U-NEXT映画部が築く、映画会社との信頼関係。16,500本の映画見放題ラインナップの秘訣・映画館と配信の共存について今思うこと

エッジの利いた作品ラインナップや、劇場作品の出資、ポイントの映画チケット引き換え等々、映画ファンの支持を集めるU-NEXT。“中の人”はどのような思いで活動を行い、ビジネスとして成立させているのか?映画部長の林健太郎氏に話を伺った。

映像コンテンツ 動画配信
U-NEXT映画部が築く、映画会社との信頼関係。16,500本の映画見放題ラインナップの秘訣・映画館と配信の共存について今思うこと
  • U-NEXT映画部が築く、映画会社との信頼関係。16,500本の映画見放題ラインナップの秘訣・映画館と配信の共存について今思うこと
  • 「A24の知られざる映画たち presented by U-NEXT」
  • U-NEXT映画部が築く、映画会社との信頼関係。16,500本の映画見放題ラインナップの秘訣・映画館と配信の共存について今思うこと
  • U-NEXT映画部が築く、映画会社との信頼関係。16,500本の映画見放題ラインナップの秘訣・映画館と配信の共存について今思うこと

エッジの利いた作品ラインナップや、劇場作品の出資、ポイントの映画チケット引き換え等々、映画ファンの支持を集めるU-NEXT。

12月22日からはA24の日本初上陸作計11本を配給する特集上映が始まるなど、独自路線を突き進んでいる。“中の人”はどのような思いで活動を行い、ビジネスとして成立させているのか?映画部長の林健太郎氏に話を伺った。

林健太郎氏。

“いい映画”を全部集めるために奔走

――まずはU-NEXT映画部について教えて下さい。どういったチームなのでしょう。

U-NEXTは映像だけではなくコミックや雑誌など多数のジャンルを展開しており、それぞれに「何を配信するかを判断して、編成を考えて調達する」チームがいます。映画部においては、洋画と邦画の編成調達全般を見ており、出資して映画製作に参加することも行っています。現在のメンバーは4人です。

――皆さん配給会社のご出身なのでしょうか?

いえ、若手ふたりは新卒入社で、私もギャガ出身ではありますが配給ではなく雑誌部門でした。

――新旧問わずコアな作品も網羅されているので、映画業界ご経験者の方が多いのかと思っていました!U-NEXTの特徴である作品の多様性は、どのようにして成しえているのでしょう。

4人で話し合って決めていきますが、基本的に「いい映画は全部集めよう」という、それだけです。現在は100社以上の映画を扱う企業と取引していますが、全ての会社からリストをいただいて選んでいます。

――U-NEXT内で人気の映画のジャンルなどはありますか?

基本的に二次利用で人気のものは決まっていて、アクションやホラー、サメ映画だったり車がぶっ飛ぶような映画ですね。これらはどの配信プラットフォームでも人気です。その中で我々が特殊なのは、映画ファン向けのしっとりとしたものや少しわかりづらい内容の映画であってもちゃんと観られていることです。取引先の会社さんからも「意外だね」「助かっている」と言われますし、映画ファンの利用者が一定数占めているからこそだとも思っています。

2023年映画 レンタル部門の人気作品ランキング。

――U-NEXTが「最速」や「独占」を多数勝ち得ているのは、そうした積み上げがあるからなのですね。

そうですね。取引先の映画会社さんに信じていただいている部分ももちろんありますし、こちらからもお話しに行きます。お互いに「これをやってほしい」「これをやりたい」と言った積み重ねがあって、実現数が増えてきています。出資作品だと脚本が出来上がるかどうかくらいのタイミングで手を挙げるものもあります。出資するか否かの判断を行う際、普通はキャストが優先順位の最初に来るかと思うのですが、我々の場合は監督と脚本、あとはプロダクションなどを重視しています。そういったものが結果的にレビューサイトで高評価になったり映画賞を受賞しているといった感じでしょうか。

いまや、基本的にいい映画じゃないとヒットしない状況になりましたし、いい映画であってもヒットできないものも相当増えましたよね。そんななか我々はヒットの有無にかかわらず、いい映画だと信じるものは拾い上げたいと思っています。ヒット作を取りに行くのは当たり前の仕事なので、映画文化や映画産業を守るためにも「ヒットしなかったけどきっと刺さる人がいるはず」というものは網羅できるように心がけています。

ハート面とテクニカル面の両方を掛け合わせて多様なラインナップを実現

――コストコントロールはどのように工夫されているのでしょう。

まさにそこが調達チームとしては腕の見せどころであり、難しいところでもあります。100社を超える映画会社さんと粘り強い話し合いをするのが大前提ではありますが、ハートの面とテクニカルな面の両方を掛け合わせて実現しています。

いい映画だけど観られる保証がないならば、高い金額はなかなか出せないのが実情です。とすれば当然、こちらが提示した金額と向こうの条件面が合わないことも出てきます。そんなときによくお伝えしているのは「長い目で見て下さい」ということ。他のプラットフォームが割と短い期間の契約をして「観られなかったらスパッと終わり」という判断をすることが多いのに対して、我々はそれをしません。一生この映画をやらなければならないと思っているから貸してほしい、というようなことを伝えて、じわじわと金額がフィットしていくというパターンが多いです。

テクニカルな部分は複数本契約にして値段を抑えたり、いまお話ししたように契約期間を長くしたり……といったものですが、やはりハートの部分が重要なように思います。ここまで約束は破らずに来られていますし、先方も視聴回数自体はわかっているわけで、「それでも置き続けたい」という姿勢を信頼して下さっているパートナーが多い気がしています。

佐野(経営戦略室)1本の映画を置くと、配信するためのエンコードやクラウドのデータ容量も広がるため、維持費という意味で「作品数を増やせない」というサービスは多いかと思います。そんな中で「ラインナップの幅が最重要」というスタンスは珍しいかなと感じます。

黒澤明監督は生涯に30本を映画を撮っていますが、権利の状況がややこしい『デルス・ウザーラ』以外の29本はU-NEXTで観られます。小津安二郎監督の作品も大量に揃え続けていますが、数字的に滅茶苦茶観られているかといえばそうではない。でも、置き続けることに意味があるんです。

私は昔レンタル店向けの雑誌を作っていたのですが、レンタル店の方が「年に1回しか借りられていないけどこの映画は置かないとダメなんだ」と話していたことを覚えています。正直、年に1本しか借りられない映画のために棚を空けておくのは非効率ではあるんです。でもそれをやる心意気に打たれましたし、ましてやU-NEXTの場合は物理的なスペースの問題があるわけではないので、続けていきたいと思っています。

――ユーザーからのリクエストも積極的に受け入れているのでしょうか。

はい。ものすごい勢いでいただいているので、4人でヒイヒイと嬉しい悲鳴を上げながら対応していますが(笑)、有難いことですし、なるべく応えたいと思っています。大元の権利関係に問題があってどうにもならない場合などもありますが、そうしたリクエストを持って各社と交渉をしています。

――地方出身者としては、県外遠征しないと観たい映画が観られないことも多くあるなか、U-NEXTはまさにそうした映画ファンのニーズに応えてくれる存在だなと。

ありがとうございます。映画館に行くのに高速道路を使って2時間かかるという方もいらっしゃいますし、となるとやっぱり映画館に行けるのが年に1、2回になってしまいますよね。どこでも観られるのは自分たちの優位性なので、様々な映画ファンの方にちゃんと届けられるようにという思いでやっています。

映画館と連携し、映画鑑賞の“習慣性”が途切れない仕組みを作る

――U-NEXTはポイントを劇場のチケットに変換でき、劇場と配信の共存を早い段階から模索し続けてきた印象です。劇場との連携といえば、12月22日から始まるA24特集上映「A24の知られざる映画たち presented by U-NEXT」も、全国5劇場での上映の後U-NEXT配信という二段構えなのはいち映画好きとして嬉しい限りです。

「A24の知られざる映画たち presented by U-NEXT」

(※「A24の知られざる映画たち presented by U-NEXT」 上映劇場でU-NEXTポイントをチケットに交換できるのは、ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷、大阪のシネ・リーブル梅田の3館)

A24特集上映に関しては、社内で「A24のことが大好きな映画ファンは相当数いるけど、日本に上陸していない作品もあるよね」という話になって、A24に聞いたら「これだけあるよ」と。そこで配信事業者としては当然「日本未上陸のものを配信でお届けします」という形でプロジェクトを進めていたのですが、これ勿体なくないか……?と。私自身もそうですが、絶対にスクリーンで観たい方はいるはずで、そのチャンスをどうにか作れないかと考えました。A24も理解を示してくれて、そして賛同してくれた劇場と共に計11本を劇場上映→U-NEXTで独占配信するという流れになりました。

――劇場との共同施策は、いつ頃から行われているのでしょう。

2013年にイオンさんと行ったのが最初ですね。映画館との共存は当時からU-NEXTがずっと大事に思っていたことでした。映画というのは習慣性のエンタメだと思います。観続ける人は観続けるし、1回止まったらそこで途切れてしまうことも往々にしてありますよね。習慣性を維持するためにも、映画館との共同施策は大変重要です。いまでは全シネコンをはじめ、全国の劇場で使えるようにカバー率を上げています。

我々は常々「映画は映画館で観るのがベスト」だと思っていますが、物理的な理由で映画館から足が遠ざかってしまったり、気づいたら上映期間が終わっていたこともあるかと思います。我々はなるべく早く、新鮮な状態で配信できるようにしていますので、値段は高いかもしれませんが観逃してしまったものはTVOD(都度課金)で観ていただけたらと思っています。

ここでなぜTVODなのか?というお話をしたいのですが、いきなり見放題(SVOD)にするのは結構危ないと僕は思っていて。コロナもあり、世界的に一度は「見放題でいいじゃないか」となったのですが、その揺り戻しがいま来ているように思います。映画が産業としてどう成り立っていくかを考えたときに、劇場公開とSVODしか作り手にお金を戻す手段がなくなるのはかなりまずい状況だと感じています。

そこでU-NEXTでは、基本的に新作映画は最初はTVODの形をとっています。色々な映画を生き永らえさせて多様性を守るすべだと信じてやっていますが、お客様からの「そもそも月額料金が高いくせにさらに課金させるのか」という声があるのも十分わかっています。ただ、劇場公開後にSVODしかないと、恐らく年間1,200本国内公開されるうちの上澄みだけを買っていくことになってしまう。つまり、そこまでヒットはしていないけれど重要な作品たちが生き残れない状況が作られてしまうわけです。その流れを何とか止めたくて、こうした仕様にしています。

そして、新作から時を経た映画のアーカイブに関してはトータルで16,500本ほど見放題にしていますので、図書館のような形で利用してほしい。そこで、様々な監督やキャストに興味を持っていただき、その人物の新作が公開されたら劇場で観てもらう――というような設計図を描いています。とにかく、習慣性が途切れないような仕組みを作っています

私たちとしては映画館が敵なわけはなく、そもそも映画って映画館がなければ単なる2時間の動画なんです。映画館があるから映画になるし、映画館がなくなってしまっては困る。これからももっと連帯を強めていきたいと思っています。

――2023年の動きのひとつでいうと、オウンドメディア「U-NEXT SQUARE」を立ち上げられました。

佐野U-NEXTの場合、新作を様々なメディアで取り上げていただくことは多いのですが、例えばネット上で「こんな作品があったんだ」と盛り上がるようなものはなかなか日の目を見ることが少ない状況です。そうした良い面をもう少し自分たち発信で行って、U-NEXTのサービスの補完になるような形で次に観る作品をどんどん提案できる場を作りたいという思いで、立ち上げました。

配信サービスのUIって結構シュッとしているので、例えばレンタル店の手描きのポップのような形で体温が伝わるような作品紹介をすることが難しいんですよね。「なぜこれを買い付けたのか、どういう思いでやっているのか」といったようなことを伝えられるメディアが出てきたのは、本当にありがたいです。


「A24の知られざる映画たち presented by U-NEXT」

12月22日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町・渋谷ほかにて4週間限定ロードショー。2024年1月26日(金)よりU-NEXTにて独占配信。

上映作品:『ショーイング・アップ』、『エターナル・ドーター』、『オール・ダート・ロード・テイスト・オブ・ソルト』、『アース・ママ』、『ファニー・ページ』、『フォルス・ポジティブ』、『ロー・タイド』、『スライス』、『ヴァル・キルマー/映画に人生を捧げた男』、『ゴッズ・クリーチャー』、『ザ・ヒューマンズ』計11作品

《SYO》

関連タグ

SYO

物書き SYO

1987年福井県生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌の編集プロダクション、映画WEBメディアでの勤務を経て、2020年に独立。映画・アニメ・ドラマを中心に、小説・漫画・音楽・ゲームなどエンタメ系全般のインタビュー、レビュー、コラム等を各メディアにて執筆。並行して個人の創作活動も行う。