離している。クリエイターの「クリスタ」への支持は厚い

イラストレーターの制作環境

「イラストレーター白書」より

日本のみならず、世界中のクリエイターに親しまれているのも特徴だ。このソフトは11言語に対応しているが、英語のユーザーが日本語を上回っている。英語とスペイン語、韓国語、ドイツ語、フランス語、中国語(繫体字)がユーザー全体の3/4を占めているのだ。


《不破聡》

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