アニメ制作者たちが語る、子育ての苦労と楽しさ。託児スペースつきのアニメ会社の話も【IMART2023】

現役アニメ制作者たちが語る、アニメ業界の子育て事情とは?リモートワークや、育児と仕事を両立するチーム作りに取り組み、大変な子育てを乗り切っている。

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アニメ制作者たちが語る、子育ての苦労と楽しさ。託児スペースつきのアニメ会社の話も【IMART2023】
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Image by pikisuperstar on Freepik

マンガ・アニメーションのボーダーレス・カンファレンス「IMART2023」が、11月24日から26日の日程で開催された。

IMARTとは、「マンガとアニメーションの未来を作る」ことを目標に、両業界の実務家や先進的な取り組みをしている方をスピーカーとして招くトークセッションを中心に構成される。マンガとアニメの業界交流と知見の共有をはかり、急速に変化していく業界を多角的に議論する場だ。

本稿では、24日14時から行われた「アニメのお仕事と家事育児」のレポートをお届けする。増え続ける需要と求められるクオリティの高まり、労働環境の問題も含めて人材不足が叫ばれるアニメ業界。仕事と家庭をいかに両立させていくかは、業界全体の大きな課題だ。このセッションでは、子育てをしながらアニメ制作に携わる3人が集まり、アニメ業界ならではの仕事と子育ての両立の苦労について活発な意見交換が交わされた。

登壇者は、以下の通り。

西村美香(アニメーション美術背景屋、美術監督)
西畑朋未(株式会社LuLaforte 広報・制作事務)
イシグロキョウヘイ(アニメ監督、演出)
川俣綾加(ライター/編集者)※モデレーター

子育てとアニメ制作両立の現実

本セッションは、まず登壇者の自己紹介と現在のステータスの話から入った。

美術監督の西村氏は、41歳の時に双子を出産し、今は3歳の2人の子育てをしながら美術監督の仕事をしているという。近作は『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』(デデデデ)。イシグロ氏はフリーランスのアニメ演出家で4歳になる息子が1人、夫婦ともにアニメ業界で働いている。西畑氏は動画や仕上げを主に請け負う株式会社LuLaforteの広報・制作事務を担当。異業種からアニメ業界に転職され、子どもが4人いるとのこと。

イシグロ氏は、「子どもが生まれればそれ以前の仕事のやり方は通用しなくなる」と語る。保育園などの通園に合わせて仕事のスケジュールを調整して仕事をするし、土日の稼働もできない。制作進行にもそのことを最初に伝えるそうだ。イシグロ氏は、監督の業務量は多いため結局子供を寝かしつけた後にも作業をすることが多いが、監督という立場は他のスタッフよりも融通が利きやすいので休むと伝えることにためらいはないという。

イシグロ氏の場合、パートナーもアニメ業界で働いているので、「お互いどう忙しいのか、スケジュール表を見ればすぐにわかる」そうで、互いの状況を汲んで時間のやりくりをしているという。

西村氏はフリーランスの美術監督として、基本的に自宅で作業しているという。ちょうどテレビシリーズの仕事が終わった辺りで臨月となり産休に入れた。西村氏は双子を出産したため、子育ての苦労も倍あるようだ。片方の子が熱を出しかと思えば、治りかけの頃にもう1人が熱を出し、最終的には家族全員に症状が出てしまうことがあったそうだ。

現在手がけている『デデデデ』については、制作会社Production +h.の代表・本多史典氏も子育ての真っ最中だそうで、その分西村氏の状況にも理解が深く、「子育てしながら乗り切る方法を会社と一緒に考えよう」と声をかけてもらえたという。

この制作で取り組んだのはチーム作りだという。美術監督としてチームみんなが快適に仕事をできる環境作りを考えたとのことで、互いが苦しい時に助け合えるようにしていったそうだ。美術チームは他にも子育て中のスタッフや、制作期間中に妊娠した方もいたとのことで、子育てが身近な中での仕事になったという。西村氏はこういうケースは幸運だと語った。しかし、そうしたチーム作りをしてもなお、日中の労働時間中に子どもを見ないといけない時もあり、こぼれた仕事を夜中にやることがあるという。

西畑氏は、会社の広報という立場だ。プラスチック製造会社の営業から現在の会社に転職し、今は4人の子ども(11歳、5歳、4歳、1歳の4姉妹)を育てている。

西畑氏の会社LuLaforteは主婦で構成された会社だ。稼働時間は午前9時から夜の9時までをきっちり守る会社だそうで、その時間でそれぞれのスタッフが自由に労働時間を選べるようにしているという。会社代表以外はみな子育て中だそうで、こういう環境では、子どもに突発事態が起きても、気軽に急な休みが必要と言い出せるという。「弊社はみんながママなので、お互いさまの精神で仕事している」と西畑氏は語る。

この会社の特徴は、日本のアニメ会社としては珍しく託児スペースを用意していることだ。西畑氏は現在の会社に所属してから独学で保育士の資格を取得したそう。託児スペースはスタッフたちの作業部屋とは別室にしているため、子どものいたずらなどは防げているようだ。

子育ては大変、それでも楽しい

話は子育ての苦労や状況から、自身の健康を保つためにどうするべきかに移っていった。子育てもアニメ制作どちらも重労働であるため、体調を崩すことは多いだろう。

イシグロ氏は整体に通い始めたという。年齢的な面もあり、身体のメンテナンスを意識的に行わないと続かないことを痛感したそうだ。西村氏の場合は、美術の仕事は座りっぱなしのため、送り迎えの時に運動するように気を付けているとのこと。30分くらいの道のりで坂道もあるため、そこで適度に運動するように心がけているようだ。「3歳のわんぱくな子ども2人を相手にできる体力が欲しい」と西村氏は言う。西畑氏は運動な特別は行っていないが、気持ちを整える意味で夕食後に晩酌を欠かさないそうだ。

3人とも全体的にデスクワークならではの辛さを抱えており、子育てをしながら仕事を続けるための体力と気力作りに励んでいるようだ。

そして、「アニメ業界で子育てしながらより働きやすくするために何が必要か」との問いに、西村氏は「働きやすい時間に働けるようにする環境を作ること」と挙げた。西村氏は、コロナ禍での出産以前は会社に出勤して仕事していたが、復帰後は自宅でのリモートワークが主体になったそうだ。この方が子育てと仕事は両立しやすいという。『デデデデ』の美術チームはみなリモートワークだそうで、それぞれが働きやすい時間に作業してもらうようにしているという。「自分の生活をベースにしてほしい」と西村氏はチームに伝えているとのこと。

イシグロ氏は、業界全体で子どもを持つ人が増えるといいと語った。「(子育てという)状況の共有に勝るものはない」とイシグロ氏は言う。西畑氏の会社のように、子どもが熱を出した時に「迎えに行く」と言える環境が一番仕事しやすいのではないかと感じているようだ。

西畑氏の会社は、みなが子育ての状況を理解しているため、イシグロ氏が言うような状況の共有ができている。しかし、そうした気持ちの面では働きやすいが「ママアニメーターの収入がまだ低いため、低賃金を理由に諦めてしまう人もいる。子育て支援金や急病の時に預けられる場所があるといいのでは」と語る。

最後に、子育ての苦労だけではなく、楽しいことについても意見が交わされた。

西村氏は、「子どもを作ることは、人間にとって最大のクリエイティブ活動だと思う」と語る。自分から生まれてきた子どもが豊かに育っていくのを見られるのは、何にも代えがたい幸せで、アニメ作りと同じくらい楽しいことだという。

イシグロ氏は、子どもはアニメ制作者として作画の参考にもなると語る。歩き方や言葉の詰まり方など、参考になることがたくさんあるという。また、イシグロ氏は子どもを持ってから、宮崎駿監督の『となりのトトロ』の観方が変わったそうだ。親になって、あの映画での子どもたちがいかに子どもらしく描かれているのかに気づかされたとのこと。

そして、西畑氏は「子どもはとにかく可愛い、仕事で嫌なことがあっても癒される。大変な時もあるけど、自分にとっては癒しでしかない」という。

アニメ業界の子育て事情が語られる機会は少ない。今回、登壇された方の話からは、今後アニメ業界全体が仕事と生活のバランスよい両立をいかに実現させればいいかのヒントがたくさんあったのではないだろうか。

《杉本穂高》

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杉本穂高

映画ライター 杉本穂高

映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。