TBSテレビ佐井大紀がドラマプロデューサーでありながらドキュメンタリーを作り続ける理由。「人間や社会の営みは反復する」

佐井大紀監督のドキュメンタリー映画『方舟にのって~イエスの方舟45年目の真実』が7月6日より公開される。『Eye Love You』などのテレビドラマのプロデューサーとしても活動する傍ら、なぜ佐井氏はドキュメンタリー制作を行うのか?話を聞いた。

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TBSテレビ佐井大紀がドラマプロデューサーでありながらドキュメンタリーを作り続ける理由。「人間や社会の営みは反復する」
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  • 『方舟にのって~イエスの方舟45年目の真実~』
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  • 『方舟にのって~イエスの方舟45年目の真実~』

TBSテレビ所属の気鋭のドキュメンタリー作家、佐井大紀監督の最新作『方舟にのって~イエスの方舟45年目の真実』が7月6日より公開される。

佐井監督はTBSテレビのドラマ制作部に所属し、『Eye Love You』などのテレビドラマのプロデューサーとしても活動する傍ら、ドキュメンタリー制作を行う異色の人物だ。TBSの豊富なアーカイブを駆使した制作スタイルで、過去と今を巧みに接続する作品を制作している。

最新作は80年代にマスコミによって糾弾されたイエスの方舟の今を捉えた『方舟にのって イエスの方舟45年目の真実』だ。「イエスの方舟」の主宰者・千石剛賢が死去した今も女性たちが共同生活を営む実態に密着している。

佐井監督に本作について、そしてドラマプロデューサーでありながらドキュメンタリーも作り続ける動機について話を聞いた。

佐井大紀監督。

※期間限定全体公開中。7月11日(木)から会員限定コンテンツとなります。会員登録は右上の黒いバーから。


何かを信じる人は強い

――佐井さんは、昭和の時代に題材を求めることが多いですね。

人間や社会の営みって反復すると思うんです。シェイクスピアのような古典に感動できるのも普遍性があるからだろうし、昭和に起きた出来事も、今や未来につながるものであるはずなので、そういう縦軸を見出せないかと過去の事件にこだわっているところがあります。

――『方舟にのって』は80年代に話題となったイエスの方舟が題材ですが、この団体に注目したきっかけはなんだったのですか。

安倍首相の襲撃事件があったことです。宗教が個人に及ぼすものは何か考えたんですが、おそらく統一教会そのものを取材しても本質が見えない気がしたんです。むしろ、宗教なのかどうかわからない人たちを取材することで、宗教の本質が見えやすいんじゃないかと考えました。

イエスの方舟を知ったのは、1985年のTBSドラマ『イエスの方舟』(ビートたけし主演)でした。たけしさんが千石剛賢さんを演じていて、彼の半生と、マスコミに騒がれた渦中を通して、千石さんが女性たちを献身的に救う存在として描かれているんです。

――85年の時点でそういう目線の作品が存在したんですね。

そうなんです。当時、伊丹十三や今村昌平、大島渚などもイエスの方舟を映画化しようとしていたらしいんです。どれも実現しなかったわけですけど、今回、取材を通して、確かに伊丹監督が好きそうだなと思いました。

――どんなところに伊丹映画っぽさを感じたんですか。

伊丹監督は、女性たちの生活をすごく丁寧に取材して掘り下げるんじゃないかと。伊丹監督は、お葬式やラーメン、税金など、生活に密接に関わるものに知られていない情報を乗せるのがすごく上手いので、そういう感覚を宗教でやったんじゃないかと思います。

――佐井さんの作品も彼女たちの生活感がしっかりと映されていますね。イエスの方舟は、地元の福岡では現在、どのように認識されているのでしょうか。ある程度、地元に根差しているようにも見えました。

いまだに怪しいのではと言われることはあるようですが、中州に「シオンの娘」というお店(クラブ)があることは多くの人に認識されていて、そんなに煙たがられるわけでもなく、共生できているんだと思います。40年くらい通い続けている人もいますし、遠方からはるばる通っている人もいるぐらいです。ショーパブのようなんですけど、もっと家庭的な感じで、女性たちはお酒は飲まず、出てくる料理も家庭料理みたいな感じなんです。実家に帰ってきたみたいな、不思議な落ち着きがあるんですよ。

――宗教とは何かという問いがはじめにあったとのことでしたが、その問いの答えは見出せましたか。

やはり、何かを信じて生きる人は強いということですね。そういう信じる強さは色々なことに言えて、例えば復讐に燃える人は、絶対に殺すと信じて生きているし、『タイタニック』のレオナルド・ディカプリオは愛を信じているから強い。だからこそ、人を強く信じさせる宗教は怖いとも思います。彼女たちが45年間変わらずに生活を送っていけるのは、信じる力ゆえですから。

――しかし、イエスの方舟が平和なコミュニティを築けているのも面白いところです。マスメディアはかつて危険な存在だとバッシングしたわけですけど。

彼女たちが幸せそうに過ごしている一方で家族を奪われたと感じている人もいるので、そういう人からすると危険な存在にも見えるんだと思うんです。編集であまり色濃くしませんでしたが、喪失感を抱えている家族もいるでしょうし、単純に良い団体だと言ってしまっていいのかという迷いはあります。彼女たちの信じる力が強いからこそ、最後までそのことは忘れずに作ろうと思っていました。

――その辺りは編集で葛藤した部分ですか。

そうですね。僕も取材し終わった直後は、本人たちが幸せだし良い団体かもなと思っていたんですが、家族にとってはどうだったのかと考えてしまいます。もし、自分の妻がイエスの方舟に入ると言ったら、多分戸惑うと思うんです。そういう感覚は忘れないように編集しながら考えていました。

なぜドラマプロデューサーがドキュメンタリーを作るのか

――『方舟にのって』では福岡まで取材に行っていますけど、信頼関係を築くためにどういうプロセスを踏んだのですか。

いきなり電話して取材させてほしいではなく、まず名乗らずにお店に通い、仲良くなってから取材の交渉をしました。休日を使って、色々時間を調整しながらやっています。

――佐井さんは、ドラマのプロデューサーでもありますからお忙しいと思うのですが、なぜドキュメンタリーの企画を出そうと思ったのですか。

その時入社3年目くらいで、僕はまだADとして働いていましたが、全く仕事ができない時期でした。だから、何か企画を出さないと存在価値がないなと思っていたんです。その時はドキュメンタリーに固執していなかったので、朗読劇とかラジオドラマの原作を書いたりもしていました。そんな中、社内でドキュメンタリーの企画募集があって、『日の丸~寺山修司40年目の挑発~』の企画が通ったんです。まずは、深夜の『ドキュメンタリー「解放区」』という番組で放送し、映画祭で上映され、配給も決まり、ドキュメンタリーを作るようになっていきました。

――なかなか大変なスケジュールですね。実際、ドキュメンタリーを作るようになって、ドラマの制作に活かせる学びもありますか。

あると思います。やはり登場人物の掘り下げとか、役者との向き合い方にも変化がありますね。ドラマを作る時にもたくさんの取材が必要です。例えば『Eye Love You』ではチョコレート作りが出てきますが、美しいチョコレートを作っているパティシエとか、環境に優しいチョコレートを作っている人を取材するし、チョコレート監修も入れるわけです。

ドラマ作りもそうやってディテールを詰めていくものですから、取材力って大事なんです。その基礎能力はついたと思いますし、人間の深い部分を見ると、脚本作りの時にも役立ってきますね。

――そういう意味ではドラマとドキュメンタリー作りに大きな差異はないんですね。

差異があると言う人もいますが、本当はどっちも丁寧に作っていくと重なってくると思います。

TBSの柔軟な社風

――テレビのドキュメンタリーの場合、放送前提なのでまず企画書を出すわけですよね。そこである程度どんな番組になるか決めないといけないと思うんですけど、事前にどの程度構成を決めているのですか。

その場で会話していく中で見えてくるものを撮りたいので、あまり事前に決めていませんでした。でも、いざ編集するとなった段階でどう構成すべきか悩み、彼女たちのバックボーンをもっと知らないといけないとか、色々後から気になるところが出てきて、追加取材させてもらいながらの作業になってしまいました。そういう意味ではもっと事前に決めておけばよかったと少し後悔しましたが。『日の丸』も『カリスマ~国葬・拳銃・宗教~』も企画書とはほぼ別物の作品になっています。

――企画書と全然別物でも、放送・公開されるんですね。

そこは良い組織だなと思います。『方舟にのって』も企画段階では、具体よりもどんな人たちなのか知りたいという気持ちが先行していましたから。

――佐井さんはそもそも、ドラマ制作部の方なのにドキュメンタリー作りが許されているのもそういう組織の柔軟性の表れなんでしょうか。でも、こういうことは本来もっとあっていいはずですよね。

そうですね。本来もっとあって然るべきだと思います。なので、若い人たちが僕の作品を見てくれたり、ドキュメンタリーの企画を出してくれているんですけど、すごく嬉しいし心強いです。

――最近では、レトロスペクティブ映画祭の企画もされるなど、さらに活動を拡げていますね。

『日の丸』を作った時に、こういう昔の作品をもっと観たいという声をいただいたのと、フィルムはなるべく早くデジタル化しないとどんどん劣化していくので、映画祭を企画しました。80年代、90年代に一度デジタル化されていたんですが、当時の技術では低画質です。今のAI技術でノイズを除去したりして、さらに綺麗な状態にする作業をしています。

――今後、挑戦したいことはありますか。

ドキュメンタリーで撮ってみたいのは、音楽アーティストですね。表現者ってやっぱり、社会に対して違和感とか生きづらさを感じているから表現するのだと思うので。現代のアーティストも昔の人もどっちも取り上げてみたいです。

『方舟にのって イエスの方舟45年目の真実』

https://hakobune-movie.jp/

7月6日(土)ポレポレ東中野ほか全国順次公開

監督 佐井大紀
企画・エグゼクティブプロデューサー 大久保 竜
チーフプロデューサー 能島一人   プロデューサー 津村有紀 
クリエイティブプロデューサー 松木大輔 
撮影 小山田宏彰 末永 剛  ドローン撮影  宮崎 亮
編集 佐井大紀 五十嵐剛輝  MA 的池将
製作:TBSテレビ 配給:KICCORIT 配給協力:Playtime
©TBS
2024年/日本/69分/ステレオ/ 16:9

《Branc編集部》

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