『デデデデ』美術監督は育児とアニメの仕事をどう両立させたのか。「自分の生活を大事にする」チーム作りの大切さ

映画『デデデデ』の後章が全国公開中だ。本作の制作を手掛けた「Production +h」では子育てと仕事を両立できる工夫がなされていたそう。アニメの仕事は長時間に渡ることが多い中、会社としてどうサポートしたのか?プラスエイチ代表の本多史典氏と美術監督の西村美香氏に聞いた。

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『デデデデ』美術監督は育児とアニメの仕事をどう両立させたのか。「自分の生活を大事にする」チーム作りの大切さ
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  • 『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』
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浅野いにお原作の映画『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション(以下、デデデデ)』の後章が5月24日(金)より公開された。

全12巻、緻密な背景作画による物語を前後章の2部作として公開する大型企画である本作を制作したのは、2020年に誕生したProduction +h(以下、プラスエイチ)だ。

本作の美術監督を担当した西村美香氏は、昨年のIMARTで双子の育児をしながら、制作に参加したことを明かしていた。


アニメの仕事は長時間に渡ることが多い中、子育てと仕事をいかに両立させたのか、会社としてそれをどうサポートしたのか、プラスエイチ代表の本多史典氏と美術監督の西村氏に聞いた。

美術監督の西村氏、Production +h代表の本多氏。

子どものために仕事を諦めたくなかった

――西村さんは本作の美術で、どんな点にこだわりましたか。

西村浅野先生がマンガを描かれた時に使われた写真、資料、原作マンガの絵もあり、ワンカットに対して何パターンも参考がある中、どうにか統一感を持たせて、かつ浅野先生の世界を崩さないように作ることを目指しました。今回は、海外の方にもかなりの数を描いてもらいましたが、日本が舞台の作品ですから、看板や小物などは確実にこちらで目を通して、美術監督補佐の人たちに絵の元になる設計図(原図)にしっかりと指示を入れて、海外の方に渡していました。それを繰り返しているうちに、だんだん足並みがそろってきて、最後の方には私たちの想像以上のクオリティを保つことができました。

――背景は全部デジタルですか。

西村デジタルですが、そのために用意した素材、例えば壁の汚れや地面などは私が手描きで用意したものもたくさんあります。実際に浅野先生がやられている手法もお聞きして、それに準じて写真を加工して手描きのテクスチャを載せたりなどしています。

――本作を観ると美術の仕事量はかなり多かったのではと思います。これを子育てしながらやるのは大変だと思いますが、西村さんにオファーをされたのは本多さんですか。

本多そうですね。西村さんが浅野いにお先生のファンだということで。誰よりも先生の作品を知っている美術監督なので、これ以上の適任はいないだろうと思いました。キャリアも素晴らしいですし、僕がProduction I.Gの新人時代から知っていたのもあります。

西村でもこれまで仕事で一緒になることはなくて。今回は私の親友から『デデデデ』の企画が動いていると教えてもらい、大ファンなので絶対参加したいと思っていました。その後、日を改めてオファーしていただきました。

――どのように仕事と育児を両立されたのでしょうか。

西村ちょうど0歳児を保育園に預けて育休から復帰しようかなと考えているタイミングでこのオファーをいただきました。その時点で絶対にご迷惑をおかけすることはわかっていたので、正直にその時の状態をお話ししました。本多さんもちょうどお子さんが保育園に行かれている時期で、子育てに理解を示していただけて、会社としてどう支えていけるか一緒に考えましょうと言ってくださって、参加することになったんです。双子が熱を出したりすると一週間のうち何日かは絶対に外れないといけないことは予測できていたので、自分と同じくらい判断ができる美術監督補佐を何人か探してもらい、チームを作ってやっていきたいと最初にお話しました。

――やはりアニメ制作をしながら子育てをするのは、一般的には非常に難しいものでしょうか。

西村みんな作るのが好きだから、どうしても生活を削ってでもやってしまうんですよね。私も子どもを生む前は、良いものを作りたいので、それこそ1日に10時間から15時間ぐらい仕事してしまっていました。でも、子どもが生まれてからは実際、6時間から8時間くらいしか働けないですね。

周りにも、子育てが始まると仕事をセーブするか辞めてしまう人が圧倒的に多いです。子育てが落ち着いたら復帰する人はいるんですけど。実際、どう考えても時間が足りないですし、「産休が明けてすぐに美術監督やっています」と100人に言えば、100人驚くみたいな感じです。でも、子どもを理由に大好きな作品の仕事を断るのだけはしたくなかったんです

――今回それが実現できたのは、本多さんのご理解とスタジオのサポートもあってのことだと思いますが、具体的にどんなサポートをされたのですか。

本多特別何かやったわけではなく、働きやすいようにリモートワークをメインにするとか、それに対応できるスタッフを充実させるとかですね。今回の場合、美術スタジオに依頼したのではなく、西村さんをはじめフリーのスタッフを集めて美術チームを作ったのでカスタマイズしやすく、西村さんが自由に仕事しやすい形を組めたのが良かったんだと思います。

西村補足すると、フリーランスは単価契約が多いですが、今回は安定して仕事できる環境を作りたいので、固定給という形式にしてもらいました。それは本多さんのご判断でそうしていただけたのですが、こういう環境自体が珍しいので、本当に特別だったと思います。

――美術監督補佐を置くのは、通常のアニメ制作では珍しいでしょうか。

西村美術監督補佐という仕事自体の理解があまり進んでいない気がします。子どもを産む前、私も美術監督補佐をやっていて、それがどれだけ重要な役割かを知っていたので、今まで自分が担ってきた役割を誰かにやってほしかったんです。今回、美術監督補佐は3名、美術監督をやることが出来るレベルの方が集まってくださって、この3人がいなかったら絶対に終わらなかったですね。それくらい大きな役割です。私と同じくらいの判断権限を持ってもらって仕事してもらったんですが、これもかなり稀なことで、人材を確保するのが難しい中、よくこのチームが集まってくれたなと思います。

――今回の美術チームには、西村さんの他にも子育て中の方がいらっしゃったんですよね。

西村チームとしては補佐3名とデザイン面で関わってくれた方と私という形でした。そうですね。デザイン面で関わってくれた方がいて、チームとしては補佐3名とその方と私という形でした。このデザイン面で支えてくれた方は制作中に妊娠がわかって出産、さらに出産後に戻ってきてくれたんです。補佐の1人も小学生の子どもがいて、そういう環境でもお互いに助け合いながらやればできると、この作品を通して証明したかったので、本当に出来て良かったと思います。ただ、それを支えてくれる周りの方々への感謝を絶対に忘れてはいけないと思っています。

人それぞれに合った働き方ができる人員配置をするのが大切

――『デデデデ』は2部作の劇場アニメという大型企画ですが、作品のクオリティとスタッフのワークライフバランスをどう取るべきとお考えですか。

本多人それぞれの働き方があると思うんです。どうしても、今はこの時間しか働けないという人もいれば、めちゃくちゃ働きたい人もいる。だから、働けない人を排除するんじゃなくて、少ない時間しか働けない人でも働ける仕組みを作って適正な人員配置をしていくのが重要だと思います。そのためには、予算はこれくらい必要だと見積もりも緻密にやってクライアントと交渉しています。

――そこを考慮すると、予算やスケジュール組みが難しくなる面はやはりありますか。


《杉本穂高》

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杉本穂高

映画ライター 杉本穂高

映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。

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