日本国内の動画配信サービス市場において、Netflixに次ぐ業界2位の位置についたU-NEXT(※GEM Partners 調べ)。2019年以降5年連続でシェアを拡大し、Paraviとの統合も追い風になっている。
U-NEXTの代表取締役社長である堤天心氏は、現状と今後をどのように捉えているのか。ロングインタビューで展望を語っていただいた。
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「各ジャンルでトップを目指す」U-NEXTの強み
――U-NEXTはシェア率を5年連続で伸ばしていると聞きました。コロナ禍の巣ごもり期間で伸びた部分もあるかとは思いつつ、終息しつつある状況でも成長している要因はどこにあると考えますか?
基本的には、取り扱っている作品数やジャンルを拡張してきたことがまず挙げられるかと思います。かつ、広げていくなかでも「このジャンルで一番整っていて魅力的なのはU-NEXT」と思ってもらえそうなジャンルを優先的に取り上げてきました。昨今ですとParaviさんを含めて「ドラマを観るならU-NEXT」でしたり、スポーツや音楽にも力を入れています。スポーツにおいても強いシェアを取れそうなジャンルにフォーカスして格闘技、ゴルフ、ヨーロッパサッカーに注力しています。そういった形で、それぞれのジャンルに一定の興味や感度のある方にOTT(オーバー・ザ・トップ)サービスの中で我々を選択いただき、この結果につながったのではないかと思っています。
――コロナが明けてフィジカルな行動が増えてきた印象ですが、U-NEXTのユーザーの利用時間に変化はありましたか?
コロナ禍よりは一人当たりの利用率は下がっていますが、これはもうインターネット全体のトラフィックも同様かと思います。ただ、コロナ前と比較して下がっているわけではありません。あくまでもコロナ期間はイレギュラーと捉えています。それに、例えばミュージシャンの方々も「もうリアルのライブしかやりません」とはなっていませんよね。いい意味でリアルとデジタルのハイブリッドが浸透してきていますし、新たなファン層の獲得を考えているなかで既存のファンはリアルで、新規のファンはデジタルでというアプローチがデフォルトになってきているように捉えています。
消費者サイドもそうした使い分けに順応してきて、自分が好きなものに対しては惜しみなく時間とお金を投資して“推し活”を行いつつ、ファンになる接点がより多面化してきたように感じます。デジタルとリアルが相互に補い合うという意味で、成熟してきたともいえるのではないでしょうか。5・6年前だと「配信が出ると映画館に来る人が減るんじゃないか」という声が出ましたし、海外だとそういったデータも出ています。ただ、日本は比較的映画館が強くて、むしろコロナ前の状態に戻りつつあります。消費者も映画館で映画を観る体験とデジタルで映画を観る体験を違うものとして楽しんでいる印象もあります。映画館でまず観て、デジタルでもう一回観る方もいらっしゃいますし、相互に協力していけたらと思っています。
――そもそも「各ジャンルでトップを目指す」ができる取り扱い領域の広さが、U-NEXTの強みでもありますね。
他社さんの戦略は我々にもわからないところはありますが、推察するに、いまお話ししたような観点はあまりないように感じます。どちらかといえば、魅力的なオリジナルコンテンツを制作する・独占コンテンツを集めるというところに重きを置いているのではないかと。
勿論我々にもその意識はありますが、「市場」という形で見たときに当該ジャンルごとのシェアを非常に重視しています。その中で少なくとも1位・2位に入らないとユーザーさんの選択肢から落ちてしまうという危機感もあるものですから、そのポジションが取れるところに優先的に投資してきました。
――ユーザーのニーズ等は、どのように調査しているのでしょう。
科学的にリサーチしているわけではありませんが、例えば映画であれば競合の配信サービスでどれくらい観られているのか、TVOD(都度課金)でどれくらい売れているのか等をヒアリングしたり仮説を立てたりして、作品の質・量を含めてどこを強化していこうかと日常的な営みの中で話し合っています。
我々の体制もジャンルごとにチームが分かれていて、少なくともワンツーのポジションが取れるかどうかという意識を基に、様々な精査を行っています。残念ながら取れそうにないジャンルにおいては優先順位を落とす判断もありますし、取れそうであれば強化していく形をとっています。それぞれのジャンル担当者は、権利元やスタジオプロダクション、ユーザー市場を想像しながら各々個別に戦略を立てて取り組んでいます。
――U-NEXTのコアユーザーの中でも「何を観ているか」はバラバラ、というのは面白い特徴です。
元々は映画で1番を目指していて、これまでにもシネコン各社との連携を強化し、新作映画をポイントで観られる取り組みを行ってきましたが、ユーザーがちょうど200万人に突破したときにTOHOシネマズさんと連携することができました。競合他社さんがどちらかと言えば映画よりドラマシリーズに注力されている印象もありましたから、チャンスがあるとにらみレンタルビデオの大型店のような存在を目指して映画を強化してきたのが、5年以上前からの動きです。次に、アニメ。アニメは新作のニーズが高いものの、古い作品でも十分数字が取れるため、映画とアニメに関しては新旧問わずに品ぞろえナンバーワンを目標にしてきました。
コロナでデジタルサービスへのシフトが全体的に加速したのは事実ですが、裏返しでいうとそれまで勢いがあったレンタルビデオの市場の潮目が完全に変わった。レンタルDVD等を通じて映画やアニメを観ていた方がデジタルに移行し、その受け皿になりえたことでコロナ禍でもシェアを伸ばせたのではないかと思います。
そこから映画・アニメに続く注力ジャンルを開拓していくためスポーツを強化し、Praviさんと統合したこともあってドラマも伸びている、という現状です。
Paraviとの統合、『VIVANT』の大ヒット
――Paraviとの統合による変化、もう少し教えて下さい。
先ほどの理論でいうと、我々はParaviさんと一緒になる前は国内のドラマやバラエティの優先順位を大きく落としていました。その理由は、テレビ局さんが非常に得意とされているジャンルだからです。逆にParaviさんは「ドラマを観るならParavi」というようにフォーカスされた戦略を取られていたので、両者がくっつくことで映画もアニメもドラマも楽しめるような我々が目指す完成形の一つになれるのではないかと期待もありました。
去年の7月からサービスを開始しましたが、いきなり『VIVANT』が大ヒットしたことで統合前に期待していた以上にユーザーさんの満足度、エンゲージや新規ユーザーの促進効果が出ている手ごたえは感じています。
――先ほどの「レンタル層が移行している」点ですが、アナログ世代がデジタルに慣れるための工夫についてはいかがですか?例えば、操作性のしやすさなど……。
ユーザビリティに関しては組織としても力を入れています。専任スタッフが社内にいて、アクセスデータやユーザーのアンケート、SNS等の声やカスタマーサービスに寄せられた意見を参照しつつ、UIの操作性を日々アップデートさせています。
競合他社さんのいいところを学ぼうという意味でのベンチマークも含めて細かく改善案を出して、文言の“てにをは”レベルのものからチューニングしています。まずはネガティブな声をなくせるようにしつつ、操作性が原因でドロップアウトする方がいないようにとは日常的に意識しています。
――デジタル移行のためのアプローチについてはいかがでしょう。
デジタルとリアル、両方の接点を重視しています。リアルでいうと映画館や家電量販店経由で加入が増えていますが、そのひとつがテレビ購入です。昔だったらテレビをネットにつなぐのがマイノリティだったのが、この5年でテレビを買ったらネット機能は大体ついている状況にまで変わりました。それに伴ってインターネット経由のコンテンツをテレビで観る消費行動が一気に普及し、市場全体の底上げにつながっていきました。
「テレビの大画面でインターネットコンテンツを楽しもう」という文脈のマーケティングも盛んになってきましたし、消費者がテレビを購入するモチベーションの一つにまで成長してきた印象です。個人的な感覚ですが、約10年前のスマートフォンの普及はメガインパクトでしたが、次のインパクトはコネクテッドTV(CTV)ではないかと思っています。
デジタルでいうと、我々はデジタルマーケティングに最も力を入れています。オリジナルドラマ制作やテレビCM、街頭広告というよりは地道に細やかなデジタルマーケティングを日々行い、認知を少しずつ上げています。いまや、10~20代の若い世代がスマホを購入すると同時にOTTサービスに加入するのも一般的ですから、「入る/入らない」ではなく「何に入るか」の中でタッチポイントを増やしていく意識はしています。
ただやはり、テレビのリモコンで楽しんでいらっしゃる一部のシニア層の方々をどうデジタルシフトできるかは、ずっと考えている課題の一つではあります。
スポーツと音楽を拡充したい
――先ほど「完成形」というお話がありましたが、今後拡充したいジャンル等はございますか?