映像クリエイター向けの事業を展開するVook主催のオフラインイベント「VIDEOGRAPHERS TOKYO 2024」が7月9日(火)・10日(水)に都内で開催された。
本イベントでは多様なテーマでトークセッションが催され、会場には多くの映像クリエイターが訪れ賑わっていた。今回は、その中から、「ドキュメンタリー、「お笑い」に挑む。『M-1 アナザーストーリー』が拡げる可能性」の様子をレポートする。
日本一の若手漫才師を決める人気番組『M-1グランプリ(以下、M-1)』。その舞台裏を、長きに渡る密着取材と膨大な映像素材からの編集で描く『M-1 アナザーストーリー(以下、M-1アナザー)』が昨今注目を集めている。番組をつくり続けてきたクリエイターたちはどのようにこのドキュメンタリーを作り続けているのか。その裏側と試行錯誤について語る。
『M-1 アナザーストーリー』が目指しているもの

まずは、とろサーモンが優勝した2017年から7年間、M-1チャンピオンが決まった瞬間からの密着取材を担当しているKBC MoooVのプロデューサー・坪内大輔氏がM-1アナザーの歴史を説明した。
とろサーモンが受賞した2017年は、M-1アナザーではなく『奇跡のM-1アフター~あの日、人生が変わった~』というタイトルで番組を放送。当初はM-1チャンピオンを撮影しても面白くなるのか? という疑問から番組は始まったのだという。M-1本番は12月3日で、12月30日が本番組の放送日。この年の準優勝は和牛だった。とろサーモンの密着取材の様子をまとめたものに加え、「もう一つのアフターストーリー」として和牛とそのほか敗退コンビが「厄払いの旅」に出る企画もあり、『M-1 アナザーストーリー』とは毛色の違うバラエティ要素の強い仕上がりになっていた。この放送後、各方面から“チャンピオンへの密着が良かった!”との声があがり、そこからチャンピオンに特化する方針に切り替わったのだという。
翌年、2018年のチャンピオンは史上最年少の霜降り明星。芸歴も浅く、とろサーモンと比べると過去素材が少なかった。そんな霜降り明星だけでは番組が組み切れないということで、決勝に残ったコンビたちにフォーカスするような群像劇の形をとることにした。
2019年からは救世主としてABCテレビの下山航平氏、ドキュメンタリー作家の浦田拓氏が参加する形に。
下山氏はバラエティ局へ異動する前、ABCテレビのスポーツ局で阪神タイガースの記者や熱闘甲子園に携わっていた経験があり、ドキュメンタリー編集の魅力を強く感じていたのだという。また、M-1アナザーだけでなく、3年前からはM-1グランプリの総合演出も担当している。そんな下山氏が、「報道ステーション」などアスリートのドキュメンタリー企画の制作経験が強い浦田氏にも声をかけた。

2人が初めて参加した2019年は、下山氏と浦田氏が編集を担当し坪内氏が取材に回る体制に。2019年からは既存素材も活かしていく方針となったが、その年優勝したミルクボーイに焦点を当てると、非常にドラマティックなものができあがった。全体の完成度がとても高く、彼らの思い出の場所を訪れたり、本人たちにも様々なエピソードを聞いたりしながら取材を進めていったそうだ。
長時間密着のリアル
「どのように長時間の密着を実現しているのか?」というテーマに移り、下山氏が令和ロマン優勝年(2023年)の密着体制を説明してくれた。

昨年のカメラ台数は185台、437時間にわたって密着取材を行った。437時間という膨大なデータには予選のネタカメラの寄り引きから決勝後のチャンピオンの密着までが含まれている。M-1のファイナリストが決まったら、特殊部隊(AD)が過去にそのコンビが一瞬でも映っている映像を洗いざらい抜き出す作業をして、コンビごとの素材ファイルをまとめていく。

3人体制初年度の2019年は全組密着をしていなかったのだという。たまたま聞いた下山氏の先輩からの「(優勝の可能性がありそうと噂になっているので)ミルクボーイの素材を撮っておいたほうがいいのでは?」という一声から、行きつけのジムや美容院などを事前に撮影し、事前・事後密着がうまくドキュメンタリー全体にはまった。それ以降は誰が優勝してもいいように予選の日以外(家やプライベートの別の取材まで)の密着を強化する形になったのだという。

昨年度の優勝者・令和ロマンのM-1優勝後の予定を坪内氏が共有してくれた。