映像クリエイターの祭典「VIDEOGRAPHERS TOKYO 2024」が開催。今年度は「OUT OF FRAME」をテーマに映像制作者を広く捉え、新たなヒントを提供する場として開催され、創作に関する様々なテーマのシンポジウムが行われた。その中から、今回は映画監督の長久允氏が登壇した「世界に届く、映画/映像の作り方」のレポートをお届けする。

映画の夢を諦めきれず、有給消化で映画製作

長久監督は、映画学校で挫折を体験。社会人で営業職として入社し、その後CMプランナーとなった。しかし、映画の夢を諦めきれずに2017年、有給休暇を利用して短編映画『そうして私たちはプールに金魚を、』を制作。サンダンス映画祭で日本人として初グランプリを受賞する快挙を成し遂げた。そこから映画監督としてのキャリアが始まり、2019年に長編映画『WE ARE LITTLE ZOMBIES』を監督する。近年では、Apple TV+で配信されているA24製作のドラマ『サニー』で監督を務めるなど国際的なキャリアを歩んでいる。

長久監督は、『そうして私たちはプールに金魚を、』で賞を獲れると全く思っていなかったと語る。ただただ純粋に、人生一回きりの自由な制作をやろうと思っていたそうで、それが既存の「映画のルールに縛られていない」と評価されることにつながったとのこと。
続いて制作した『WE ARE LITTLE ZOMBIES』は、海外でも配給がつくなど世界でも売れたと作品になったという。本作は脚本が出来上がった後、音コンテを作り、絵コンテを描き、ロケハン時にビデオコンテを作成したそうだ。アングルは意味を産むものなので、感覚では決めていないのだと語る。もちろん、撮影現場の偶然の奇蹟を利用することはあるが、準備は怠らないタイプだとのこと。
長久監督は、元々プランナーとして映像監督と多く関わってきた経験がある。その経験から、企画はディテールまで作り込んだ上で持っていく癖がつき、現状のコンテ作りに活かされているようだ。
2022年には、GUCCIの広告用短編映画『Kaguya By Gucci』を監督。この作品の監督候補は、長久監督と香港のウォン・カーウァイだったそうで、独特の映像センスを持っていることが決め手になったとのこと。そのため、広告作品であっても自身の持ち味を前面に出して、チープさやファンタジックさを入れていったという。
長久監督の作る映像は確かに個性的だ。だが本人は尖りたいと思ってやっていないという。監督としてのキャリアのスタートが30歳を超えてからで、『そうして私たちはプールに金魚を、』が評価された後だったこともあって、表現を丸くさせられる体験をしなかったからではないかと自己分析しているようだ。自身の美意識に引け目を感じることはないそうで、「ちょいださいくらい」が好きなのだという。
A24のクオリティへのこだわり
長久監督は、米国での高い評価がきっかけで、大手エージェント会社CAAに所属している。そこからオファーのあった仕事が、A24製作のApple TV+オリジナルドラマ『サニー』だ。本作は、日本が舞台の作品で米国のチームを中心に制作をしていたが、日本人監督を一人起用しようということになり長久監督に白羽の矢が立ったそうだ。